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1222

トリウム溶融塩炉

2008/11/29

原子力発電は化石燃料枯渇後の太陽光発電へのつなぎのエネルギー源として見直しされている。しかしウランを核分裂させるウラン炉は水を使って熱を取り出すため圧力容器と制御棒と燃料棒交換という本質的に不安全な要素を持っている。また超ウラン元素などの放射能廃棄物の処分、プルトニウム生成で核拡散の懸念、ウラン資源の量の限界がある。

しかしトリウム(Thorium)は資源の量ではウランの4倍ある。トリウムは希土類採取の残渣として世界に数十万トンの在庫がある。今の世界の原発と同じ規模(4億kW)を今世紀末まで動かせる量である。このトリウムをフッ化物溶融塩(LiF−BeF2)に溶かして核分裂を行うので圧力容器を使わず、制御棒も必要なく、燃料交換のため運転を停止する必要もないため、 稼働率が高く、容器破損などのときには反応が自動停止するなどウラン炉より安全である。超ウラン元素も生成しないので廃棄物処理の負担を軽減できる。プルトニウムを生成しないので核拡散の問題もない。

米国ではオークリッジ国立研究所(ORNL)で1950-1970年代に溶融塩炉が研究され、4年間、無事故で運転した。溶融塩容器としてNi合金製容器材料との充分な共存性が確認されている。 ただこの方法は強い放射線を出す核燃料が液体として循環するため、循環ポンプ、配管、熱交換機などのメンテナンスが手に負えない面倒なものになりそうで大型装置には誰も手をつけない。黒鉛の寿命も心配だ。冷戦下で核兵器の材料としてのウランとプルトニウムを捨てられず、ウラン炉が政治的に選ばれたということもあるだろう。

冷戦が終結し、核兵器は不要となる。こうして温暖化防止の課題を前にトリウム炉が見直されている。オーストラリアのマイケルジェフリー総督は今年5月、「持続可能なエネルギー源としてトリウム利用を考えるべきだ、トリウムは核兵器を生まないからだ」と述べた。10月にドイツで開催された気候変動専門家会議でも議論され、昨年12月の日中印温暖化専門家会議の声明文にも明記されている。米国民主党のリード上院議員が2億5000万ドルのトリウム燃料研究開発費支出法案を提出している。チェコでも2013年から溶融炉実験炉の建設計画がある。

日本では元東海大学教授の古川和男博士がトリウム溶融塩炉を提案している。水爆の父、エドワード・テイラーも亡くなる前、トリウム溶融炉を支持していたという。研究者に無駄飯を食わせるだけが目的のように見える固体燃料ウラン・プルトニウム高速増殖炉と核融合に数兆円の集中投資をしている日本はトリウム溶融炉の長所に無関心でなんの動きもない。日本が開発しなければ他の国、たとえば中国に抜け駆けされるかもしれない。

詳しくは古川和男著「『原発』革命」参照。

2008/11/28朝日「私の視点」で亀井敬史京都大学助教が提案

Rev. September 26, 2010


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