●第191話 投稿者:HAMSTAR  投稿日: 1月30日(火)11時55分11秒  それは、一刹那のうちだった。人が感知出来うるその一瞬。  キンッ  空気が、凍った。そして、更に一瞬の静寂が駆け抜け―  ズンッ!  音にすれば、それはその程度のことにトーヤには思えた。それとも、いつもマリアが町中で魔法を暴発させることに慣れていたせいか、聴覚が突然の爆発に対応できたせいかもしれない。  ともあれ、トーヤが気づくと、クラウド医院は全壊していた。  壁という壁は全て消し飛び、天井も無くなっていた。瓦礫も辺り一帯に散乱していたが、とてつもない威力が叩きつけられたのか、粉々になっている。  そのおかげで瓦礫による外傷が大した事も無く、瓦礫に潰される事も無かったのだが。  ついでに言えば、トーヤがそれだけの事を確認できたのは自分が道の反対側まで吹き飛ばされていたからだ。  全身が痛い。あれだけの圧力を喰らったというのにこの程度で済んでいる事を喜ぶべきか、こんな目に遭った事を嘆くべきか。  そして、全ての破壊の中心に、例の記憶喪失の少女がいる。目をぱちくりとさせて、自分が起こした(そうとしか考えられない)破壊をぼんやりと眺めている。 「せ・・・せんせい〜〜ご無事ですか〜?」  声のする方に目を向けると、シュウがのたくたとやって来た。いや、のたくたというのは正しくない。もう、ズタボロといった様相だ。 「なんとかな。しかし・・・彼女は一体何者なんだ?大した詠唱もなしにこれだけの魔力を発動させるなんて」 「魔法、なんですか?」 「それ以外に考えられない。しかもこれだけの魔力を発動させてもなお本人はケロリとしている」 魔法、そして魔力は一度に大量に発動させると最悪命に関わりかねない状態に陥る。だというのに、彼女はこれといった異常も感じていないらしい。 「でもなんで魔法を?」  トーヤを助け起こしながら尋ねるシュウ。トーヤはなんとなく原因がわかっていた。 「それは恐らく・・・」  いいながら少女の方へと近づく。途中でアルベルトを発掘して。  アルベルトはすぐに気づくと、顔を怒りに歪めながら少女を睨みつける。 「こんのガキャアァァァ・・・いきなりなにをするか?!」 「仲良くするです〜」 「要するに、アルベルトとシュウの喧嘩が原因ということだ。彼女の前では仲良くしている事だな」  もうあんな目に遭いたくも無いアルベルトとシュウは、頷くしかなかった。 ●第192話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日: 1月30日(火)17時42分40秒 「わっ!」  ちょうどフライパンや大皿を重ねて持ち上げていたパティは、突然の振動にバランスを崩した。 つんのめり、転ぶことは免れたが、特大のフライパンが宙を飛ぶ。 「パティ、道路の修理終わ……」  その軌道上には、ドアを開けて入ってきたアーウィルが居たりする。 ゴッッ……! 「……痛い」  見事、眉間にヒットしたらしい。 「……普通、『痛い』では済まんと思うがな」  朝食をとっていたルシードが再度呆れる。 「何? 今の? 地震かな?」  とりあえず、自分の皿だけはキープしてテーブルの下に潜り込んでいたルーティが顔を出す。 「休火山が近くにあるからな。地震が起きても不思議は無い」  涼しい顔で緑茶をすすりながら、本を読んでいたゼファーがコメントした。  ……と、 「アーウィルさん!」  ドアを開けて飛び込んで来たのは…… 「あ、ディアーナ。どうしたの?」  アーウィルの天敵の片割れ、ディアーナだった。 「第三起……」 「やめなさい。店の中でそういうことは」  間髪容れず義腕<戮皇>を構えるアーウィルの後頭部を、パティがフライパンではたいた。 