さ迷い歩き 「生物界の深淵」 (1)
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0.はじめに (驚異の教科書 「大学生物学」)

 数年前から、DNA(遺伝子)とは何か?と興味を持ち、量子力学の勉強の傍ら、生物学の勉強を始めました。昨年(2016年)の12月26日付け報告において、DNA二重らせん構造と遺伝暗号情報(ジェームズ・D・ワトソンの「DNA 上・下」)について簡単にお話ししましたが、これからは、本格的な生物学の教科書を読んで、私なりに少し理解できた生命(生物)のトピックスをランダムに書き綴ってみたいと思います。

 読んだ本は、「アメリカ版 大学生物学の教科書: 第1〜5巻」(講談社ブルーバックス)です。各巻の内容は次の通りです。
   第1巻:細胞生物学、第2巻:分子遺伝学、第3巻:分子生物学、第4巻:進化生物学、第5巻:生態学

 ブックカバーには、本当かどうか知りませんが、”MIT(マサチューセッツ工科大学)の全学生が学ぶ世界基準の生物学教科書!”とあります。新書版サイズですが、第1、4巻は各300ページ、第2、3巻は各400ページもあります。しかし、この教科書はカラー版で、図表と写真が豊富で、大学1、2年生でも理解できるように丁寧に編纂されているように思いました(他の生物学教科書を見たことがないので比較しようがありませんが)。物理学科の学生向けの「ファインマン物理学: 第1〜5巻」も素晴らしい教科書だと思いますが、こちらもそれに優るとも劣らず素晴らしい教科書のように思いました。大学時代に学んだ?生物学の教科書は全く覚えていませんが、無味乾燥な本だったように思っています。現代の大学生は、素晴らしい教科書に恵まれているのだと思い、羨望の気持ちが生じました。

 内容は、比較的平易に書かれているので、物理学ほど難しくはないように思いますが、それでも化学の知識がないと理解に苦しむことが多々あるかもしれません。しかし、カラー版の図表や写真が豊富なので、一般の人が軽く?読み流すこともできるのではないかとも思います。読破できれば、何とか最新の生物学の発展状況が理解できるようになるかと思います(ブルーバックスの他の生物学関連の本もかなり多く読みましたが、素人の私には生物学の全体を展望することができませんでした)。

 今後、章ごとに思ったこと、驚いたこと、不思議に感じたことなどを、気ままに書いていきたいと思います。

                                                                    2017年6月26日

    目  次

第01章: 細胞:生命の機能単位  
       2017年6月26日
第02章: ダイナミックな細胞膜   
       2017年7月10日
第03章: エネルギー、酵素、代謝        
2017年7月24日
第04章: 化学エネルギーを獲得する経路   2017年8月06日
第05章: 光合成:日光からのエネルギー   2017年8月21日


第01章: 細胞:生命の機能単位      2017年6月26日                                     

 ”細胞”は誰もが知っていると思いますが、”細胞説”は生物学の第一の統一的原則ということだそうです。
  1.細胞は”生命”の基本単位である、2.すべての”生命体”は細胞から構成されている、3.すべての細胞はすでに存在している細胞から生じる

 細胞には、”原核細胞”と”真核細胞”とがあり、それぞれ”原核生物”(いわゆる単細胞生物)、”真核生物”(いわゆる多細胞生物)を構成します。もちろん、”ヒト”を含めて動物や植物は真核生物で、進化した生物となります。これらの細胞は、”細胞膜”という生体膜で覆われていることもご存知の方は多いかと思いますが、この細胞膜が驚異的な機能を持っています。細胞膜は、すべての生物(細菌からヒトまで含めて)で同じものであり、リン脂質の二重層で構成されているそうです。

 細胞(以降は真核細胞を意味する)は、その中に”細胞核”や最近時々見聞きする”ミトコンドリア”などの”小器官”(植物の”葉緑素”も小器官の一つです)を含んでおり、それらも細胞膜と同様な膜で覆われて区画化されています。遺伝子情報を含む”DNA”は”核”に含まれ、そこで複製されます。ミトコンドリアは”核質”(細胞内の核を除いた部分)にあり、エネルギー(”ATP”)を生産します。その他多くの小器官があり、それぞれ密接に連携しながら驚異的!!な生命活動を行っているとのことです。ここでは、これ以上の説明はできませんが、この細胞、細胞膜、小器官の研究は、”電子顕微鏡”の発展によってもたらされたものです。電子顕微鏡は、もちろん”量子力学”の実用的成果の一つと言えます。
 *山科正平著「新細胞を読む」(ブルーバックス)に、細胞とその小器官の電子顕微鏡写真がたくさん掲載されていますので、読んでみるのをお勧めします。

