BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第119話:列車にも乗りたい。

ドロヘダには、セント・ピーターズ教会というのは、どうもふたつあるらしい。St. Peter's church of Irelamdの方へと歩き、工事中らしいが庭に入っていったら難なく骸骨のレリーフを発見してしまった。大晦日にドロヘダまで来るツーリストなどというのは、ほとんど(たぶん、まったく)いない。まだ1時前だが、ダブリンに帰ろう。ニューグレンジもタラの丘も、また来れるだろう。

バスは3時20分までなかったが、鉄道は1時57分があるはずだった。往復で買ったバスのチケットがもったいない気もしたが、なにしろアイルランドで一度も列車に乗らない、というのも癪だった。

ドロヘダの地図では、鉄道駅は方角だけ示されて圏外である。こういう場合、中心部からけっこう距離がある。しかし、今日は時間もあるし、荷物はほとんどない。

かくして約15分歩き、1時57分のダブリン行きがあることを確認して切符を買った。まだ時間があるせいか、ほとんど人気がない。プラットフォームで背伸びをしていたら、さっきまで新聞を読んでいたじいさんがやって来た。

「チケットは? ダブリン行きかね?」

「あ、これです。このプラットフォームでいいんですか?」

「ああ、ここ。57分」

じいさんは改札係であったのだ。

やがて人が増え、55分に列車はやって来た。私はベンチで隣だった老女に先を譲ってから乗り込んだ。なんの疑いも持たずに。

(第119話:列車にも乗りたい。 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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