「……痛いじゃないか。…ってそんな場合じゃないな。ディアーナ、自分は誰が何と言おうと、 健康診断は受けないからな」 「今回はそれじゃありません。ちょっと手伝って欲しいんです」 「手伝う? それだったら、他にいくらでも頼む相手が居るような……」 「それが、今日に限ってみんな行方不明だったり仕事だったりで居ないんです」 「……一応、仕事の内容を聞こうか」 「医院が壊れちゃったので、片付けと修理を手伝って欲しいんです。アルベルトさんとシュウさんも居ますけど」  はあ…、とアーウィルは溜息をついた。 「?」 「……やっぱり逃げる。第三起動!」 「ああ! なんでですかっ!?」 「何かの隙に一服盛られて、健康診断されたら困る!」  無茶苦茶なことを言い、青い光と涼しげな破砕音とともに、空間を破壊してアーウィルは遁走した。 「面倒な……。大挙して来たならともかく、天使の一人や二人、自分が一人で軽く喰ってしまえるものを……」 『まったくね……。でも、来た目的が解らないし、そもそもたった一人というのが解せないわね』 「ああ。とにかく、あの出来損ないの羽箒の前に姿を現すわけにはいかない」 「……どうしましょうかね…?」 「……修理するしかないだろう」  かなり憔悴した表情で顔をつき合せるアルベルトとシュウ。  状況が解っているのかいないのか、この破壊の張本人はそんな二人をニコニコと笑いながら見ている。  ひくり、とアルベルトのこめかみが痙攣した。 「……アルベルトさん。気持ちは解りますけど、ここは大人しくしていたほうがいいですよ」  いい加減、悟った表情でシュウが言う。 ●第193話 投稿者:タムタム  投稿日: 1月30日(火)20時25分40秒 「まだ行くのか〜?」  ディムルは疲れたような声を目の前を歩く二人に掛ける。気分としては『さっさと帰ろうぜ』って感じなのだが、アーシィはどんどんと遺跡の奥へと歩いていく。その隣ではケインが辺りを見回しながら文句も言わず歩いている。何故だろう?やはり報酬が原因だろうか?  そんな事を考えていたら、目の前の二人が突然歩みを止めた。見ると、開けた場所にぽつんと石碑が立っていた。まだ最深部には達していないが、雰囲気からすると何か面白そうな事が書かれていそうな気がする。 「ケイン、ディムル、頼んだよ」  ディムルの耳が異常を捉え、それが何かと疑問に思った矢先の言葉だった。 「敵か」 「何か嫌な予感がする・・・」  ケインとディムルは呟きながら辺りを見回す。何処から来るのか、今一予測が出来ない。それだけ奇妙な感覚がまとわり付いて来るのだ。  にもかかわらず、アーシィは石碑を見上げると何やらぶつぶつ言っている。敵の気配に気が付いていながらこの調子、仕事と割り切っているのか、二人を信頼しているのか、はたまたその両方か? 「御使い、…裁きと平和、…二つの資格、…審判者、…偉大なる主」  ざっと見た所、そのような事が書かれている。おそらく、天使と神についての説明文の様な物だろう。少なくとも、未来を示唆した物ではない様だ。  それにしてもと、アーシィは思う。偉大なる主と書かれているが、あの糞の役にもたたない神の何処が偉大だと言うのだろうか?天使に付いては如何とも思わないが、気を付けないと神に付いて書かれた部分を破壊してしまいたくもなる。神に頼るという気が無い以上、彼が神聖魔法を使えないのは至極当然と言える。使えた方が不自然だろう。  (帰るのは明日になりそうだ)背後で戦闘の繰り広げられる音を聞きながら、最深部について思いを馳せていた。 「〜。何も思い出せないのです〜」  エンフィールドの街中を見回しながら、少女は困ったように頭を振った。今はローラと二人きりだ。