書 名: パラサイト・イブ
著 者: 瀬名 秀明
出版社: 角川書店 1993/4 ISBN4-04-872862-8 C0093
初めのうちはきっちりとした科学的な読みものだと思って感心して
読んでいたけど、後半は一気に「ねばぐちょごぼぬるじゅる」の世界。
確かにホラーとしては良くできている。ぞくぞくする。
スリル、怖いもの見たさ、はてんこ盛り。こりゃ売れるわな。
第2回日本ホラー小説大賞受賞ということで、受賞作はフジテレビに
よってテレビ映像化されることになっているらしい。
これをテレビで……いったいどんなことになるんだろうか。
さて、進化生物学的観点からだとどう読めるか。ということなんですが。
随所にでてくる手術や生物実験描写の細かさ、最新の生化学的理論説明に よって、イブの存在のリアリティはがっちりと補強されているけれど、 結局のところ、僕にはイブの存在がリアルなものとしては感じられない。 だから心底怖いとは思わない。
背景には「利己的遺伝子」の考え方があり、それが「ミトコンドリア DNAによる細胞支配と繁殖」というイブの動機につながって行くのだろうが、 これでは利己的遺伝子説が (よくある) 誤ったとらえ方をされている。
疑い始めるといろいろ気になる。
1個のミトコンドリアが数億年分の記憶を持てるとは思えないし、
人間と同じような知覚能力や意志を持つとも思えない。
「今まで奴隷にしやがって、いつか見返してやる」とミトコンドリアが
考えるのか? それでなにが嬉しいのか? うむむ、それは人間の思考過程
であって、擬人化が過ぎる。
ある書評では、パラサイト・イブを 漫画「寄生獣」と比べる、 みたいなことを言っていたが、設定のリアルさと言う点では、 イブは寄生獣にはかなわない、と僕は思っている。