 生命は、原核生物から始まり真核生物(その頂点がヒト)へと進化したと考えられていますが、どのようにして最初の生命(原核細胞)が生まれ、なぜ真核細胞へと進化したのかなどは、いろいろ諸説がありますが、まったくわかっていません。これからも、物理学を含めて科学は”なぜ?”という質問にはなかなか答えられないのではないかと思っています。

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第02章: ダイナミックな細胞膜        2017年7月10日

 前回も少し触れましたが、”細胞膜”は単なる風船のような”膜”ではなく、細胞が細胞機能を働かせるための驚異的な機能を持った”生体膜”です。生体膜は”リン脂質”という脂肪酸鎖が二重に並んだ”二重層”からできています。そして、その膜にいろいろな機能を持ったタンパク質が埋め込まれており、細胞膜を通して生体に必要なイオンや分子などを往来させているのだそうです。また、二重膜の間は流動的であり、かの有名な”コレステロール”分子もこの膜の間に存在しているそうです。

 多細胞生物は、当然多くの細胞から構成されているわけですが、同一の機能を持つ細胞が集まって”組織”を構成します。そのような場合、細胞は周囲の細胞と接着することになります。細胞接着には3種類あり、隣接細胞と物理的に密着させるだけでなく、隣接細胞と細胞間情報の伝達をしたりする機能をももっているそうです。

 細胞外と細胞内の物質輸送の方法はいくつかあるそうで、大きく分けると、エネルギーを必要とせず、物質の外と内の間の濃度勾配による輸送(細胞内から細胞外とその逆方向)と、化学反応によって産生されるエネルギーを使って物質を細胞内に取り込む輸送とがあります。以前、私の母が倒れて入院したとき、医師から「倒れた原因ははっきりしないが、カリウムイオン濃度が異常である」と言われたことがありましたが、当時は何のことかわからなかったのですが、今にして思えば、おそらく細胞内と細胞外のカリウムイオン濃度の調整がうまく制御できなくなって、何らかの体の不調に繋がったのかなと、考えています。

 もう一つは、単なる拡散ではなく、キャリアータンパク質と呼ばれる膜たんぱく質による物質の輸送です。これは、私が今苦しんでいる”糖尿病”と関係しているようです。すなわち、細胞のエネルギー源である”グルコース(ブドウ糖)”は”グルコース輸送体”というキャリアータンパク質によって特異的に取り込まれ、そのときかの有名な”インスリン”が取り込みの手助けをするのだそうです。私が服用している糖尿病の薬には2種類ありますが、一つはインスリンの分泌促進用薬(膵臓のβ細胞に働きかける)であり、他方はグルコース受容体タンパク質にグルコースの取り込みを働きかける薬です。こんなことが最近になって少しわかってきました(正確な記述ではありません)。

 かなりラフな記述で、正確性を欠きますが、細胞膜をきちんとこの場で記述するのは困難なほど、細胞膜はあっと驚くような仕組みで生命活動に携わっています。本当に生命体はうまく作られ、運用されていて、感嘆の声を挙げざるを得ません。

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第03章: エネルギー、酵素、代謝        2017年7月24日
                                       

 この章の最初で、生物は絶えず化学反応を起こしており、”代謝”とはそのような化学反応の総和であると定義しています。熱力学で出てくる自由エネルギーやエントロピーの話も出てくるのですが、化学の知識がない私にはその意味が十分に理解できません。”代謝”という言葉ですら漠然としていて、私にとってはいまだに?です。

 生物では、エネルギーを獲得し、移動するために分子”ATP”(アデノシン三リン酸)を利用します。これは生物の”エネルギー通貨”ともいわれ、とても重要なものです。すなわち、ATPは加水分解されるときに大量のエネルギーを放出し、そのエネルギーをもって種々の化学反応を促進します。
   ATP + H
2O ->  ADP + Pi + 自由エネルギー  (”ADP”:アデノシン二リン酸、 ”Pi”:無機リン酸イオン)
このATPは、ADPに自由エネルギーを与えることによって産生されます。
   ADP + Pi + 自由エネルギー ->  ATP + H
2

