さ迷い歩き 「量子の森」 (3)-4 = ファインマン物理学X 量子力学 = |
内 容 | 内 容 | |||||
00 | ファインマンと「ファインマン物理学」(1st Page) | |||||
01 | 粒子と波動(干渉実験) | 12.04.27 | ||||
02 | 波動的観点と粒子的観点 | 12.05.09 | 12 | 水素原子の超微細構造 (3rd P) | 12.08.18 | |
03 | 確率振幅 | 12.05.30 | 13 | 結晶格子内における伝播 | 12.09.13 | |
04 | 同種の粒子 | 12.06.08 | 14 | 半導体 | 12.09.17 | |
05 | スピン1 (2nd Page) | 12.06.20 | 15 | 独立粒子近似 | 12.09.27 | |
06 | スピン1/2 | 12.07.04 | 16 | 振幅の位置依存性 | 12.10.04 | |
07 | 振幅の時間依存性 | 12.07.07 | 17 | 対称性と保存性 (Curr. Page) | 12.10.24 | |
08 | ハミルトニアン行列 | 12.07.12 | 18 | 角運動量 | 12.10.31 | |
09 | アンモニア・メーザー | 12.07.20 | 19 | 水素原子と周期律表 | 12.11.02 | |
10 | 他の2状態系 | 12.08.05 | 20 | 演算子 | 12.11.26 | |
11 | さらに2状態系について | 12.08.16 | 21 | 古典的状況のもとでの シュレーディンガーの方程式 |
12.11.29 | |
17.対称性と保存性 2012年10月24日
何とか、”シュレーディンガー方程式”の森を通り過ぎましたが、これからの”対称性と保存則”の森は、何度も読み返すのですが、さっぱり理解できません。何となく不吉な予感がしますが、再度挑戦してみます。まずは、ファインマンのお言葉を聞いて見ましょう。 「古典物理学では-多くの保存される量が存在する。それらに対応する量子力学的な量についての保存則は、量子力学においても成立する。量子力学のもっとも美しい点は、それらの保存則がある意味で、他の別のものから導きうるという点である。ところが古典力学では、実質的にこれらの保存則が法則の出発点であった。(古典力学においても、量子力学でこれからやることとよく似た方法が存在するのであるが、それをやるには極めてレベルの高い話をしなければならない。)ところが量子力学においては、それらの保存則は、振幅の重ね合わせの原理および色々なものが変化したときの物理系のもつ対称性に深く関連している。」
「これがこの章の主題である。ここでこれからの考え方を適用するのは、主として角運動量の保存の問題であるが、その本質的な点は、あらゆる種類の量の保存に関する定理が−量子力学においては−体系のもつ対称性に関係しているということである。どうして”対称性”が”量の保存”と関係するのか、全然イメージが湧きません。イメージが湧かないものは、いくら説明をされても分からないんだよなー。
先ず最初に、以前にも出てきた水素イオンを例に、体系のもつ対称性の問題に入ります。水素の2個の陽子の間の平面に関して、系の鏡映をとると、これは対称性があります。その平面内の一方の側のものを他の側の対称的な位置に移すことを、鏡映の操作といいます。この鏡映の操作をP^とします。このP^は一つの状態に”何かをし”て、新しい状態を創り出すという意味で、これは一つの演算子です。
ここからは、対称性の数学的定義あるいは表現の話になり、議論が細かくなるので、はしょって記述します(能力上の問題からもはしょらざるを得ないのですが)。演算子U^を”時間の経過による進展”の操作とします。またQ^を、体系の物理を変えることなく、その系に作用させることのできる操作のうちの任意の一つであるとします。いま、状態|ψ1>からスタートして、与えられた条件のもとで、ある時間が経過した後に状態|ψ2>になったとすると、
|ψ2> = U^|ψ1>
と書くことにするそうです。次に、全体系にQ^という操作をほどこすと、次のように状態が変換されます。
|ψ1'> = Q^|ψ1> 、 |ψ2'> = Q^|ψ2>
このとき、ψ1'が同じ条件のもとで、同じ時間だけ待っているとすると、次式がえられます。
|ψ2'> = U^|ψ1'>
これから、次の式が得られるのだそうです。
Q^U^|ψ1> = U^Q^|ψ1> (17.9)
この式の意味するところは、”鏡映をとって、それからしばらく待つこと”は、”しばらく待ってから、その後で鏡映をとること”と同じであるということなのだそうです(Uが鏡映によって変化しない限りにおいて成り立つのだそうです)。うわー!何がなんだかさっぱりわからないぞ!
上の式の関係は、任意のスタートの状態|ψ1>に対して成立するから、これは次の演算子の関係式が成り立つということだそうです。
Q^U^ = U^Q^ (17.10) |
これが、対称性の数学的表現であるとのことです。このことを、「演算子U^と演算子Q^とが交換する」というのだそうです。そうすると、”対称性”を次のように定義することができるそうです。すなわち、「ある一つの物理系は、Q^が時間経過の操作U^と交換するとき、Q^の操作に関して対照的である」と。
時間εが無限小である場合には、U^ = 1 - iH^ε/(h)と書けるので(私にはわかりません?)、(17.10)が成立していれば、次の関係が成り立つそうです。
Q^H^ = H^Q^ (17.11) |
これが、Q^の操作のもとでの物理的状況の対称性の条件の数学的表現であるのだそうです。この関係式が、体系の対称性を定義しているとのことです。ファインマンは、続いて保存則と対称性の関係を次のように述べています。
「たとえ、その体系の一つの状態から他の状態に移るからくりの詳細に注意をはらわなくても、それでもなお、一つのものが始めある対称性をもつ状態にあり、またその体系を代表するハミルトニアンがこの操作のもとに対称的であるとき、そのときには、その状態はすべての時刻において、同じ対称性をもつということがいえる。これが、量子力学におけるあらゆる保存則の基礎となっているのである。 |
うわー、これも全然、さっぱり、皆目わからねーな!!