アルベルトとシュウにはクラウド医院の後片付けをさせている。(ひでえ) 「こまったわねぇ〜」  困った所で状況は変わらないだろう。普通は。しかし、ローラの目は状況を変えてくれそうな人を二人捕らえていた。アレフとルーだ。良くなるか悪くなるかはかなり微妙な所だ。 「おお!麗しき人よ。貴方の美しさには天使すらも及ばない。一目見たその時・・・」 「…よくよく影響され易いやつだ」  片膝を着きながら、歌うように口説き始めたアレフに呆れながらルーが呟く。二人はリヴェティス劇場からの帰りなのだが、その事実と理由を知るものは誰も居ない。  だが、アレフの台詞も長くは続かなかった。大変なことに、少女が頭を抑えてうずくまってしまったのだ。 「頭が痛いのです〜」 「だいじょうぶ?アレフ君のせいかな?」 「アレフの所為だな」 「げげっ!うそだろ!?俺まだ何もしてないって!」  あんまりと言えばあんまりな出来事に、アレフの方が頭を抱えてしまいたくなった。 ●第194話 投稿者:YS  投稿日: 1月31日(水)02時01分26秒 「・・興味深い遺跡ですね・・」  今ロイは何処かの遺跡の中にいた。セリーヌを探してたどり着いたのだ。不思議なことにロイは道には迷うが必ず目的は果たす方向音痴だ。 すでにセリーヌは発見し、合流している。ポチもいるので多少のことがあっても大丈夫だ。  しかし、ポチには帰巣本能などはないし、セリーヌもロイも重度の方向音痴である。セリーヌの記録は知らないが、ロイは最高で40日迷ったことがある。その間、街らしい場所はまったく通らず、死にかけたところでエンフィールドにたどり着き、神父に拾われたのだ。  そして、今いる場所は偶然にもディムルやアーシィ、ケインのいる遺跡、それもかなり奥の方だった。 「・・えと、こっちの記述がこの部分と同じだから・・」  そう言いながら、遺跡の壁に書かれた文章や周りにある石碑の文、そしてロイ自身の知識から翻訳を始める。  研究者であってもかなりの時間がかかる解読を、ロイはまるで始めから読める言葉であるかのようにすらすらと読んでいく。 「・・神を意味する単語と天使、奇跡の内容からすると地震などの災害のようでもありますが・・悪魔の記述の少ない遺跡で、災害を起こす話が書かれているとはまた珍しい・・」 「まあ〜、神様のお話ですか〜」  セリーヌが口を挟んでくる。教会にいるため神に関する記述のことが気になったのだろう。  ロイにとって、神は存在しない者・・あるいは、何も出来ない者でしかない。  万能な力という物はその力の強さ故に神であろうと奮うことはできない。完全なものが不完全なものに干渉することは互いに影響するのだ。  だから神は天使を使い、奇跡を与える。ロイはそう判断している。  ただし、これは存在する場合の仮定に過ぎず、実際は神を信じていない。だが、ロイは神聖魔法を使うことができる。これはロイが神以外は認めているためだろう。 「他にどんなことが書いてあるのですか〜」 「・・また来るそうですよ、天使さんは・・」  曖昧に訳したことを伝える。正確に訳すこともできなくはないだろうが時間もかかるし、ロイは意味さえわかれば満足なのだ。 「それはすてきなことですね〜」 「・・そうかも知れませんね・・」 (・・天変地異を起こす天使の再来が、それほどすばらしいとは思えませんが・・)  胸中で付け加える。明確に災害を起こしたと書かれていないものの、力の強さは確実に並の人間以上だろう。・・純粋に力だというならセリーヌも人間とは思えないが・・それはあまり関係ない。 「・・あれ?こんなところにスイッチが・・」  他に面白そうな記述を探していると、スイッチがあった。 