 化学反応式はまあどうでもよいのですが、生物は食物から得られるグルコース(ブドウ糖、C
6126)から複雑な化学反応によってエネルギー通貨ATPを産生し、ATPのもつエネルギーによって生命を維持しているということです。活発な細胞は、その生化学反応を維持するのに毎秒数百万個のATP分子を必要とするということです(活発でない細胞ももちろん生化学反応をするためにATP分子を必要とします)。そして、ATP分子は、平均して合成されてから1秒以内に消費されるそうです。安静時に、平均的な人は1日当たりおよそ40kgのATPの合成、加水分解を行い、このことは1個のATP分子が合成、加水分解のサイクルを毎日1万回繰り返していることを意味するのだそうです。ヒトのおよそ40兆個の細胞は、ATPという分子を利用して、休むことなくしかも規則的にエネルギーを産生し、消費しているのですね!すごいですね!驚きですね!細胞に感謝!感謝!

 ところが、生化学反応を進めるには”酵素”が重要な役割を演じます。”酵素”という言葉は大抵の人が知っていますが、酵素は化学反応の速度を速める触媒の役割をする”触媒タンパク質”です。この酵素(タンパク質)の働く仕組みが、あっと驚くような絶妙な仕組みとなっています。ここで詳細を述べることはできませんが、酵素は特定の(”特異的”という)反応物(”基質”という)と物理的に結合し触媒作用を行いますが、その”特異性”は反応物の三次元構造によって決定されているのだそうです。また、酵素の触媒を有効にしたり、阻害したりする調整作業も、分子の三次元構造によって管理されているとのことです。本著では、このような作用をカラーの図解で分かりやすく?解説しています。

 エネルギー通貨ATPや酵素による生化学反応の調整など、その仕組みの複雑さ、巧妙さにはただただ驚くばかりですが、さらには生物はバクテリアから発生し、なぜ?どうして?このような仕組みを作り上げ、進化してきたのかを思うと、私には不思議で不思議でしょうがありません。無神論者の私でも、神があるときエイヤーッと生命の仕組みを創造したのかと思ってしまいたくなります。


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第04章: 化学エネルギーを獲得する経路    2017年8月6日
                                       

 前章で、生物は食物から得られるグルコース(ブドウ糖、C6126)から複雑な化学反応によってエネルギー通貨ATPを産生し、ATPのもつエネルギーによって生命を維持していると述べました。生物の一般的な化学燃料は、グルコース(C6126)という糖質(糖尿病で摂取制限を強要される栄養素でもあります)です。そして、生物は”酸化”という一連の化学反応(”代謝”)により、グルコースからエネルギーを獲得します。

 エネルギー産生反応は、次のような5つの”代謝経路”に従って行われます(発酵や光合成は対象外としている)。
    1.”解糖系”->2.”ピルビン酸酸化”->3.”クエン酸回路”->4.”電子伝達鎖”->5.”ATP合成”
 これらの化学反応は”解糖系”を除いて、皆さんにも聞いたことのある人がいると思いますが、有名なエネルギー生産工場である”ミトコンドリア”という細胞内小器官で行われます。
 
 それぞれの経路は大変複雑で、数行の文章で説明することは不可能です。本著ではすばらしいカラー図を用いて説明していますが、イメージはわかっても、内容をきちんと理解するのはとても難しかったです。とりあえず、少しでもイメージアップ?のために概略を記述します。

  1.”解糖系”では、1分子のグルコースをもとに、10ステップの化学反応によって2分子のピルビン酸が産生されるとともに、2分子のATP等が産生されます。この化学反応は細胞質内で行われますが、以降の反応は”ミトコンドリア”内で行われます。

  2.”ピルビン酸酸化”では、解糖系で産生された1分子のピルビン酸から1分子のアセチルCoAを産生し、この段階で1分子のCO
2が放出されます。

  3.”クエン酸回路”では、1分子のアセチルCoAとオキサロ酢酸をもとに、8ステップの化学反応によって2分子のATP、2分子のCO
2等が産生されます。この一連の反応はサイクリックな回路となっており、最終ステップではオキサロ酢酸が産生され、循環使用されます。