この後に、具体的な例として、原点に関する反転の演算子を説明し、反転の操作に対して”パリティ”が保存されるということを説明しますが、偶と奇のパリティのイメージもわからず、その保存云々といわれてもさっぱり分かりません。とほほほ・・最悪の状態になってきたようだな!!
次に、角運動量の保存の話になりますが、もちろん、これもよくわかりません。いつものことながら、突進しますが、ごめんなさい。まず、z軸のまわりに角φだけ回転するという特別な演算子R^z(φ)を考えます。そして、真空中に1個の原子を置き、その原子を角φだけz軸のまわりに回転しても、その物理系は変らないとします(電場や磁場の方向はz軸に平行な方向とする)。すると、そのような操作を行ったときにつくり出される新しい状態が、元の状態にある位相因子(exp(iδ))を掛けたものに等しくなっているような特別の状態が存在することになるのだそうです。そして、なんだかよく分かりませんが、次の式が出てきます。
R^z(φ)|ψ0> = exp(imφ)|ψ0> (17.22)
そして、ファインマンは、z軸のまわりの角運動量について、次のように述べています。「ところでわれわれは、次の注目すべき事実も知っている。すなわち、仮に体系がz軸のまわりの回転に対して対照的であり、また元々の状態がたまたま(17.22)という性質をもっているならば、それは時間が経った後でも同じ性質をもっている。したがって、この数値mは非常に重要な意味をもっている。はじめの値が分かっていれば、このゲームの終わりにおける値も分かるのである。つまり、それは保存する数である−mは運動の定数である。mという数をひっぱり出しておいた理由は、その値が特別な角φの大きさに無関係になっているからである。量子力学においては、m(h)に対して−|ψ0>のような状態に対する−z軸のまわりの角運動量という名前を選んでいる。」
「体系の大きさを増していった極限においては、その量が古典力学における角運動量のz成分と同じものになっている。したがって、z軸のまわりの回転によって、位相因子exp(imφ)がもたらされるような状態が存在すると、その軸に関してある決まった角運動量をもつ状態がえられるわけである−しかも、その角運動量は保存する。つまり、その角運動量の値はいつもm(h)であり、そして未来永劫にわたってm(h)なのである。もちろん、z軸でなく、どんな軸のまわりでも回転をすることができる。そうすると、色々な軸のまわりの角運動量の保存則がえられるわけである。こうして、角運動量の保存則というものが、体系を回転したとき、新しい位相因子がでてくるだけで同一の状態がえられるという事実と関係しているということが分かったわけである。」 何が分かったのかな。ちんぷんかんぷんですね。
ファインマンは、以上の考え方が一般的であることを証明するために、空間的なずらしの操作D^x(a)と運動量の保存則、それに時間的なずらしの操作D^t(τ)とエネルギー保存則について、説明してくれますが、角運動量がほとんど分からない状況では、これらはもっと分かるわけがありません。説明もあきらめざるをえません。
また、この後、偏った光(スピン1)がエネルギーと角運動量を運ぶことを議論しています。これも大切なことですが、やはり私には全くわかりません。さらに、さらに、こんなところで、ラムダ(Λ0)粒子の崩壊の話が続きますが、もちろんこれもXです。あー、もう挫折です。「量子の森」の中で、完全に道に迷ってしまいました。脱出する方法を考えなければいけない状況になったようです。
最後の節に「回転の行列のまとめ」がありますが、表を書くことができないので、表のタイトルのみを記して、終わりとさせてもらいます。もうどうしようかな??
表17-1: スピン1/2の場合の回転の行列 Rz(φ)
表17-2: スピン1の場合の回転の行列 Rz(φ)、Ry(θ)
表17-3: 光子の場合の回転の行列 Rz(φ)
2012年10月24日
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18.角運動量 2012年10月31日
前章の最後で、次のように結んでしまいました。「あー、もう挫折です。「量子の森」の中で、完全に道に迷ってしまいました。脱出する方法を考えなければいけない状況になったようです。」 その後、前章を再度読み、今度の第18章「角運動量」を読んでみたのですが、状況は代わり映えしません。すなわち、私自身が、これまでファインマンが一生懸命に解説してきた内容を、いまだ本質的な部分をしっかりと抑えていないということなのでしょう。特に、”状態と座標の変換、回転”、”角運動量とスピン”、”対称性と保存性”などは、ほとんど理解していないようです。とはいえ、今更初め(古典力学まで)に戻ってやり直すという気力も時間もありません。ということで、希望のないままに、行けるところまで進みたいと思います。
まず、前章で示された”λ粒子の崩壊により生成された陽子の角分布を予測する方法(私は記述を省略しましたが)との類似で、原子系の角運動量の保存からえられる多くの他の似た結果についての解説があります。その最初の例が、1個の原子からの光の放射です。すなわち、そのとき放射される光子の偏りの方向とその角分布が、角運動量の保存によって決定されるという話です。その次は、光の散乱についての量子力学的説明が、光の散乱の古典的理論と一致するという話が続きます。これらをこの場で説明することは、長くなるし、いつもながら私の理解不足からできません。
続いて、「ポジトロニウムの消滅”という話があります。ファインマンは次のように述べています。「つぎに、非常に見事な例をとりあげよう。それは全くもっておもしろい例であって、やや話がややこしくなるけれども、諸君にとってはそれほどでもなかったら幸いである。その例というのは、ポジトロニウムという体系である。これは、電子と陽電子とからつくられている一種の”原子”−e+
とe- の束縛状態−である。陽電子を陽子におき換えれば、それは水素原子にほかならない。この物体は−水素原子と同様に−多くの状態をもっている。」
