◆ 鼻毛の楽しみと村田先生 ◆

鼻から何か… つくづく自分がオヤジになったなぁと思うことが増えてきた。
そのひとつだが、鼻毛を抜くのが楽しくてたまらない。 親指と人指し指を鼻の穴に突っ込んで、ちょろちょろと触れる毛先を探り、 爪の先で挟んでキュッと引っ張る。これはなかなか難しく、 何もつかめずスカッと空振りに終わることが多いが、うまく行くと、 プチッ・ツーンと手応えがある。 やった! この達成感。
熟達するにつれて、成功率も高くなる。短い毛さえも逃さず捕らえ、 何本もを一度に引き抜くことができるようになる。技がレベルアップする喜び。

いつ頃からこんなに鼻毛が伸びるのが速くなったのだろう?  密度も増えた気がする。歳をとると自然とそうなってくるものなのか、 空気が汚れてきた影響なのか。 鏡を見て、ちょろりんと飛び出しているのに気付く頻度が多くなってきた。 意識し出すと、気になって仕方がない。いつはみ出しているかと。

もちろん、それがかなり みっともない 行為だということは承知している。 人が見ていない時に行うように気をつけてはいるが、習慣とは恐ろしいもので、 ストレスの溜まる作業をしている時など、つい、場所をわきまえず 職場の自席で鼻穴に手が伸びている自分に気がついてハッとしたりする。

そこで思い出すのが、村田カツナリ先生のことだ。
小学校高学年を通じての担任だった村田先生は、当時40歳台くらいだったろうか (ちょうど今の僕くらいの年令だ)。 見るからにくたびれたオッサンという風体だったし、鼻毛も伸びていた。 というか今思い出すとそんな印象しかない。 型苦しさのない、良い先生ではあったのだが、いろいろな大人の側面を 見せてくれた。
村田先生は、教室前方左側の、陽当たりの良い窓際の机に座ってることが 多いのだが、給食の後の休憩時間には、煙草を吸ったり、居眠りをしたりている、 そんな人だった。
その村田先生の見せてくれた荒技が、鼻毛切りだ。 昼休みはもちろん、授業中でも、生徒達に何かの書き物をやらせながらの ちょっと空いた時間、先生はおもむろに机の工作バサミ(!)を手にとり、 その尖った先端を鼻穴に突っ込んで、チョキチョキとやっていた。 またある時は、2本の指先を鼻穴に突っ込み、しかめっ面とともに フンッブチッと鼻毛を抜くことを繰り返していた。
まだ純真で鼻毛も伸びていなかった僕は、そんな村田先生を ちらちらと横目で見ながら、大人って汚ねーなー、あんな風にはなりたくねーなー と心に誓っていた。

比較的絵心のあった僕は、卒業文集で「私達の先生」という 1ページのイラストを頼まれた。 そこで意気込んだ僕は、胴にむしろを巻き、下はステテコに裸足、 鼻毛ボーボーという、うらぶれた村田先生の姿をリアルに描いたのだった。 自分としては力作であったそれは、隣のクラス担任の佐藤キョウコ先生には 大ウケだったのだが、その後なぜか不機嫌になった村田先生から 僕は口をきいてもらえなくなってしまった。

ごめんなさい村田先生。
大人の鼻毛がこんなに伸びるものだとは、鼻毛抜きがこんなに楽しいものだとは、 あの頃は思いもしなかったのです。
でもね先生、子供達から見える所で堂々と鼻毛を抜くのはどうかと思うよ。


2005/04/05 Takakuni Minewaki

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