「なんのスイッチなんでしょうか〜」 「・・トラップですね、マリアさんの家で似たような物を見たことがあります・・」 「それでは気を付けないといけませんね〜」 「・・大丈夫ですよ、どうやらこの遺跡の防衛のための物のようですし、この周囲には罠が発動しそうな場所はありません・・」  そして、ふとロイの動きが止まる。 「・・この遺跡から出る時に罠が作動するのは危ないですよね・・」 「そうですね〜」  セリーヌも同意する。気のせいかも知れないが、ロイの顔に天使のような笑顔が浮かんだ。 「・・では、全部作動させて安全になってからここから出ることにしましょう・・」  ロイは問答無用で片っ端から罠を起動させていく。いつもより楽しそうに、天使のような悪魔の笑顔を浮かべた。  偶然この遺跡にたどり着いたロイ達はディムルやアーシィ、ケインが同じ遺跡に来ていることはもちろん知らない。 ●第195話 投稿者:HAMSTAR  投稿日: 2月 3日(土)16時06分25秒  白刃が宙をなぎ払い、槍の穂先が空を貫く。それだけで、そこにいたモンスターは絶命する。 「ふっ!」  白刃、すなわち唐突に手の中に具現化した長剣を操るのはケイン。剣にはなんらかの魔力反応があるのだが、その効果が判明しきれていないため、ただの剣として使用している。 「てぁりゃぁ!」  槍を操るのはディムル。そうスペースのないこの通路で槍を操る技量は、彼が槍術にも長けている事の証と言えた。 「大地の、咆哮!」  ケインが解き放った魔法は、地面を破砕、まるで大きな口を開けた獣のようにし、モンスターを殲滅させた。 「これで・・・終わりっと!」  ディムルの槍が、最後のモンスターを狩る。後には死屍累々と化した死骸が残る。いや― 「炎の、宴よ!」  ケインが放った局地的超高熱の炎が、死骸を塵へと返す。 「終わったようだね」  これは、今まで石碑を観察していたアーシィのものだ。 「ああ。で、そっちはなにか判ったのか?」 「まあね。これから町に帰ってゆっくりと考えるとしよう」 「うっし!んじゃ帰るとしようか!」  ディムルがそういった瞬間―  ガチッ  どこかで、なにかのスイッチが入ったような音をケインは聞いた。 「?」  見回すが、彼ら以外に周りにいる人間はいない。 「どうした?」 「静かに!」  そういうと、ケインは意識を静めていく。 (第一封印解放・・・周囲の状況確認を最優先に全身の感覚機能を増幅)  そうすると、いままで聞こえなかった声が聞こえてきた。 『・・・さて、これで罠のスイッチと思しきものは最後ですね』 『ところで、この遺跡に他に誰かいたりするでしょうか〜?』 『さあ?』 (ロイと、セリーヌ?それに罠って・・・)  そこまで聞くと、もう向こうの会話も終わったらしく、声は聞こえない。しかし、何かが動いているような音が変わって聞こえてくる。 (第一封印発動) 「聞いてくれ。この遺跡にロイとセリーヌがいる」 「なんだって?」 「しかも悪い事に、ロイが罠を発動させたらしい」 「・・・そういえば、アーウィルから聞いたんだけど、ロイはトラップの類が大好きらしいよ」 「・・・・・・・・・・・・・」  全員に沈黙が走る。 「ディムル」 「なんだよ、ケイン?」 「エンフィールドに帰るの・・・かなり遅れることになりそうだ」  このあと、三人は遺跡の入り口にたどり着くまでに、本気で数えるのも嫌になるくらいの罠にひっかかった。 ●第196話 投稿者:タムタム  投稿日: 2月 3日(土)19時21分59秒  空が白んで来た。暖かな光と爽やかに吹き抜ける風が疲れた身体に心地いい。…のだが、 「…みんな…無事かい?」  近くにあった岩にもたれ掛かりながら、今にも死にそうな声を出したのはアーシィだ。 