「また、水素原子と同様に、その基底状態は、磁気モーメント間の相互作用によって、”超微細構造”に分裂している。電子と陽電子のスピンは、それぞれ1/2であり、それらは任意の軸に関して平行または反平行のどちらかになっている。(基底状態においては、スピン角運動量以外の軌道運動による角運動量は存在しない。)したがって、基底状態には4個の状態が存在し、そのうちの3個の状態はスピン1の部分系を構成しており、それらの状態はみんな同じエネルギーをもっている。そして、残りの一つは、上とは異なるエネルギーをもつスピン0の状態である。しかし、それらの状態の間のエネルギー間隔は、水素の場合の1420メガサイクルよりもずっと大きい。なぜなら、陽電子のもつ磁気モーメントは、陽子の磁気モーメントよりもずっと−1000倍も−大きいからである。」
「しかしそれより、水素原子とポジトロニウムとの間のもっとも重要な相違は、ポジトロニウムは永久に存在し続けることができないという点である。陽電子は電子の反粒子であって、そのため、それらはたがいに消滅してしまうことが可能なのである。2個の粒子が完全になくなってしまって−その静止エネルギーを放射線の形に転換する。そしてこれは、γ線(光子)として現れてくる。ポジトロニウムが崩壊するとき、有限の静止質量をもつ2個の粒子が、静止質量0の2個またはそれ以上の粒子に変化するのである。」
ということで、ポジトロニウムの崩壊について、運動量の保存則と角運動量の保存則を用いて説明があります。しかし、図でも入れないととても説明ができません。そして、終わりに、有名な「アインシュタイン-ポドロフスキー-ローゼン(EPR)のパラドックスの話があり、それは決してパラドックスではなく、量子力学で説明できるものであるとして、説明してくれます。しかし、私にはよく理解できません。本当にぼんくら頭ですね。とほほほ・・・
ファインマンは次のように喝破します。 「諸君はまだ”パラドックス”が存在すると考えるか。そう思うなら、量子力学の理論が二つの別の議論を通して、矛盾する結果を導くような思考実験を考えることにより、それが本当に自然の性質に関するパラドックスであることを確かめるべきである。そうでなければ、その”パラドックス”というのは、現実と現実は”いかにあるべきか”という諸君の感情との衝突に過ぎない。それとも諸君は、”パラドックス”ではないが、しかしそれにしても奇妙な話だと思うか。それなら、われわれの意見は完全に一致している。それこそ物理を魅力的なものにしているのである。」
今度は、さらに難しい話、任意のスピンに対する回転の行列の話に移ります。ファインマンは次のように述べていますが・・・「いまでは諸君は、そうあって欲しいのだが、原子的な過程を理解するのに角運動量という考え方がいかに重要なものであるかが理解できると思う。これまでは、スピン−あるいは、”全角運動量”−が、0、1/2、または1の体系だけを考えてきた。しかしもちろん、もっと高い角運動量をもつ原子系も存在する。そのような体系を解析するに当たっては、17-6にあるような回転の確率振幅の表が必用になる。すなわち、スピン3/2、2、5/2、3などの確率振幅の変換行列を必要とする。ここでは、これらの表の詳しい計算はやらないが、必要ならいつでも自分でできるように、その計算法を示しておくことにする。」ですって。私が自分でできるはずはないよな!!
まず、復習として、角運動量の量子数について説明があります(12章、17章で出てきました)。”スピン”または、”全角運動量”jをもつ任意の体系は、(2j
+ 1)個の状態のうちのどれにも存在できます。この場合、角運動量のz成分は、一連の離散的な値j、j-1、・・・、-(j-1)、-j
(すべて(h)の単位)のうちの任意の一つの値をとることができます。ある任意の特定の状態の角運動量のz成分をm(h)とすると、ある特定の角運動量の状態は、二つの”角運動量の量子数”
j (全角運動量量子数)およびm(磁気量子数)の値を与えることによって定義されます。そのような状態を、状態ベクトル|j、m>によって定義します。
それから、一般の状態|j ,m>を、回転した座標系に関する表示に変換したときどうなるかを調べます。座標軸を回転すると、同一の j に対する色々なmの値が混ざります。一般に回転後の座標系においては、その体系が|j ,m'>に発見される確率振幅が存在するということです。ここで、m'は、新しい座標系における角運動量のz成分のとる値を示します。そして、求めるのは、色々な回転に対するすべての行列要素<j ,m'|j ,m>です。ここからの議論は非常に細かくなりますので省略します。この結論の一つとして、量子力学の教科書に必ず出てくる”ルジャンドルの多項式”もでてきますが、私はよく理解できません。
変換係数の応用例として、Ne20の核の励起状態のスピンを決定する実験が述べられています。これは、炭素(C12)の標的に加速された炭素のイオンを衝突させて、その反応を分析するのだそうです。実験におけるα粒子の角分布が、ルジャンドル関数の曲線と一致するということです。すごいですね。こんな話がもう出てくることは本当に驚嘆すべきことですね。
最後に、角運動量の合成の話があります。第12章で水素の超微細構造を調べたとき、それぞれのスピン1/2をもつ2個の粒子−電子と陽子−からなる体系の内部の状態を計算する必要がありました。そのとき、2個のスピン1/2の粒子を結合すると、”全スピン”が1または0の体系がつくられることを知りました。ここでは、もっと一般に任意のスピンをもつ2個の粒子から構成される1個の体系のもつスピン状態について議論されます。これは、量子力学的体系における角運動量に関するもう一つの重要な問題であるとのことです。例としては、2個のスピン1/2の粒子の角運動量の合成、重水素原子(3個のスピン1/2の粒子)の角運動量の合成、およびスピン1/2の粒子とスピン1の粒子の角運動量の合成が取り上げられ、さらに任意のスピンをもつ二つの物体が結合したときにつくられる状態を求める一般的な考え方が説明されています。話が細かいので省略しますが、最後に2個のスピン1の粒子の角運動量の合成が練習問題として提示されています。おわかりですよね。私には追いかけるのもままならないのに、自分で問題を解くには程遠い状態ということです。
もう、「量子の森」を無事に通り抜けることができないことがわかってきました。でも、とにかくあきらめずに、ファインマン先生の説明にくらい付いてみようと思っています。
2012年10月31日
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19.水素原子と周期律表 2012年11月02日
