書 名:数理生物学入門
〜生物社会のダイナミクスを探る
著 者:巌佐 庸
発行所:HBJ 出版局 1994年3月4日 初版第3刷発行
定 価:3,900 円
ISBN4-8337-6011-8
注) この本は、1998 年以降は共立出版より発行されています。
表紙も変わったようです。
とにかくモデル化、数式化することによって生物の挙動を
理論的に理解しようとする学問分野「数理生物学」の、
初心者向けの学習書。
対象は実に多様なものを扱う。個対数、成長速度、ゲーム戦略、
繁殖戦略、性選択、寿命、共生、などなど……
それぞれの個体が一生懸命に考え、あるいは本能にしたがって主観的に
生きている、人間やその他動物の視点とは別に、
それらの挙動が、数式モデルによって解が得られてしまうというのは
とてもドライな気分になる。しかし、少し離れて見れば、生物は
生き残り機械とみなせるので、単純数式化して得られる結果が実際の
行動パターンと一致する、ということが多くの実例をあげて示してある。
最初に示されるのは「ロジスティック方程式」。
dx/dt = rx(1-x/K)
資源に対して個体数が少ないうちは個対数は指数的に増えるが、
資源が残り少なくなると今度はブレーキがかかり、ある個対数で
平衡値に収束する、ということを示す微分方程式。これに始まって、
数式はどんどん複雑になる。僕は数式はとっても苦手なのですぐに諦めて、
文章だけを読んで行きましたが、それでも内容は大体理解できるし
面白いです。(数式への苦手意識から、読むのにずいぶん時間が
かかりました。)
多くの場合、ある途中状態での微分方程式を作り、次に境界条件や
平衡条件を加えて解く、というやり方をとります。
結局、生物というものは、限られた資源を奪い合いながら、生き残り、
繁殖して続いてゆくことを目的とする機関で、現在の世界は開始から
充分な時間が経った後の安定平衡状態が実現されているはずです。
そう考えるといろいろな条件を仮定することができ、式が解ける。
それを現実の生物を観察して検証する。[モデル化→検証] の繰り返し。
だんだん現実に合致するモデルが残って来て、役に立つこともあるが、
それが万能ではないことは注意しなくてはならない。モデルは無限に
ありうるし、すぐにカオスになるし、パラメータは実に不安定な所で
バランスしている。
モデル化は何にせよ、人間が外界をとらえやすくするためのある種の
単純化であり、そのものではない。世界は恐ろしく複雑だ。
もし、正しいモデルが得られているならば、それはいろいろ
応用できるはずだが、現代世界を考えた場合、環境は人間の巨大な力に
よって平衡状態から外されてしまっているように思うし、
またそれを戻そうとして人為的な変化 (自然保護運動と呼ばれるものや、
目先の利益を得るための環境操作など) が加えられているので、
モデルの前提となる「充分な時間後の平衡状態」が崩れているのでは
ないかと思う。今が大変化の途中ならば、モデルの正確さをどこまで
信用していいものか。
また、人間の挙動は、もはや遺伝的・本能的なものよりは文化的・
後天的・短期的なものによって決定されているし、やはり平衡状態とは
いえないので、予測は難しい。
僕は 性選択の理論 が生物学の世界でどこまで解明されているか知りたかったので、 第 17 章の一連の説明が面白かった。大好きな「Fisher の ランナウェイ・プロセス」も出てきます。