「…何とか…」 「…無事と言えば無事だ」  ディムルは地面に座りながら、ケインも近くにあった石に座りながら疲れ切った声をだす。よく見ると、三人とも傷だらけだ。だがそれも仕方ないだろう。  解除できない罠が在るとは思ってなかった。が、それはどうやら間違いだったと思い知らされた。ここに在ったから。  その罠は近寄ったら発動する。遠くから破壊しようとしたら跳ね返って来るし、魔法で無力化しようとしても跳ね返って来る。そこで三人の取った行動は…罠の中を一気に突っ切る事だった。  結果として、それだけで一冊の本が書けるのではないか?と言ってしまいたくなるほど大量の、かつ、種類の豊富な罠の中を掻い潜るはめに陥ったのだ。 「よく、生きて帰れたよな…」 「おれも同感」 「まったくだね」  こうして三人は生きている事の素晴らしさを噛み締めながら、エンフィールドへの帰路へと着いた。ロイとセリーヌを遺跡に残したまま…。  そして、セントウィンザー教会では例の少女が眠っていた。これはクラウド医院が大破した為に他ならない。  部屋にいるのは少女だけ、ローラは自分の部屋で眠っているし、トーヤとディアーナもそれぞれにあてがわれた部屋で眠っている。夜が明けたばかりなので、誰かが起きてくる気配は無し。  その静寂の中、少女は夢を見ていた。だがそれは生まれては消えて行く淡い記憶。何かを見たが、その何かが判らない。強く意識しようとした為、浅い眠りが破られ意識が徐々に覚醒する。 「ここは…」  うっすらと目を開け、ゆっくりと辺りを見回す。以前にもこうした様な気がする。その時には確か、可愛らしい少女が目の前にいた筈だが…。と、突然様々な記憶が蘇って来た。 「そう…でした。わたしの役目は…」  呟いた彼女は今までとは違い、少女の様な雰囲気ではなく、落ち着いた女性の雰囲気をまとっていた。記憶が戻ったらしいが、何だか別人の様な気さえする。 「その前に」  目を瞑り意識を集中する。彼女が“見て”いるのは大破したクラウド医院の瓦礫の山だ。アルベルトとシュウが頑張ったらしく、瓦礫は一箇所に集められていた。記憶を失っていた時の事とは言え責任は取らなくてはならないだろう。  静かで澄んだ歌声と共に、その背に純白の翼が現れる。短い歌が終わると同時に翼は消え、彼女の“見て”いた瓦礫の山は元のクラウド医院へと変わっていた。 「これで良しっと、あの子も元気そうだし」  言って彼女は昔を思い出す。百年程前、不治の病の少女がいた。治してあげたかったが、それは『規則』により行う事が出来なかった。仕方なく、一人の人間を通じて少女を永い眠りへと誘った。  自分の目で結果を見に来たのだが、少女は幸せそうだった。辛い思いもさせてしまっただろうが、彼女は少女が元気になってくれた事が嬉しかった。  もう帰ろう。そう思った時、この部屋に近づいて来る足音がした。その足音はドアの前で止まり、続いてドアをノックする音がした。 「どうぞ」  反射的に答えてしまったが、もう遅い。ドアが静かに開かれ少女が顔を出す。百年前の少女―ローラ―が。 ●第197話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日: 2月 4日(日)09時58分54秒 「……あれ?」  ほけっ…、と数秒思考を停止させ、ローラは首を傾げ、次いで目をこすった。 「?????」  まじまじと少女の背中の翼を見つめ、もう一度目をこする。 「……あの…」  とりあえず何か言わなければと思い、声をかける。だが、ローラの方が早かった。 「なんか疲れてるのかな……。えーと、ちょっと幻覚が……。朝になったらドクターに診てもらお」  そのまま、ふらふらとした足取りで出て行ってしまった。 