ようやくクライマックスに入ってきました。ファインマンは高らかに次のように述べています。 「量子力学の歴史におけるもっとも劇的な成功は、いくつかの簡単な原子のスペクトルの詳細と、化学元素の表から発見された原子の周期性とが理解されたことである。この章にいたって、ついにわれわれの量子力学の話も、この重要な業績、とくに水素原子のスペクトルを理解するという問題にはいるわけである。また、同時に、化学元素の示す不可思議な性質の定性的な説明にまで話を進めることにする。それをやるために、これから水素原子内における電子のふるまいを詳しく研究しよう−ここではじめて、第16章で展開した考え方にしたがって、空間内における電子の分布を詳しく計算するわけである。」
まず、話を進めるに当たって、次のような近似をします。
1.陽子は電子にくらべて非常に重いので、陽子は原子の中心に固定されていると考えます。
2.電子がスピンをもち、相対論的な力学の法則にしたがうということを考慮しないで、非相対論的なシュレーディンガーの方程式を用い、磁場の効果も無視します。
3.したがって、原子の全角運動量は保存され、また電子のスピン角運動量は一定に保たれます。また、残りの全角運動量(軌道角運動量)もまた保存されます。この近似の元では、電子は水素原子内でスピンをもたない粒子のように運動し、その角運動量は一定に保たれることになります。
これらの近似を用いると、空間内のいろいろな場所における電子を発見する確率振幅は、空間内における電子の位置および時間の関数として、次のように表わすことができるそうです。
i (h)∂ψ(x,y,z,t)/∂t = H^ψ(x,y,z,t) (19.1) H^ = -(h)2乗/2m(∇2) + V(r) (19.2) ここで、mは電子の質量 V(r)は陽子のつくる正電場内における電子の ポテシャルエネルギーで、陽子から遠く離れた ところでV=0とすると、V = -e2乗/r |
このとき、波動関数ψは次の方程式をみたす必要があります。
i (h)∂ψ/∂t = -(h)2乗/2m(∇2)ψ - (e2乗/r)ψ (19.3) |
ここでは、一定のエネルギーをもつ状態を求めるので、次の形の解を求めるものとします。
ψ(r、t) = exp{-(i/(h))Et} ψ(r) (19.4) |
したがって、このとき、波動関数ψは次の方程式をみたさなければなりません。
-(h)2乗/2m(∇2)ψ(r) = (E + e2乗/r)ψ(r) (19.5) ここで、Eは定数、つまり原子のエネルギーです。 |
ここからの波動関数の求め方は、どの教科書にも出ています。数式が複雑になって、ここでは表現不可能ですので、大変重要な部分ですが、省略とさせていただきます。そして、その解の求め方について、ファインマンは次のように述べています。「しかし不幸にして、任意の与えられた微分方程式(*(19.5)の式そのもののことではありません)を解くための有効かつ一般的な方法というものは存在しない。つまり、色々やってみるより仕方がない。われわれの方程式はやさしいものではない。しかし、次のような手続きを利用することによって、それを解くことができることを発見した人達がいる。」 天才がたくさんいるのですね。賞賛というよりは、あきれてしまいますね。
途中をずっと飛ばして、球対称な波動関数(軌道角運動量が0の状態です)に対する束縛状態の解を述べます。このような解は、次の条件を満足するときにのみ存在しうるのだそうです。
- ε = 1、1/4、1/91/16、・・・、1/n2乗、・・・
したがって、許されるエネルギーの値は、これらの分数に、リードベルグ定数ER
= me4乗/2(h)2乗 を掛けたもので与えられます。すなわち、n番目のエネルギー準位のエネルギーは、次のようになるということです。
En = -ER(1/n2乗) (19.24) |
ファインマンは、この結果について、次のように述べています。「量子力学の発見以前に、すでに水素のスペクトルの実験的研究から、そのエネルギー準位が(19.24)によって記述されることが知られていた。そこで観測によりERの値は、約13.6eVであることが発見されたのである。そのときボーアは(19.24)と同じ式を与えるような原子模型を考案して、ERの値はme4乗/2(h)2乗
でなければならないことを予言した。しかし、この結果を電子の運動の基本方程式から再現しえたことこそ、シュレーディンガーの理論の最初の偉大な成功だったのである。」 ボーアも偉いが、シュレーディンガーはもっと偉いということでしょうか。大天才ですね。すばらしいですね。でも、この本では、シュレーディンガー方程式が発見されるまでの苦難に満ちた研究の歴史を省いております。特に、ボーアの原子論やド・ブロイの波動論、ハイゼンベルグの行列力学がまったく言及されていないので、ちょっと気になりました。
この後、得られた解の物理的性質が述べられていますが、ここでは省きます。続いて、球対称な状態ではなく、角度に依存した状態についての解も述べられますが、球面調和関数とか、ルジャンドルの陪関数など難しい数学の話が出てきて、わたしには十分に理解する能力がありませんでした。ただし、角運動量の量子数について述べているところがあるので、そこだけ記述しておきます(本当は私にはよく分かっていないのですが)。
任意の特定の状態にある水素原子は、ある”スピン”j −全角運動量の量子数−をもつ粒子です。このスピンの一部は電子の固有のスピンであり、その他の部分は電子の運動からくるものです。これらの二つの部分は(非常によい近似で)独立に行動するので、ここでは、その固有のスピンの部分は無視して、”軌道”角運動量についてのみ考えるのだそうです。しかし、この軌道角運動量も一つのスピンと同じような性質をもっていて、例えば、軌道角運動量の量子数が
l であるとき、そのz成分は l、l-1、l-2、・・・、-l の値(単位は(h)です)をとることになります。
結論として、水素原子の状態に関する一般的な解を記しておきます。
任意の l に対してFn,l と書かれる多くの可能な解が存在します。 ここで、n > l+1 です。そして、それぞれの解のもつエネルギー は、次のようになります。 En = -(me4乗/2(h)2乗)(1/n2乗) (19.51) このエネルギーをもつ状態で、角運動量l、mをもつ波動関数は 次のように表わされます。 ψn,l,m = -Yl,m(θ,φ)Fn,l(ρ) (19.52) ここで、 Yl,m(θ,φ):球面調和関数 ρFn,l(ρ) = exp(-αρ)馬、k=l+1(akρk乗) (19.53) |
