◆ オスとメス・性はなぜあるのか / 長谷川 眞理子 ◆

書 名:オスとメス・性はなぜあるのか
(NHK 人間大学、NHK学園通信講座 受講テキスト)
著 者:長谷川 眞理子
編 集:日本放送協会
発 行:日本放送出版協会
価 格:550 円
ISBN4-14-188983-0
なぜ生物にはオスとメスがあるのか? なぜ性は二つに分かれ、
三つにはならなかったのか? 性にまつわるさまざまな不思議を
現代進化生物学の手法で解き明かすとともに、われわれ人間の男女にも
通じる「性のあり方」を考える。(表紙より)
Contents
- 性とは何か?
- 性の起源
- 卵と精子
- 生き物たちの奇妙な性
- オスとメスはなぜ違う?
- 繁殖のチャンスを決定するもの
- メスをめぐる競争
- 選ばれるオス
- どちらの性の親が子を育てるか?
- 性比の進化
- 配偶システム
- 人間の性差と社会
NHK教育テレビ「人間大学」で、1997年4〜6月期に放映された番組の
テキストとして出版されたものです。
講師の長谷川眞理子は
「孔雀の雄はなぜ美しい?」の著者、
「性選択と利他行動」
の翻訳者、ということで、行動生態学、性選択のプロです。
進化・性選択は僕の最も興味の
あるところなので、毎回期待して、テレビを観ていました。
そしていつも期待通りの楽しい講義をしていました。
テキストの内容はとても濃く、また一般向けに平易に書かれています。
先頭から順を追って読み進むと、性(オス・メスという区別)が何であり、
何のためにあるのか、それによって何が起るのか、ということが
わかってきます。それぞれの場面でいくつもの仮説が紹介され、
総説としてとても丁寧です。
「性淘汰(性選択)」については、第5回「オスとメスはなぜ違う?」
で紹介され、詳しい理論については第8回「選ばれるオス」で
「優良遺伝子仮説」と「フィッシャーのランナウェイ仮説」が
出てきます。これらはまだ仮説のいくつかにすぎないのですが。
世界を見回すと、いろいろな生物が実にさまざまな生殖・繁殖戦略を
とっていて、それは住む環境や、体の構造や、子育てするかどうか、
どっちがするのか、などによって違います。場合分けして違う説明を
考えざるを得ません。
しかし、どの場合にも、自分の遺伝子をより多く残すための戦略として
配偶行動をとらえることが可能で、その点ではダーウィンの自然淘汰説に
従っています。
ヒトも、もちろん哺乳類の配偶システムを引きずっています。
メスには乳があるし授乳します。しかしヒトの子供は成長が遅いので、
多くの哺乳類(95%)と異なり子育てにはオスの参加も必要と
なってきました。オスとメスが共同で子育てしながら生活するなかで、
役割分担や、配偶者防衛や嫉妬の感情も発達してきました。
そんな経緯で現在の状態に至っているようです。
現在のヒトの行動や感情を分析すると、
過去の性選択の名残りと思われるものがいくつもあります。
説明ができるのです。
しかし、問題はここから先です。ここまで説明されてきた、これらの知識は
いったい何の役に立つのでしょう? 学問としての意義はあるのでしょうか?
これからの時代を私達はどう生きるべきなのでしょうか? と著者は
問いかけます。ヒトの住む環境は急激に変わってしまったので、
過去の名残りの感情や行動様式は、障害になっているのかもしれません。
どちらに進むべきか、その答えはありません。ただ、なぜ今の私達が
こうなっているかを知ることが、正しい方向を決める上で何かの
役に立つだろう、というにとどめています。
この辺は考え出すととても微妙で難しい議論です。
僕も悩んでしまうところです。
「私達はこうできている。だから、こうすれば気持ち良いのだ。」
と説明づけることができるものでも、それが社会的・倫理的に
危険なものとなってしまう場合がありそうです。
例えばオスの浮気(の正当化)。例えば性差別(能力差の説明づけ)。
議論の進め方には注意が必要です。
進化的立場から見た、動物や人間の配偶戦略、という同じテーマを扱いながら、
竹内久美子の本とはかなり趣が違います。
真面目に、真理に近いことを知りたいのならば、この「眞理子の本」を
薦めます。
1997/09/14 T.Minewaki
2002/11/04 last modified T.Minewaki
→ 孔雀の雄はなぜ美しい? / 長谷川真理子
in 書物
→
性選択と利他行動 / ヘレナ・クローニン
in 書物
→ もっとウソを! / 竹内 久美子 & 日高 敏隆
in 書物
→ 愛はなぜ終わるのか /
ヘレン・E・フィッシャー
in 書物
→ 性選択のまとめ
in 生命のはなし
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