「あ……」  なんとなく心残りを感じたが、やはり大きな騒ぎにはしないほうが良いのだろうか……  ふう、と溜息をつき、何気なくこの街全体を探る。あの少女が住んでいるこの場所がどんな所か。 それを確かめたかった。 「……!」  ある存在を知覚し、少女の顔が強張る。 「これは……!」 (ずいぶん感づくのが遅かったな。気がつかないフリをしているのかと思ったが、まさか記憶喪失とは……。 世の中、いろんなことが起こる)  気づかれた。  こちらが相手の存在を感知すると同時に、相手もそのことに気がついたのだ。 (ちょっかいを出すな、と言われていたが、気づかれてはそういうわけにもいかん。 まあ、自分はどっちでも構わんがな。せっかく来たんだ。喰われていけ。あんまりおまえ達は美味くないが)  これは冗談だろう。だが嘘ではない。相手は自分達を“喰う”ことができる。以前、人間の感覚では遥かな昔、 の小競り合いでも何人かは喰われてその存在を消されたのだ。 (まったく世の中思い通りにはいかないな。おまえ達は満腹になるが、美味くない。 人間は美味いんだけどな。こちらは腹の足しにはならん)  さらに言えば、相手は天使を脅威だとはまったく思っていない。むしろ、人間などの種族に脅威を感じているようなのだ。  理解できない。その事実自体が、自分達にとって脅威なのだ。 「何をするつもりです?」  相手はこちらをナメ切っているが、弱気を見せてはならない。 (ふむ……)  考え込む気配。 (どうやら、本当にこの前とは別口らしいな。なら、別に君をどうこうしようとは思わない。 無関係なら、自分にとっては存在しないも同然だ。好きにするがいい。教会で祈りを捧げようと、 ローズレイクで泳ごうと、そちらの勝手だ) 「………」  どうやら、無関係なことには一切干渉しない、という話は本当らしい。言葉にも嘘は感じられず、 信じていいだろう。  別に不倶戴天の敵、というわけではないのだし。真っ向から対立する悪魔とは違う。過去の戦いも、たまたま利害が対立した結果だ。 (じゃあな。道ですれ違っても、撃ってくるなよ。腹が減るだけだぞ)  これを最後に、相手の気配は消えた。 「ふう……」  肩の力を抜く。相手……あの<コードΩ>と話したのは初めてだったが、ひどく精神的に疲れる。  ……と、 「やっぱり幻覚とは思えない!」  バタン、と音を立ててドアを開け、再びローラが入ってきた。  因みに、背中の翼はまだしっかりと出ていたりする。 ●第198話 投稿者:タムタム  投稿日: 2月 8日(木)20時36分21秒 「……」 「……」  沈黙が流れる。ローラは彼女の背中に視線を注いだまま、彼女はローラの顔を見つめたまま身動きしない。彼女の胸中では様々な言葉が浮んでは消えていく。かける言葉が見つからない様だ。  先に口を開いたのはローラだった。 「きれいな翼…」  幻覚では無いと理解した途端、思わずその翼に見惚れてしまっていた。そして、一つの単語が脳裏に浮ぶ。ローラの知る限り、背中に翼を持つ種族は一つだけ。確信めいたものを持ちながら、恐る恐る口を開く。 「もしかして、天使さま?」  その問いに、少女はちょっと困った笑みを浮かべながら頷いた。この状況で『違います』と言った所で説得力は無い。騒ぎにしたくない以上、彼女に取れる手段は一つだけ。 「お願いがあるんだけど…この事は内緒にしてほしいの」  人差し指を口に当てながら、ちょっと首を傾げて甘えた様な声を出す。並の男…どころか、大抵の男ならそれで事は済む。だが、ローラは女だ。しかも子供だ(笑)。でも、こっくり頷いた。 「ねぇねぇ。それよりも、ききたいことがあるの〜」  目の前の少女が記憶喪失だったという事を忘れて、ローラは色々聞き始めた。