  4.”電子伝達鎖”では、前の代謝で産生された産物を利用して膜間腔にプロトン(H
+)を流し込みます。

  5.最後の処理である”ATP合成”では、作られたプロトン(H
+)流を利用して”ATPシンターゼ”というモータータンパク質を回転させ(本当にタンパク質複合体が物理的に回転するようです)、ATPを産生します。
      ADP + Pi + 自由エネルギー ->  ATP + H
2

 以上の化学反応(代謝)と産物をまとめると、次式のようになるのだそうです。
   C
6126 + 6O2 -> 6CO2 + 6H2O + 32ATP  (* 32分子のATPが産生されている)

 まあ詳細な代謝経路については理解できなくてもやむを得ないのですが、重要なことはこれらの経路が一緒に働いて細胞と生物に”ホメオスタシス”(自己維持的な一定の内部環境)をもたらしているということです。細胞はこれらの経路の調節機構(フィードバック機構)を持っており、最適な稼働を保証しているのです。本書に”糖代謝”(私の最も関心のある”糖尿病に関係している)の話がありましたので、紹介しておきます。

 「ハンバーガーのパンに含まれるデンプンがどうなるかを考えてみよう。消化管で、デンプンは加水分解されて、グルコースになる。グルコースは血流に入り、体全体に配分される。しかしながらその前に、調節のためのチェックが行われる。体の需要を充たすのに十分な血中グルコースがすでに存在しているのではないか?もし存在していれば、余分なグルコースは肝臓でグリコーゲンに変換されて貯蔵される。もし食事によって十分なグルコースが供給されなければ、グリコーゲンが分解されるか他の分子が糖新生によってグルコースに返還される。以上のような制御の結果、血中のグルコース濃度(血糖値)は一定に保たれる。グルコースの相互変換には多くの反応が関与し、こうした反応は酵素によって触媒され、調節ポイントはこれらの酵素であることを銘記してほしい。」

 すごいですね。我々の体は、一連の化学反応の流れによって維持され、しかもその流れが自動コントロールされているのです。さらにその反応はタンパク質である酵素の3次元立体構造によって調整されているのです。驚きですね。ヒトはバクテリアから進化してきたと言いますが、どうしてこんなに超複雑な化学反応で人の体が作られ、維持されるようになってきたのでしょう?不思議!不思議!


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第05章: 光合成:日光からのエネルギー     2017年8月21日
                                       

 先ずは、「究極のエネルギー源」と題した前文を紹介します。 「地球上の光合成によって1年で合成される糖質をすべて使って角砂糖にすると、30京(30x10の16乗)個にも達する。それらを積み重ねると、地球から冥王星まで達する。それほど光合成は凄いものである。」

 「地球の光合成が減少するとどうなるかを想像してみよう。そのような大災害はおよそ6500万年前に実際に起こった。巨大な隕石が今のメキシコ南部に激突したときである。地質学的な証拠から、その衝突により巨大な粉塵の雲が形成され、太陽を遮り、光合成を減少させたことがわかっている。これにより植物の成長は抑制され、植物に依存している種の生存も脅かされた。その結果、恐竜(および他の種も)の絶滅に至ったと考えられる。しかし恐竜の絶滅は初期の哺乳類にとっては有益であった。というのも大きな爬虫類と競争することなく生き延びることができたからである。」

 「緑色植物は日光のエネルギーを使って、光合成の反応を行い、環境中の単純な化合物(二酸化炭素と水)を糖質に変換する。光合成の出現は、生命の進化の上で非常に重要な出来事であった。これにより外部のエネルギー源(日光のエネルギー)を生命世界に取り込めるからである。太陽エネルギーを用いて自分自身の養分を産生する光合成生物は、化学エネルギーに生物圏への玄関口を提供する。他のほとんどの生物は、代謝の原材料(例えばグルコースなど)を、大気中の酸素と同様に、光合成生物に依存する。」 以下省略。

 それでは、光合成に関する私のコメントを述べます。 光合成を式で表すと以下のような式になります。
    二酸化炭素 + 水 + 光エネルギー  -> 糖質(グルコース) + 酸素
 これを化学記号で書くと次のようになります。
    6CO
2 + 12HO -> C6126 + 6O2 + 6H2O   (C6126 : グルコース)

