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第50回  工房の 噂を信じちゃいけないよっ!

最初に輝豸雄がその噂を聞いたのは、
先週末だった。

”どうも、連載が50回になると、お祝いをするらしい” 
と云うのが、最初だったような気がする。

その後、
”工房のみんなでお祝いの為に、慰安旅行に行くらしい”とか、
”温泉に行くらしい”
”凄い料理を頼んだらしい”
”豪華な船盛りが出るようだ”
”いや、鯛の御頭付きが、みんなに振舞われるらしい” から、
”いや、鯛の尾頭付きが船盛りになって、出てくるらしい”
”いや、鯛の尾頭付きが船盛りになって、食べ放題らしい” となっていった。

さすがに、今の工房にそんな予算は無いだろうと輝豸雄は思っていたのだが、
周りの仲間が段々と盛り上がって行く様と観ていると、
「もしかしたら、」と思うようになっていた。


だから、昨日の夜、工房の仕事が終わった後で、くま旦那がみんなに、
「明日の夜はご馳走だよ。
 みんなの大好きなあの御魚を、ど〜んと御馳走しちゃうよ!」と笑った時には、
”あぁ、旅行は無くなったけど、船盛りかぁ、、、。”と思ったものだった。

勿論、今にして思えば、一度もくま旦那は
『鯛の尾頭付きが船盛りになって、食べ放題』とは言っていなかったのだ。

そして、今、輝豸雄たちは、現実を目の当りにして、
戸惑いと、興奮と、希望と、落胆を隠す事が出来なかったのである。


   

    そう、鯛焼きの船盛りが食べ放題 だったのだ。

とっても美味しそうに鯛焼きを頬張るくま旦那の笑顔を観ながら、
輝豸雄は、3匹目の鯛焼きを手にとって、
「頭から食べようか、尻尾から食べようか」と悩んでいた。

                                                   第51回に続く