BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第129話:「ママ、サンタさんが手を振ってるよ!」

いつものようにオコンネル通りからバスに乗って、ショッピングセンターの次で降りた。いまだにこのバス停の名前を知らないまま、ダブリンを去ることになりそうだった。

6時ですでに街は暗闇に覆われていた。

「あ! ママ! 見て見て!」

「なあに? まあ! ほら、見てよ!」

小さな女の子ふたりと母親が、通りの向こう側を見て歓声をあげていた。

パブの屋根の上で、電飾でふちどられたサンタクロースが手を振っていた。点滅制御でまるで手を振っているかのように見える、安っぽい仕掛けではあった。

「ママ、サンタさんが手を振ってる!」

女の子はふたりとも、懸命にサンタクロースに手を振り返していた。もちろん、サンタは疲れも見せずに手を振りつづけている。母親まで、一緒になって手を振っている。

人が人に優しくなれる時期がクリスマスであるなら、どんなかたちであれ、人を幸せにする存在はやっぱりサンタクロースなのだろう。私にとってのサンタクロースは、この無邪気な子どもたちだった。

(第129話:「ママ、サンタさんが手を振ってるよ!」 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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