第60話:ダブリンで、人はいかにしてトイレを見つけるか。 |
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パブを出た途端に、トイレに行きたくなった。こういう間の悪さは私の人生の特徴である。まあ、ホテルまで歩いて15分か、20分だろう。 しかし、この日は夕方から雨が強くなり、特別寒い日だった。こういう天候に膀胱は弱い。 とにかく、左右の足を交互に出しつづける。信号待ちは悲劇である。小さな円を描いて、車が途切れるのを待つ。 ブラウン・トーマスが見つかった。地下のフロアに、トイレは・・・ない。ここはやたら気取ったデパートで、いかにも私は場違いである。 次に見つけたのは、マクドナルドであった。地下に向かう矢印。しかし、無情にもそこは「清掃中」だった。 事態は切迫していた。残るはバーガーキングだが。地下に向かう階段は、「STAFF ONLY」だった。途方にくれた私に向かってアンディ・ウォホールのような眼鏡をかけた男が上を指差して「UPSTAIRS」と唇で伝えてくれた。 Thanks. 階段をあがる。奥ではない。いや、右手だった。しかし、そこにモップを持った店員がまさに入ろうとしていた。 たぶん、そういう形相だったのだろう。私に話し掛ける間も与えずに、彼はにこやかにドアを指差した。 幸せは、この瞬間にやって来る。手を洗って温風機に手をかざす瞬間の暖かさが心地よい。この温風機、方向を変えて顔に当てることもできるのであった。 かくして、ダブリンでもなんとかなったのであった。懲りない男である。 (第60話:ダブリンで、人はいかにしてトイレを見つけるか。 了) text by Takashi Kaneyama 1999 |
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