結果だけを書いても全然分かりませんね。ただし、これが水素原子の状態に関する一般的な解ということです。わからないな。ファインマンは、復習ということで、量子数のことをまとめてくれていますので、それを記してみます。「クーロン場のなかにおける電子に対するシュレーディンガーの方程式をみたす状態は、3個の整数の量子数n、l、mによって特定される。電子の確率振幅の角分布は、Yl,mという形のみをとりうる。この角分布は、全角運動量量子数
l と、-l から +l までの値をとる”磁気”量子数mによって表示することができる。それぞれの角分布に対して、電子の動径部分の確率振幅Fn,l(r)としては、色々なものをとることが可能である。すなわち、それらは
l +1 から∞までの値をとりうる主量子数nによって指定される。その状態のエネルギーはnだけに依存し、nの増加に伴って、その値も大きくなる。」
この後、状態s、p、dや量子数n、l、mをもちいて、水素原子の波動関数の物理的な意味を説明していますが、省略します。このあたりがきわめて重要な部分なのですが、やむを得ませんね。
最後は、周期律表の説明です。ファインマンは次のように述べています。「ここで化学者の使う元素の周期律表に対するある程度の理解をうるために、水素原子の理論を近似的に適用することにしよう。原子番号Zの元素の場合、核の電気的な引力によってZ個の電子が集合している。しかし、これらの電子間にはたがいに斥力が作用している。そして、その厳密解をうるには、クーロン場内におけるZ個の電子に対するシュレーディンガーの方程式を解く必要がある。」 ところが、電子が2個のヘリウムの場合でも、最低エネルギーの解を数値計算によってはえられているけれでも、方程式からその解析的な解を発見した人はいないということです。 「電子が3個、4個あるいは5個存在する場合になると、その厳密解を求めようとしても、それはもう絶望的であって、量子力学にもとづいて周期律表の正確な理解をえようなんてことは、とても言えたものではない。ところが、かなりいい加減な近似を用いても−それにある種の修正をほどこすことによって−周期律表に上げられている多くの化学的性質を少なくとも定性的には理解することができるのである。」
ということで、ファインマンはいくつかの前提をおいて、周期律表の各原子の化学的性質を定性的に説明しています。説明は省略しますが、前提のポイントを述べます。まず、原子のもつ化学的性質は、基本的にはその最低エネルギー状態によって決まります。そして、これらの状態と、そのエネルギーを求めるには、次のような近似的理論を用いるとのことです。
1.電子のスピンを無視します。しかし、排他律(ある特定の電子状態を占めうる電子の数は1個だけである)の適用については、考慮します。
2.電子間の相互作用の詳細については無視します。そして、それぞれの電子は、核と他のすべての電子のつくる正電場とをまとめた中心力場のなかで運動すると仮定します。そのとき、それぞれの電子に対するシュレーディンガーの方程式の中のV(r)として、他の電子からくる球対称な電荷密度の存在により、1/rの形から変形されたものを採用するということです。
この模型では、各電子は独立粒子のように行動することになります。そして、その波動関数の角度依存性は、水素原子のものと全く同じになります。つまり、s状態、p状態などが存在し、それらは色々なmの値をとることが可能になります。しかし、このときV(r)は、もはや1/rのようにはなっておらず、波動関数の動径部分はいくらか違ったものになり、また状態のエネルギーも少しばかり異なったものになるということです。しかし定性的には同じようなものであって、したがって同じ動径量子数nをもっていると考えてよいそうです。
この章の最後にファインマンは次のように述べています。「シュレーディンガーの方程式は、物理学の偉大な勝利の一つである。それは、原子構造の背後に隠されたからくりの解明の鍵を与えることにより、原子のスペクトル、化学および物質の性質の説明を与えてきたのである。」うーん、すばらしいですよね。私としては、量子力学の一端をのぞくことができただけでも、望外の幸せというものです。しかし、最後のあがきも近づいているようで、こちらは予想通りとはいえ、残念無念です。
2012年11月2日
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20.演算子 2012年11月26日
”量子力学”の話は、基本的に前章で終わりです。この章では、量子力学の表現方法あるいは数学的方法が述べられています。ファインマンは次のように述べています。 「量子力学において、これまでにやってきたことは、みんな普通の数学を利用することにより扱うことができた。しかしときには、量子力学的な量や方程式をある特殊な方法を用いて表現したこともあった。ここでは、量子力学的な事象を記述するための、興味深くかつ有用な数学的方法についてもう少し詳しく話しておくことにする。量子力学の主題に接近する方法としては多くのやり方があり、ほとんどの書物はわれわれがこれまでとってきたやり方とは違ったやり方をしている。諸君がほかの書物を読むとき、それらの書物に書いてあることと、われわれのやってきたこととの間の関係がよく分からないかも知れない。とくに有用な結果というものは少ししかえられないが、この章の主目的は、同じ物理の色々な表現方法について話すことである。それらのやり方を知っていれば、ほかの人たちのいっていることをよく理解できるようになるはずである。」 私も、このファインマン量子力学の後に、朝永振一郎の「量子力学」に再々度挑戦するつもりですが、この章の話が多いに役立つものと思っています。問題は、量子力学の理解レベルの浅さと数学的能力の不足でしょう。