 物理学では電磁波(可視光)の光エネルギーは”光子(フォトン)”という素粒子としてみなされ、その光子は植物の”葉緑体”に吸収されます。この吸収された光子エネルギーが葉緑素内で複雑な化学反応を経て、生物が利用できる化学エネルギーに変換されるというわけです。植物は複数の異なる吸収スペクトルをもつ”色素”分子によって光子エネルギーを吸収します。主要な色素として”クロロフィル”という緑色色素があります。皆さんんも聞いたことがあるかもしれませんね。このクロロフィルが葉っぱの緑色の基になっています。緑色の葉をもつ植物は、クロロフィルを持ち、光合成をしていると考えてよいようです。

 光合成の化学反応の各ステップはとても複雑で、ここでは概略すら紹介することはできません。私が感動するほどの巧みな仕組み(化学反応)によって光合成が行われています。ひとつだけコメントしますと、光合成では”電子伝達”という仕組みで、電子(e-)と陽子(H
)をに巧みに扱って生物で利用できるエネルギー(ATP)を産生していますが、物理学(量子力学)では電子や陽子は確率的な確率振幅(シュレーディンガー方程式における波動関数)で表現されます。すなわち、生物の世界では、電子や陽子は確率的な動きをするのではなく、1個1個化学反応式に沿った動きをするものとしています。確か、シュレーディンガー著の「生物とは何か」でも言及されていたようにも思いますが(読んでいるときは何のこと?と思っていたが)、その関係については私にはさっぱりわかりません。物理学(量子力学)と化学とがどういう関係なのか、素人には理解不可能なようですね。でもそんな疑問を持つことができるようになっただけでも、私も少し進歩?してきたのかもしれません。

*** 2017年8月28日 特別編 ***

 前回、植物の光合成について記述しましたが、雑誌「ニュートン 2017.10」に光合成と量子力学における”電子”(”粒子”でもあり、同時に”波動”でもある)との関係に触れた記事があったので、転載してみます。これを読んでも、生物における電子と量子力学における電子の関連がわかるわけではありませんが、学問の世界でも課題となっている様子がうかがわれます。

 「光合成と量子力学の奇妙な関係」 「ニュートン 2017.10」より

 私たちは人生においてさまざまな選択をせまられますが、「すべての選択肢を同時に進められたらいいのに」と思ったことはありませんか?そんなことは物理的に不可能だと思うかもしれません。しかし”量子力学”が支配する極小の世界ではそのようなことが現実におきています。たとえば右のイラストのように、1個の電子を2本のスリット(穴)が開いた板を通してフィルムにぶつけると、「1個の電子が2本のスリットを波として同時に通過して」、フィルム上に1個の点を残すことが実験的に確かめられています。

 そんな量子力学の不可思議な現象が、植物が行う”光合成”でおきているという、おどろくべき研究結果が2007年ごろから次々に発表されています。光合成は太陽光エネルギーを利用して、糖などの有機物を合成する反応です。植物の細胞の中にある葉緑体でおき、いくつもの複雑なステップを踏みます。その最初のステップで、光エネルギーを捕まえる役割を果たしているのが”クロロフィル”とよばれる緑色の色素分子です。葉緑体の中にあるタンパク質に、たくさんのクロロフィル分子が結合しており、光を待ちかまえています。

 クロロフィルは、光(光子)を受け取ると、高いエネルギーをもった状態(励起状態)になります。このエネルギー(励起エネルギー)は、タンパク質の中にぎっしりつまったクロロフィルの間を直接受け渡されていき、最終的に”反応中心クロロフィル”に送られて、次のステップで利用されます。従来、励起エネルギーはクロロフィルの間をランダムに移動していくと考えられていました(右のイラスト上)。しかし無数に存在するルートの中で、迷子になることなく、ほぼ100%確実に反応中心にたどり着くことができるのはなぜなのか、その理由はわかっていませんでした。

 2007年、カリフォルニア大学のフレミングらは、光合成をおこなう最近のバクテリオクロロフィルとタンパク質の複合体に光を当てて、その反応を解析しました。すると、励起エネルギーの移動パターンに、先述の二重スリット実験に見られたような、「波としてあらゆるルートを同時に通っている」可能性を示すデータが得られたのです(右のイラスト下)。これが励起エネルギーがほぼ確実に反応中心にたどりつける一因なのかもしれません。量子力学の不可思議な状態が、どのようなしくみによって生体のなかで活用・維持されているのか、現在、研究が進められています。


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