そして時間は過ぎていく……―  ―クラウド医院前― 「ようやく着いたか」 「トーヤさーん。治療〜」  三人はようやくここまで辿り着いた。もうそろそろ皆が起きて来る時間…だと思う。 「ん〜。もし、これでトーヤ先生が居なかったら…ディアーナちゃんが治療をするのだろうか…」 「!」  いきなりアーシィが不吉な事を呟いた。しかも、自分で言って後悔していたりもする。 「まあ良いや。俺はもう、怪我治ってるし」  見ると、ケイン一人だけ傷が回復している。何か卑怯だ…。 「大丈夫だろ」  ガチャ。ディムルが扉を開き、中に入る。新築の様に綺麗なのは気のせいだろうか?しかも、なぜか人の気配がしない。 「ん〜。とりあえず待たせてもらおうよ」  思いっきり違和感を感じながらも、彼らは椅子に腰掛け眠ってしまった。 「皆さん。ご迷惑をお掛けしました」  教会の玄関前。そこで少女は目の前の人達に深々と頭を下げた。目の前に居るのはトーヤとディアーナ。アルベルトにシュウ。そして、ローラだ。 「もう、無理はするなよ」 「お元気で」 「全くだ」 「えっと、道中お気をつけて」 「またきてね」  急に旅発つと言った少女へ口々に別れの挨拶を返す。(アルベルト以外は)  皆には『生き別れの弟を探している』と説明してある。記憶が戻ったばかりだからゆっくりしていけと言われても、彼女はそれを理由に断った。 「皆さん。さようなら…」  そう言うと、少女は踵を返し街の外へと歩き出した。―真実を知っているのはローラだけ―。 ●第199話 投稿者:HAMSTAR  投稿日: 2月 9日(金)12時05分48秒 「ふむ。あの羽箒め、町を離れるか」 『そりゃまあ、“私たち”がいることに気づいたら離れよう、って気にもなるでしょ?しかも思いっきり脅し文句だったわよ、あれ』 「自分としては普通なつもりなんだがな。それよりも『コードα』、あの羽箒の監視を続けているか?」 『そのつもりよ。彼らがなんの意味も無く地上に降りるなんてことはそうそう無いもの』 「頼むぞ」 『りょーかい』    ケインはふと目を覚ました。クラウド医院にたどり着いてそのまま眠り込んでしまったらしい。 (あんな目にあえば、うたた寝もするか)  そう思いながら、ゆっくりと視界をはっきりとさせていく。最初に目に入ったのは―鎌だった。 「?」  眉間にしわを寄せながら鎌の持ち手を目に納める。  全身黒尽くめ、鎌の刃だけが色を放っている。その目は圧倒的な優位を愉しんでいる。そして、その背中には、黒い羽根。コウモリのような、羽根。 「・・・悪魔?」  この上なく大雑把な気分でそう呟く。ついさっきまで天使がらみの遺跡にいたせいか、その対極にいる悪魔の存在もごくすんなりと浮んできた。 「ふん・・・眠ったまま死なせてやろうと思っていたのだが・・・致し方ない。その顔に恐怖を刻み込みながら・・・死ね」  長々としゃべり込んでいるその自称悪魔に対し、ケインがしたことは簡単だった。 「風よ、刻みながら吹き飛ばせ」  途端に、その悪魔は壁に叩きつけられ、更に壁をぶち破って通りまで飛ばされる。ついでに言えば、その全身を鎌いたちで切り刻まれていた。 「ぶふぉぉぉ?!」  全身から紫色の血を噴き出しながらもその悪魔は立ち上がった。 「なにすっかな?!俺は悪魔だぞ?!この世の闇を司る―」  よほどショックだったのか、口調すらも余裕無く変えてまくし立てるその悪魔を睥睨しながら、ケインもまた呟いた。 「第二封印解放」 「な・・・ヴァンパイアだとぅ?!」 「“ロード”の家系が1つ、『ツァルクハウゼン』の生まれだ」 「そんな!」  それ以上の議論をするつもりは無かった。一瞬で相手の懐へと飛び込むと、アッパーを叩き込む。  腹部から真っ二つに折れたその悪魔は天高く浮び― 「闇よ、虚ろなる黒よ。