もう少し、ファインマンの話を続けます。 「古典力学の問題を計算するとき、普通はいつでも、まずすべての方程式をそのx、y、z成分で書き表すわけである。このときだれかがやってきて、ベクトルの記法を利用すれば、式がうんと簡単になると指摘したとする。何かを実際に計算しようとするときには、そのベクトル式を逆にまたその成分に書きかえる必用があるということは事実である。しかし、一般には、ベクトルを用いると、何がどうなっているのかがずっと見やすくなるし、また計算も多くの場合により容易になる。量子力学の場合には、”状態ベクトル”という考え方を利用することにより、多くのことをより簡潔な形で表現することができた。この状態ベクトル|ψ>は、3次元の幾何学的な意味でのベクトルとはもちろん何の関係もない。それは、ψという”標識”あるいは”名前”によって特定される一つの物理的状態を表現する抽象的な記号にすぎない。しかし、この考えは有用である。なぜなら、量子力学の法則がこれらの記号で表わされる代数的な方程式として書き表わせるからである。」
例として、”ある状態にある操作をほどこすと、新しい別の状態が生成される”といったときの、2つの表現法、すなわち、演算子方程式と代数的方程式が掲げられています。
|φ> = A^|ψ> (20.2) <i|φ> = 狽 < i|A^|j><j|ψ> (20.3) |
「したがって(20.2)は、(20.3)の一つの高級な表現法になっているのである。本当は(20.2)は、(20.3)よりもちょっとばかり多くの内容をもっている。つまり、何かをもっと含んでいる。(20.2)の式は、基本状態系のとり方には何の関係もない。(20.3)は、ある基本状態系で表わした(20.2)の一つの像である。しかしご存知のように、基本状態系としてはどんなものを用いてもよい。そして(20.2)には、この考え方が含まれている。演算子で表現する方法は、基本状態系の特定の選び方をとることを避けているわけである。もちろん、話をはっきりさせたいときには、どれかの基本状態系を選ぶ必要がある。諸君がそれを選んだときには、820.3)を利用すればよい。したがって、演算子方程式(20.2)は、代数的な方程式(20.3)を表現するためのより抽象的な方法なのである。」 違いがよくわかりました。ファインマン量子力学を読み始めた頃、いきなり”状態”の話が出てきて面食らったものですが、”状態”と”演算子”の関連がわかり、これから朝永量子力学を読むときに役立たせたいと思います。成果があったなー!
ファインマンは、さらに演算子方程式のもうひとつの効用を述べています。 「また、(20.2)の演算子方程式を用いると、別の新しい考え方をとることもできる。ある演算子A^があるとすると、それを用いて任意の状態|ψ>から新しい一つの序歌A^|ψ>をつくり出すことができる。こうやってえられた"状態"が、ときに非常に特異なものになっている場合が存在する−その状態は、自然界で遭遇しそうな物理的状況を何も表わしていないかも知れない。(例えば、それは1個の電子を表現するように規格化をすることのできない状態になっているかも知れない。)いいかえると、時には数学的な人為的状態が出てくるかも知れない。しかし、そのような人為的な"状態"でも、おそらく計算の途中にだけ現れてくる量としては、有用なこともありうるのである。」
ここで、今までに出てきた演算子の例をまとめておきます。
R^(θ): 回転演算子 P^: パリティ(または反転)演算子 σx、σy、σz: スピン1/2の粒子に対する演算子 Jz: 微小な角εの回転の演算子 (R^z(ε) = 1 + (i/(h))εJ^z) pz: 運動量演算子 (D^x(δ) = 1 + (i/(h))δp^x) |
ここで、量子力学的演算子と数学的な関数に作用する代数的演算子との違いが述べられています。 「いま話している演算子というのは、物理的状況の抽象的な記述である|ψ>のような状態ベクトルに作用するものである。これは、数学的な関数に作用する代数的な演算子とは全く別のものである。中略 量子力学的な演算子A^というものは、数学的な関数に作用するのではなく、|ψ>のような状態ベクトルに作用するものである。すぐ後にみるように、この両方の種類の演算子が、量子力学で、そしてまた似たような種類の式でよく用いられている。しかし、はじめて量子力学を学ぶときには、いつでもこれらを心の中で区別しておくとよい。量子力学に十分に慣れてしまった後では、この2種類の演算子を峻別することはそれほど大事なことではなくなることが分る。実際、ほとんどの書物では、一般に両方の演算子に対して同じ記号を用いている。」 そうだったのか!少し賢くなったようです。これからはいつもこのことを頭の中に入れておきます。
次に、もうひとつ前準備として、エルミット共役、エルミット共役演算子の話があります。このエルミット共役は、必ず(当たり前ですが)量子力学の本にでてきますが、私はいつもその物理的意味が理解できないでいる状態です。ここにファインマンの説明の概要を記してみますが、わたしにはやっぱりよく分かりません。
演算子A^: ある基本状態に対する行列が、Aij ≡ <i|A^|j>で与え
られる演算子とする
<φ|A^|ψ>: 状態A^|ψ>が他の状態|φ>に存在する振幅とする
このとき、次の関係が成り立つ(この意味が全然分かりません)。
<φ|A^|ψ>* = <ψ|A^†|φ> (20.8)
* A^†: Aダガーと読む
A^†は、その行列要素が次のような演算子である。
A†ij = (Aji)* (20.9)
エルミット共役: 状態A^†|φ>が|ψ>に存在する振幅は、A^|ψ>が
|φ>に存在する振幅の複素共役になっており、この演
算子A^†をA^のエルミット共役という。
量子力学において重要な役を果たす演算子の多くは、エルミット共役をとると、同じ演算子にもどってしまうという特別な性質をもっているとのことです。B^がそのような演算子であるとすると、そのときは B^†
= B^であって、これを”自己共役”演算子、または”エルミット”演算子ということです。やっぱり私にはこれらの物理的な意味がわかりません。残念無念。
この後、色々な演算子の意味と式の説明があります。もちろん、すべてを記述できないのですが、まず最初に、平均エネルギーについて記述してみます。すなわち、1個の電子が定常状態ではない状態|ψ>にある場合に、そのエネルギーを測定したら、その結果(平均エネルギー)がどうなるかを調べます。
まず、状態|ψ>を決まったエネルギーをもつ一組の基本状態系|ηi>に射影します。状態|ηi>のそれぞれは、ある決まったエネルギーEiをもっており、次のように表示されるそうです。
|ψ> = 狽奄bi|ηi>
そして、それぞれのエネルギーEiを発見する確率は、Pi = |Ci|2乗 で与えられることになります。それで、予測(あるいは期待)される平均エネルギー<E>avは、次のようになるそうです。
