BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第104話:雨、雪、ときどき霰。

午後1時にして行くところがなくなった。

いや、ある。ギル湖だ。

ホテルでもらったパンフレットのなかの地図によれば、それはカアロウモアの遺跡よりも近い。たぶん、2マイルか3マイルか。方向は南東。歩いてもせいぜい1時間半、30分滞在したとしても4時半には戻れるだろう。かろうじてまだ明るいくらいの頃合だ。天気は小雨になりかけていた。

歩き出して5分で人影が途絶えた。まだ中心部なのに。やがて郊外への分岐点だろう、大きな交差点に出た。気分はオリエンテーリングである。しかし、持っている地図には何の目印もない。わかっているのはだいたいの方角と距離だけだ。

このあたりはB&B街、それもタウンハウスではなくカントリーハウスに近い感じだった。道路から庭と出窓がよく見える。どこにも花とかクリスマスツリーとか、工夫を凝らしたデコレーションがされていて楽しい。

ほどなくして風景は羊と牛に取って代わられた。近くを通ると、牛たちから品定めをするかのように、じっと見つめられる。

雨がひどくなったと思ったら、雪になり、すぐに霰になった。陽光は射しているのに、だ。風が強い間は壁に身を寄せて難を避ける。風が弱まったら、歩き出す。

「Hazel Wood」へと向かう矢印に従って行く。それが何を意味するのかは知らないのだが。人はもちろん、車もほとんど通らない。スライゴーの街も郊外も、まだクリスマスの休息のただなかだ。

果たして、こんなに苦労して歩いて、そこに何があるか知らないなんてバカなことをしていていいんだろうか? 帰りにヒッチハイクする羽目になったりして。相変わらず、アホである。

突然、地平が開けて湖が見えた。

近い。たぶん、近い。

矢印の通りに行くと、ちょうど2時に湖岸に着いた。そこは、ウィリアム・バトラー・イェーツの霊感の源であり、妖精の郷であり、釣りのメッカであり、子どもたちの遊び場でもあった。そして、そこはまだ入り口にしか過ぎなかった。

(第104話:雨、雪、ときどき霰。 了)

text by Takashi Kaneyama 1999

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