BON VOYAGE!

「哀愁のヨーロッパ」
SPECIAL 1999-2000

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第98話:Houseで。Rosavealで。Galwayで。

帰る前の夜だった。モニクがお別れを言った。

「あなたたち、明日の朝の船でしょう。私、朝はそんなに早く起きないから、いまお別れを言っておくわね」

静かなハグ(そう、なんでもダイナミックなモニクにしては)だった。

ニールとターニャ、リーズベスとエスター、そして私の5人は明朝の同じ船でイニシュモアを去る。モニク、イーナとブランドンは新年をずっとイニシュモアで過ごす。船が出るのは朝9時。朝食が10時過ぎであるクリスマスのMainistir Houseでは、それは極めて早朝なのであった。

そして迎えた最後の朝、ジョエルはなんと7時過ぎに起きて、いつものようにパンを焼いてくれた(ちなみに、私が起きるのは7〜8時で、いつもジョエルより早かった)。ポリッジ、レーズン入りのスコーン、ソーダブレッド、固まりのまま出されるバター、ニールとターニャが持って来たメープルシロップ、それに紅茶。

イーナもブランドンも、まだ早い(といっても8時だが)のに、暖炉のあるダイニングに集まった。

リーズベスは感極まったのか、みんなにハグし、頬へのキスを3回ずつ繰り返して別れを惜しんだ。イーナが笑っていた。

「ベス、あなたは一緒に船に乗る人にまでキスしてるわよ。またキスしなきゃいけないじゃない」

埠頭へは、来た時と同じミニバス(というかなんというか)、同じ親父によって運ばれて行った。今朝の船で戻るのは10人足らず。もう、船影が見えていた。

イニシュモアの埠頭にて。
左からエスター、ニール、ターニャ、リーズベス。

船が着くロザヴィールに、ニールとターニャは車を置いていた。2人は、ゴールウェイに向かうバスに乗った私たち3人のところまでわざわざ車を回して、手を振って見送ってくれた。

ゴールウェイは、目下エスターが学び、住んでいる街だ。彼女の家へ行く2人と、私はバスを降りたところで別れた。すぐにダブリンへ向かう彼女たちと、いったん北上する私とは、スケジュールがすれ違いだった。またもや頬に3回もキスを繰り返すリーズベス。エスターはとってもシャイな子で、ハグには首を振り、握手で名残りを惜しんだ。

"Unforgettable Christmas".

昨日、そうイーナは言ってこの短い日々を振り返った。素晴らしい時間だった。しかしまた、もはや思い出に過ぎない。

私はまた、ひとりに戻った。

(第98話:Houseで。Rosavealで。Galwayで。 了)

text and photography by Takashi Kaneyama 1999

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