<E>av = 狽奄oiEi = 狽堰bCi|2乗・Ei = 狽 Ci*CiEi
途中の議論を省略しますが、状態|ψ>における平均エネルギーの値は、次のような非常にきれいな形になるそうです。
<E>av = <ψ|H^|ψ> (20.18)
この式は、任意の基本状態系|i>を用いると、次のように表わすことができるそうです。
<E>av = 狽奄<ψ|i><i|H^|j><j|ψ> (20.19)
以上の結論は、次のように一般化することができます。とても重要な公式のようですが、やはりどうしてこうなのといったところがよくつかめません。
<A>av = <ψ|A^|ψ> <A>av = <ψ|φ>、 |φ> = A^|ψ> |
次に、具体的な原子の平均エネルギーを求めますが、式だけをまとめておきます。
<E>av = ∫<ψ|x><x|H^|x' ><x'|ψ>dxdx' (20.23) <E>av = ∫ψ*(x) { -((h)2乗/2m)d2/dx2 + V(x) } ψ(x) dx (20.27) |
これは、波動関数ψ(x)が与えられれば、この積分を実行することによって平均エネルギーを求めることができるということを意味しています。ところで、(20.27)の中括弧のなかの量は代数的な演算子になります。そこで、代数的演算子を次のように定義し、量子力学的演算子と区別します。
1.エネルギーの演算子: <E>av = <ψ|φ>、 |φ> = H^ψ> <E>av = ∫ψ*(x) φ(x) dx 、 φ(x) = H^ψ(x) H^ = -((h)2乗/2m)d2/dx2 + V(x) |
ファインマンは、次のように量子力学的演算子と代数的演算子について、説明しています。 「もちろん、ここで定義された代数的演算子H^は、量子力学的演算子H^と同じものではない。この新しい演算子は、位置の関数ψ(x) = <x|ψに作用して、xの新しい関数φ(x) = <x|ψ>を与えるものである。一方H^は、状態ベクトル|ψ>に作用して、別の状態ベクトル|φ>を与えるものであって、これは座標表示などのような特定の表示には全く無関係である。またH^は、座標表示においてさえも、厳密にはH^と同じものではない。座標表示を選んだとすると、H^は行列<x|H^|x'
>で与えられるものと解釈することができる。この行列要素は、ともかくも2個の”添字”xおよびX'
に依存している。すなわち−(20.25)によって−<x|φ>はすべての振幅<x|ψ>に積分によって関係しているのである。ところが一方、H^は一つの微分演算子になっている。」 ファインマンは、「<x|H^|x'>と代数的演算子H^との間の関係については、すでに16-5で詳しく説明した。」とのたまっていますが、私には記憶にないし、また今更そこまで戻れないので、とりあえず理解はあきらめることにしました。
次に、規格化の話がありますが、省略します。この後は、位置の演算子、運動量の演算子、角運動量の演算子など、量子力学の数学的展開において重要な話がたくさん出てきますが、数式が複雑でここではすべてを記述できません。それで、公式のような形で、重要な式をまとめておきます。
2.位置の演算子: <x>av = <ψ|α>、 |α> = x^|ψ> <x>av = ∫ψ*(x) α(x) dx 、 α(x) = xψ(x) 3.運動量の演算子: <p>av = <ψ|β>、 |β> = p^|ψ> <p>av = ∫ψ*(x) β(x) dx 、 β(x) = P^ψ(x) P^ = ((h)/i )d/dx |
これらの三つの例のどれもが、状態|ψ>から出発して、量子力学的演算子によって別の(仮想的な)状態をつくり出すものということです。座標表示では、それに対応する波動関数を、波動関数ψ(x)に代数的な演算子を作用させることによってつくり出すということだそうです。したがって、次のような1対1の対応が存在することになるということです。
物理量 | 演算子 | 座標表示 |
エネルギー 位置 運動量 |
H^ x^ y^ z^ px^ py^ pz^ |
H^ = -((h)2乗/2m)∇2乗 + V(r) x y z P^x = ((h)/i)∂/∂x P^y = ((h)/i)∂/∂y P^z = ((h)/i)∂/∂z |
大変きれいな対応関係ですね。でも、何となく分かったような、分からないような、不思議な気持ちです。最後は、角運動量の演算子です。前にも述べたことがあるのですが、"角運動量”となると、私は身構えてしまい、何度読んでも十分に理解できません。それでも、量子力学における重要な概念なので、式だけ挙げておきます。
4.角運動量: Lz = x^p^y- y^p^x Lz = xP^y- yP^x = (h)/i)(x∂/∂y - y∂/∂x) 角運動量の交換関係 L^xL^y - L^yL^x = i (h)L^z |
最後に、平均値の時間的変化が論じられています。この説明は、大変難しく、私には手におえません。数学的表示がちんぷんかんぷんといったところです。もうだめです。ということで、ファインマンの次のお話で終わらせていただきます。 「量子力学ではp^x^とx^p^が相等しくないという点では、それは古典力学とは本質的に異なっている。これらの二つの力学は−小さな数 i(h)だけ−ほんの少し違っているだけである。ところが、干渉、波動性、そのほかあらゆるややこしい話は全部、p^x^とx^p^がゼロではないというこの小さな事実から出てくる結果なのである。」
「このような考えがえられた歴史がまたおもしろい。1926年の数か月の間に、ハイゼンベルグとシュレーディンガーが、原子の力学を記述する正しい法則を、それぞれ独立に発見した。シュレーディンガーは、彼の波動関数ψ(x)を発明することによって、彼の方程式を発見した。一方、ハイゼンベルグは、
x^p^- y^p^が i (h)に等しいということを除けば、自然は古典的な方程式によって記述しうるということを発見したのであった。彼はたまたまこれを、特殊な行列を用いて定義することによってやった。いまのわれわれの言葉を用いて表現すれば、彼はエネルギー表示の行列を用いたわけである。ハイゼンベルグの行列代数とシュレーディンガーの微分方程式のどちらも、水素原子を説明することに成功した。それから、数か月後に、シュレーディンガーは−われわれがこれまでみてきたように−この二つの理論が同等なものであることを示すことに成功した。しかし、量子力学の二つの異なる数学的形式は独立に発見されたのである。」
