読書録

シリアル番号 996

書名

戦後史

著者

中村政則

出版社

岩波書店

ジャンル

歴史

発行日

2005/7/20第1刷
2007/2/5第10刷

購入日

2008/12/24

評価

岩波新書

かっての上司小松さんからこの本を楽しんだとのメールをもらった。そこでどんな本か早速岩波の編集者のコメントを読んでみた。

編集者は「今年は、1945(昭和20)年の敗戦から60年という節目の年になります。60年は、人の一生にも等しい長い時間です。明治が45年、大正が15年、戦前昭和が20年ということと比べてみると、その長さがいっそうよく分かります。この節目の年に、戦後とは何だったのか、60年の歴史をふりかえり、戦後の意味を考える本が出せないかと、中村政則先生にご相談したのが、一年前でした。

かつて、中村先生の『労働者と農民』をとても面白く読んだので、今回のお仕事についても、期待するところが大きかったのですが、短期間に読みやすく、バランスのよい戦後史を書いていただけたと思っています。この本を書くにあたって中村先生は以下の三つの点を重視したと言われていますので、その点を念頭において、本書を手にとっていただけたら幸いです

(1)戦争とグローバルな視点を重視する貫戦史(トランスウォーヒストリー)という方法を用いて通史的叙述を試みる(これは通史を書く新しい方法で、これから注目されるものだと思われますが、その先駆的試みです)。

(2)戦後民主主義を否定的に捉える論調や歴史認識が強まっている中で、戦後の意味や可能性を捉えなおす(憲法問題を中心にこれからも多いに議論されると思われる戦後的なものの意味を考える際の最良のテキストになる本だと思います)。

(3)アジアとの関係や記憶の問題を重視する(靖国問題、教科書問題などで、アジア諸国との間の軋轢がなぜ続くのか、その理由を考えるために、戦争の記憶の問題とも絡めながら、戦後史をアジア諸国との関係を重視して描いています)

戦後史の通史については、すでに正村公宏氏の『戦後史』をはじめ、いくつかの成果がありますが、最新の戦後史研究をふまえているという点では、他に追随を許さないものができたと思っています」と書いている。

巷では本書を反朝日人のブログなどではかなりいい加減な批判しているので日本人の半分は感情的なナショナリストになってしまっているなと心配しており。戦後民主主義を否定的に捉える論調や歴史認識が強まっていることを憂慮している人間なので良書と判断した。

本書を長野駅前で購入して少し読んだ。淡々と興味深い見方が幾つか書いてあった。

その一つはミズリー艦上で署名したのは連合国側はマッカーサー1名に対し、日本側は参謀総長と外省2名だったのはなぜかである。答えは明治憲法に既定された統帥権の独立の所以である。

その二は象徴天皇、第九条、沖縄の軍事基地は三位一体

である。国民が平和憲法でのんきにしていられるのは沖縄があるからで沖縄を軍事基地から開放するためには九条を改訂しなければならない。というようにも解釈される。

マッカーサーは天皇の効用を知ったため天皇に免責を与えて間接統治に利用した。また沖縄を軍事基地にできれば九条による日本の軍備放棄は問題ないと考えたというのはなるほどとおもいました。逆に考えると憲法9条を改訂するためには沖縄や横須賀の軍事基地を米国から奪回し、天皇制を再検討するというところまで踏み込まないといけないのではとの伏線のようにも思える。

しかし著者の心情は護憲でエンゲルスの「他民族を侵略する国家は自国民を解放することはできない」という言葉を引用して締めくくっている。

官僚が話題に上らない。著者の心はわからないが、官僚は政治家と一体で政治をしてきたのでその成功も失敗も歴史にあらわれているとみているのかも。政治の世界について「貫戦史」的記述は少ない。小日本主義の石橋湛山とその対極にいた国家膨脹主義の徳富蘇峰なども言及すれば深みは増したであろう。新書本のためページ数が尽きたのか?

ところで我が友人川上は[日本人は国際連合を誤解している。これは英語でUnited Nationsという。日本が負けたのは米国をリーダーとする連合国(アンチ枢軸国連合)である。これも1942年1月1日の連合国共同宣言 (Declaration by United Nations) 以来United Nationsという。その違いは何か?実は同じ物である。戦後、外務省の役人が巧妙に国際連合と違った訳をつけたため国民が誤解するようになった。外務省の友人にこれは詐欺ではないかと質問したところ、そのようなことはいわないほうがいいですよと言われた]と言っている。


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