派遣業 急成長の影

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 当日のTV番組と表などの体裁・内容に少し違いがありますが、以下は、当日の原稿です。
視点・論点
「派遣業 急成長の影」
 2007年08月23日pm.10.50-11:00 NHK教育TV

視点・論点 「派遣業 急成長の影」

                           龍谷大学教授 脇田 滋
S.Wakita
 労働者派遣や請負などで働く人が増えています。近年、派遣業が急成長してきましたが、派遣で働く労働者の雇用や労働条件の劣悪さが大きな問題として注目されています。

 最近の問題の中心は、日雇派遣と偽装請負の二つです。

 まず、日雇派遣ですが、東京都労働局は、8月3日、日雇派遣の最大手企業であるフルキャストに対し、違法派遣を繰り返していたとして、300以上の事業所に1カ月、3支店には2カ月の「事業停止命令」を出しました。
 派遣業者に対する「事業停止命令」は2004年4月以降、3社目で、フルキャストの処分期間が一番長いものです。
 フルキャストでは、派遣が禁止されている建設、港湾、警備などの業務に労働者を派遣するなどの違法行為が問題になりました。
 また、日雇派遣大手のグッドウィルなどでも法的根拠がない賃金天引きがあったと問題になっています。

 もう一つの問題は「偽装請負」です。
 偽装請負とは、請負の形式をとりながら、実際には派遣と同様に、発注企業は指揮命令して労働者を働かせることを意味します。
 本来の請負なら、発注企業が労働者に直接の業務指示ができません。
 労働基準法、労働安全衛生法、派遣法などが定める派遣先責任を逃れることが偽装請負利用の目的だと考えられます。

 昨年、大手企業が、製造現場などでこうした偽装請負を利用して、労働者を低劣な労働条件で、違法に働かせていることが明らかになりました。
 請負労働者の多くが、フリーターと呼ばれる若い男性です。
 同じように働きながら正社員とは違って雇用が不安定で労働条件も劣悪です。
 企業が大きな利益をあげる反面、その足下で、多くの若者がまじめに働きながら報われることが少ない状況に追いやられています。
 格差社会やワーキング・プア生み出す背景に偽装請負があると思います。
 こうした偽装請負は、派遣法に違反する違法派遣であるとともに、職業安定法が禁止する「労働者供給事業」に該当するものと考えられます。

 2003年改正で製造業への派遣が解禁されました。
 しかし、製造現場では以前から請負労働者が多かったのですが、派遣解禁以降もその状況が変わらなかったことから、偽装請負の蔓延がかえって認識されることになりました。
 厚生労働省も、2006年になって、全国各地で偽装請負が問題になった請負事業者に対して、文書指導を含め行政指導を従来に比べてかなり積極的に行うようになりました。
 2006年9月には、監督指導の強化を各都道府県労働局に通知しました。
 そして、10月3日、大阪労働局は、製造請負で最大手企業であった「コラボレート」に対して、労働者派遣法に基づく事業の停止命令と事業改善命令を出しました。
 偽装請負で事業停止命令が出たのは労働者派遣法施行後20年を経過して初めてでした。

 1985年、労働者派遣法が制定され、翌1986年に施行されて今年7月で22年目に入りました。
 当時、職安法違反の疑いの強い業務請負が広がっていましたが、新しい法規制の下で、許可や届出といった要件を課して一定の派遣業務に限って適法化することが派遣法の目的でした。

 派遣法施行後、新たに派遣業が認められ急速に拡大してきました。
 最近10年間では、派遣労働者は3.5倍に、派遣実績のあった派遣元事業所は3.1倍、派遣先件数は3倍、売上高で2.38倍になっています。
 とくに、1999年の派遣法改正によって派遣業務が原則自由化されて以降の急増ぶりが際立っています。

 私は、派遣法施行直後から派遣労働をめぐる個別の相談を受けてきました。数千にものぼる相談例からは、派遣労働者の雇用や労働条件には深刻な状況があることが分かりました。とくに、派遣期間中途での解約、低い労働条件、派遣先でのイジメやセクハラ、権利行使の困難が際立っています。

 派遣労働者が無権利になる主な理由は、次の6点だと思います。

 派遣元と派遣先に使用者責任が分かれていること、派遣先で就労したときにだけ派遣元と雇用関係があるという登録型派遣が認められてしまったこと、派遣期間よりも短い細切れの短期契約が増えていること、派遣先従業員と同一労働でありながら、低い差別的な待遇であること、雇用保険・社会保険が派遣労働者には不利なままであること、労働組合への加入や組織が困難であることです。

 有給休暇など、労働基準法が定める最低基準の権利も、それを行使すれば、次の契約更新がされないのではという不安から、権利行使をためらう労働者が少なくありません。
 登録型の場合、派遣元が変わるたびに休暇日数がゼロにリセットされてしまいます。
 派遣法施行後、規制緩和一辺倒であったため、派遣労働の弊害是正はほとんどありませんでした。

 その結果、派遣労働が量的に拡大するなかで弊害も広がっています。
 とくに、99年派遣法改正の結果、単純業務での日雇い派遣が広がることになりました。

 日雇い労働は、不安定で劣悪な労働形態として、極限に位置するものです。
 戦後、雇用状況がきわめて悪かったとき、建築、港湾などの業務を中心に広がっていました。
 とくに悪質な仲介業者による弊害が大きく、職業安定法や港湾労働法の規制ができ、日雇い労働者に特別な失業保険や健康保険も制度化されました。
 その後、雇用状況が改善され、日雇い労働は徐々に雇用問題の中心から離れ、政府は日雇い労働者のための各種制度を縮小してきたと言えます。
 ところが、99年の派遣法大改正によって、単純労働での派遣や、スポット派遣を認める規制緩和が導入されました。 それが、現在問題になっている日雇い派遣が広がる背景になりました。
 日雇い労働者への保護を維持・強化して日雇い派遣を容認するのではなく、保護は縮小しながら、日雇い派遣を容認してしまった政府の責任が大きいと思います。
 日本の労働者派遣制度は、労働者保護という点では世界最低水準です。EU諸国では当然とされる派遣制度本来の内容を盛り込むことが必要です。

 とくに、同一労働同一待遇、派遣期間後の派遣先常用雇用などを明確にすることが重要です。

 当面の改善としては、少なくとも、派遣の弊害を一挙に拡大した99年改正前に戻すことを基本にした是正が必要です。
 このうち、日雇派遣・スポット派遣の廃止、専門業務への派遣業務限定は、法改正を伴う是正です。
 しかし、派遣労働者への社会・労働保険適用や、違反企業の許可取消、偽装請負受入企業の雇用責任は、現行法を厳格に適用すれば可能です。

 労働行政には、派遣労働者保護の姿勢を明確にして、監督や指導を強めることが大いに期待されていると思います。
年表1 年表2
派遣業の急増ぶり
派遣労働者が無権利になる理由
派遣をめぐる課題
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