呑みこみ、虚無へと返せ」  悪魔を中心として発生した漆黒の球体が、悪魔を呑みこみ、そのまま消える。悪魔も消えた。  封印を発生させながら、ケインは次にどうするか考えていた。もっとも、こういった異常な存在に関してはあいつに聞くしかないのだが。 「アーウィルならなにか知ってるよな?あの人外魔境が知らない事なんて無いだろうし」  何かを呟き、壁を修復する。彼の魔力は、等身大くらいの大きさの穴ならば修復が出来るくらいに高くなっている。 「・・・ちっとは休ませてもらえないもんかね?」  呟きは、誰の耳にも止まらなかった。 ●第200話 投稿者:宇宙の道化師  投稿日: 2月10日(土)17時58分15秒 「どうも、面倒なことになってきたな……」  眼下にエンフィールドの街を見下ろし、アーウィルはぼやいた。  地上約五百メートル上空。  何の支えもなく直立し、前方を見据える。 『どーでも良いけど、そうやって浮いてるのも結構面倒なんじゃない?』  青い光がアーウィルの体を包み、絶え間なく涼しげな破砕音を響かせている。 『右腕部特殊兵装<戮皇>・第二起動 出力微小』  右の義腕に構えた、全長三メートルの大剣を軽く一振りし、周囲の大気を唸らせる。 「まあ、な。重力を"破壊"して浮くのは効率が悪いか、やっぱり。もともとこういう使い方をするものじゃないし」  前方に動きと、色が生まれた。黒。  無数の悪魔が、こちらを目指して飛んでくる。 『視覚素子・広範囲視覚強化確保 反射系直結 リミッターカット』 「雑魚ばかり、か。大物はいない。陽動の可能性もある。索敵を怠るな」 『はいはい。忙しいわね』 『現在の反射速度 通常の約三十五倍を計測』  鬱陶しげに眉を寄せ、アーウィルは呟いた。 「第四起動」 『右腕部特殊兵装<戮皇>・第二起動→第四起動 出力加圧』  独立構造になっている巨大な肩部外骨格装甲が展開し、青い光が溢れ出す。  それは義腕に構えた剣に吸い込まれるように纏わりつき、輝きを増す。 「まとめて潰す。……殲滅開始」  言うなり、大剣を思い切り横薙ぎに振る。  唸りとともに、全長五百メートル、幅五十メートルの、青い、巨大な鎌状の光が飛ぶ。 「!」  手に手に得物を持ち、こちらを目指していた悪魔の集団に乱れが生まれた。  慌てて回避行動をとり、その軌道上から逃れようとする。 「遅いな」  現在、人間の約三十五倍の反射速度を持つアーウィルには止まって見える。  巨大な光の鎌が、目標の空間に激突する。  空間が砕け、弾けた。  そしてそれだけでは終わらない。その周囲を形成していた空間に誘爆し、連鎖的に破壊を撒き散らす。  一瞬で、悪魔の集団全体を飲み込む光爆が出現した。 「ふむ、こんなもんだろう。時間と重力も誘爆させたほうが良かったかな?」 『やめといたら? 概念を破壊するのは一つで十二分でしょう』 「そうだな」  興味なさそうに応え、完全消滅した悪魔の集団の存在した場所を見る。これは、ほんの前哨戦に過ぎない。 「まあ、悪魔のほうが天使より面白いがな」 「なんでしょうね、これは」  ロイは首を傾げた。知識にないものだ。 「さあ〜〜。なんでしょうねえ〜」  のほ〜〜んとしてセリーヌが応える。  まあ、言ってみただけでまともな答えを期待していたわけではない。  透明な水晶球。そう見える。 「でも、これって透明と言うんでしょうかね…?」  たしかに透明のようだが、それにしては向こう側がまったく見えない。  だが、それでも不透明とはどうしても思えない。透明、という言葉以外が当てはまらないのだ。  しかし、透明ではない。断じて。 「うーん」  トラップの類ではなさそうだ。持って帰ろうか? ロイは自問した。