2012年11月26日
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21.古典的状況のもとでのシュレーディンガーの方程式
2012年11月29日
前章で、”量子力学”の講義は、基本的に終わりです。この章では、超伝導現象に対する量子力学の応用の話になりますが、どちらかというと補足の講義といった意味合いです。ファインマンは次のように述べています。 「こんどのこの講義は余興にすぎない。これからやることをみれば分かるように、この講義はこれまでとは少しばかり違うスタイルでやろうと思っているのである。これは−諸君に何か新しいことを教えるための最後の努力であるとは考えていないという意味で−このコースの一部ではない。それよりもむしろ、量子力学をすでに学んだ人々、つまりもっと進んだ聞き手を対象として、ある問題に関するゼミナール、あるいは研究報告をしようと考えているのである。ゼミナールと通常の講義との間の主な相違点は、すべての段階またはすべての計算を、ゼミナールの話し手がやるのではないという点にある。話し手は詳しい内容のすべてを示さずに、”諸君がこれこれのことをやると、出てくる結果はこれである”というわけである。したがってこの講義では、その考え方の道筋を話すだけであって、諸君に計算の結果だけを述べるということになる。諸君は、何もかもをすぐに理解できるものとは考えずに、諸君がその議論の各段階を自分でやってみれば、ものごとが出てくると、(いずれにせよ)信用することである。」
という長い前置きがありましたが、本章の主題は、”超伝導の場合における−古典的な状況のもとでのシュレーディンガー方程式の問題”です。ファインマンは、この問題を次のように述べています。「通常は、シュレーディンガーの方程式に現れる波動関数は、1個あるいは2個の粒子のみに適用されるものである。そして波動関数そのものは−電場やベクトル・ポテンシャルやその種のものとは違って−古典的な意味をもつものではない。1個の粒子の波動関数は−それが位置の関数であるという意味では−一つの”場”である。しかしそれは、一般には古典的な意味をもつものではない。それにもかかわらず、量子力学的波動関数が古典的な意味をもっている場合がある。そして、そのような場合が、私がいまここでとりあげようと思っているものなのである。」
「小さなスケールでの物質の量子力学的な特異性は、大きなスケールにおいては通常はそれを感じるようなことはない。ただそれがニュートンの法則−いわゆる古典力学の法則−をつくり出しているのであるという点を別にすればの話ではあるが。ところが、その量子力学の特異性が、大きなスケールで、特異な形で現れてくる場合が存在する。その体系のとりうる状態の数が非常に多いにもかかわらず、低温においてその体系のもつエネルギーが極端に低くなると、基底状態の近くのほんの少数の状態だけが関与してくる場合がある。このような状況のもとでは、基底状態のもつ量子力学的な特性が、巨視的なスケールにまで現れてくることがありうるのである。」
「この講義の目的は、量子力学とそのような大きなスケールにおける効果との関係を示すことである−この話は、その平均値をとれば、量子力学からニュートン力学を再現することができるといった形の通常の議論ではなくて、量子力学が、大きなあるいは”巨視的”なスケールにおいて、それ自身の特徴的な効果を現すような特殊な状況について議論しようというのである。」
これで、この章の意図がお分かりかと思います。しかし、本章の議論の内容は、”余興”であるとか、”ゼミナール”であるというにもかかわらず、大変難しく、容易に理解できるようなものではありません。本を読めば、定性的に概略を理解できますが、どうして?と思ってしまうと、行き詰ってしまいます。ということで、本章は、節の一覧を表示して終わらすことにします。
21−1 磁場内におけるシュレーディンガーの方程式
21−2 確率の連続の方程式
21−3 2種類の運動量
21−4 波動関数の意味
21−5 超伝導
21−6 マイスナー効果
21−7 磁束の量子化
21−8 超伝導の力学
21−9 ジョセフソン接合
完了
【終わるに当たって】
ようやく、最終章を終えるところまできました。4月末からおよそ7か月過ぎました。予想通り、かなり長い「量子の森」の中のさ迷い歩きでした。正直言って、読者もほとんどいない中で、勝手なことを書いているのは辛かったです。それでも、是非量子力学の真髄の半分でも理解したいという私の思いが、私を背中から押してくれました。私としては、物理的、数学的能力が不足しているため、理解度は3、40%くらいかなと思っています。これは、途中で遭難したのか、あるいは、へとへとながらも森の中を何とか抜け出したのか、判断ができませんが、私としては、それなりの自己満足を感じています。
それにしても、ファインマンの「量子力学」に会えて、とても感謝しています。書籍を知ったのは偶然からですが、読み始めるとすぐに、文章がいわゆる”教科書”とは全然違っていることに気付きました。それで、内容はさっぱり理解できないにもかかわらず、読み物を読むように、読みました。一度読み終えると、また読めばきっと理解が進むだろうという感じがして、また読みました。こんなことを繰り返して、とうとう6、7回くらい読み直したでしょうか。それで理解度が30〜40%なのかと言われるかもしれませんが、私にしてはよくやったという思いです。本当にファインマン先生に感謝です。
まあこんなに頑張ることができたのも、仕事をやめてかなりの自由な時間が得られたからでしょう。学生時代でも、こんなに本を何度も読み返す時間はありませんでした。ましてや現役のサラリーマンでは望むべくもありません。まだ余生が少し残っていると思うので、この後は、朝永振一郎先生の「量子力学」に再々々挑戦してみようと思っています。こちらは、演繹的に数学の式を駆使した”本格的”量子力学の本で、これまでも2、3回読みましたが、いつも途中で挫折してきた代物です。
どうも長い間お付き合いありがとうございましたと言いたいところですが、読者がいなかったはずですね。とりあえず、さようなら。
2012年11月29日
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