番外編3(続・阿木燿子の巻+宇崎竜童/天からの贈り物)

湯淺隆

 「ALGO」制作最終日、阿木燿子さんの紫綬褒章が報じられた。まずは、その清々しい栄冠に、心よりお祝いの辞を申し上げたい。また、褒章直前、運気の熟したご多忙の最中、我々の無理なお願いを聞いて頂いたことに、あらためてこの場でお礼を申し上げる次第である。

 さて今回、阿木さんに訳詩を頼んだ「BONS TEMPOS」の邦題は「天(そら)に続く回廊」 阿木さんの解釈の大意は、いずれ順番が来る人生の運命の時、瀬戸際の人間が直面するであろう、本音と建て前が交錯するぎりぎりの心境を表現。まさに、阿木ワールドの真骨頂ではあるが、原詩を深く理解し「ファド」の美学の核心をも貫く見事な作品だ。大胆な私見ではあるが、いまここに「ファド詩」なるジャンルが生まれた、との思いにかられる。

 ところで、思い起こせば、阿木・宇崎ご両人には、古くから妙なご縁がある。

 阿木さんと初めて、お会いしたのはかれこれ20年近く前、京都・祇園ホテルでのイベント。
様々な出し物があるなか、阿木さんはメインのトーク・ゲストとしてお見えでいらした。私は、ファディスタ・月田秀子の伴奏を、そのイベントの仕掛け人でもあるギタリスト・中村ヨシミツと務めた。無論のこと、ポルトガルギターでファドを弾いた。その時には、十数年後、よもや阿木さんと「徹子の部屋」に出演するとは思いもよらなかった。

 宇崎さんとは、俳優として出演された映画「TATTOO 刺青あり」(監督・高橋伴明)の脚本が、私のいとこの西岡琢也(日本シナリオ作家協会理事長)だったこともあり、親近感を持っていた。無論「港のヨーコ〜」は衝撃的で、以前からもアーチィストとして特別な才能の人だと敬愛していた。また、新井英一さんと知り合った頃、宇崎さんが「宇崎竜童&ホームレス」というバンドをご一緒に組まれていたことを知り、何かとご縁を感じた。(ちなみに、このバンドのドラムスだった夢ミノルは、中学の同級生で現在は「大西ユカリと新世界」のメンバーだったりする)思い出深いのは、我々が音楽を担当した映画「エイジアンブルー」で、新井英一さんが「清河への道」を京都・磔磔で歌うシーンの撮影日の前日、宇崎さんのライブが、やはり京都・都雅都雅であり、会場へ新井さんとご一緒し、サプライズで新井さんが一曲歌い、翌日の撮影日には、宇崎さんが現場へ、ビールを山のように抱えて陣中見舞いと、なかなかよい風景があったことだ。その後も宇崎さんとは、折にふれてご縁に恵まれ、最近では、高倉健さんの「南極のペンギン(CD)」やテレビドラマ「砦なき者」の音楽を、お手伝いさせて頂くなど多大なご尽力を頂戴している。

 さて、今回の阿木燿子・訳詩「BONS TEMPOS」邦題「天(そら)に続く回廊」は、日本の「ファド詩(=ファド史)」の大きな布石となるだろう。まさに「ALGO」制作最終日、阿木燿子さんの紫綬褒章の吉報は、予感に満ちた天からの贈り物ではなかろうか。


その壱拾弐(マリオネットの巻/グランドーラ ヴィラ モレーナ)