日本心理学会第67回大会 公開シンポジウム
【共催】21世紀COEプログラム“心とことば−進化認知科学的展開”(東京大学)
「心の進化学と考古学」
日時:2003年9月15日(祝) 13:30-15:30
場所:東京大学本郷キャンパス法文2号館31番教室
(入場無料・どなたでも参加できます)
企画:長谷川寿一(東京大学)・佐伯胖(青山学院大学)・
柏木恵子(文京学院大学)
話題提供:内田亮子(千葉大学)・松本直子(岡山大学)
指定討論:佐伯 胖(青山学院大学)・柏木恵子(文京学院大学)
○趣旨
心理学が対象とする心は,通常,現代生活をする人々の心であり,
従来の心理学のタイムウィンドウは,せいぜい個人の一生(すなわち数十年の幅)
であった。一方,近年発展しつつある進化心理学では,心の進化や由来を
問題にし,より長期的な時間軸から,ときには数百万年というスケールで
心の成立と発生を考える。今回のシンポジウムでは,心理学の関連領域である
先史人類学と考古学の専門家の中でも心の進化と歴史性に詳しいお二人を
お招きし,近年の研究動向について紹介いただく。進化心理学が,
関連諸分野をつなぎ合わせる「赤い糸」であることをご理解いただけるものと
期待している。
○話題提供の要旨
1.内田亮子
「心」の進化と遺産−600万年間の過去の証拠からヒトの身体は
進化の産物であり,異なる時期に異なる理由で獲得された形質が妥協しながら
機能している。例えば歯,骨盤や頭蓋と同じように,脳の働きにも歴史がある。
その進化の過程と遺産を知ることが,現代人の「心」の理解には重要である。
本講演では,人類進化約600万年を振り返り,何がいつ起こったのか最新の
人類学的知見を紹介し,「心」の進化を読み解く手がかりとなる過去の証拠に
ついて概観する。
2.松本直子
認知考古学は心の進化をどうとらえるか人の心を理解するうえで
人類進化のプロセスが鍵となると考える進化心理学の登場以来,考古学と心理学の
関係は密接なものになりつつある。心理学,形質人類学,文化人類学,霊長類学,
哲学などの成果を参照しつつ,心の進化をめぐる学際的な研究の進展に貢献しよう
としている認知考古学の動向について紹介したい。心の進化と深く関わる
集団規模,道具の製作と使用,性別分業,性淘汰,象徴的認知能力などについて,
考古学者がどのような議論を展開しているか,またそれらの分析を通して
どのような心の進化モデルが提示されているかを概観し,認知考古学が果たしうる
役割について考える。
以下、MINEW のコメント:
「人間の進化的理解」に関する講演を聴くチャンスはここしばらくなかったので、
最近はどういう話題があるのかなーと思って聴きに行きました。
日本心理学会・年大会の中でこういうシンポジウムが持たれるということは、
これまで心理学会内では進化的思考は重要視されなかったということか。
うむむ。
話題提供者の内田さんは人類学者、松本さんは考古学者である。両者とも
人間の進化的理解の重要性をふまえた上で、それぞれの分野から人類進化史を
解説した。
詳細は省略する。印象に残ったことだけメモする。
従来の考古学は、出土する石器や骨格などを分類することが主な仕事だったが、
これからは、その背後に「どういう心理が読み取れるか」を考えていきたい。
もちろん手がかりは少なく、難しいが。
たとえば、石器の形状の高度化から、脳機能の発達が読み取れないか?
一例として、150〜20万年前に見られる「アシュール型石器(手斧)」は、
左右対称で美しいものだが、機能的に必要な以上に対称性が高く、使いにくいほど
大きいものがあったり、使いきれないほど大量に製造されていたりする。
これは、もしかしたら実際に使用する武器としてではなく、男性の道具制作能力を
示すシンボルとして、女性へのアピールに使われていたのではないか?
美しい石器を沢山作れた男性ほど女性に人気があったということ。
この時代の人類に「性選択」がはたらいていた証拠とは考えられないか?
…などなど。「心理を読み取る」という目的は正当な方向だと思うが、
考古学的な遺物に残されている情報は少なく、証拠として使うのは
難しいだろうなーと感じた。がんばってください。
2003/09/15 T.Minewaki
2003/12/30 last modified T.Minewaki
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