読書録

シリアル番号 929

書名

原発のどこが危険か 世界の事故を検証する

著者

桜井淳

出版社

朝日新聞社

ジャンル

技術

発行日

1995/2/25第1刷

購入日

2008/2/17

評価

朝日選書520

鎌倉図書館蔵

グローバル・ヒーティングの黙示録」を書いて、東京電力OBに読んでもらったところ、全体は素晴らしいが原発の安全性のところの理解は間違っているという。感情論を抜きに科学的手法で解析したつもりが文学的すぎるという。コメントの方が従来からある宣伝臭が強いと感じたが、何せ公開データが少ない。たまたま図書館で本書を見つけた。

筆者は原研で10年、通産の下部機構である原子力安全解析所で4年の経験を持つ物理学者であり、国内の事故・故障350件、米国の事故・故障記録35,000件を7年間に渡って調べて本書をまとめたという。これに勝る資料はないと借りる。

このような本を出版すると原発推進派から累計1,500回、反対派から500回の脅迫や妨害を受けたという。

圧力容器の中性子脆化問題

まず遡上に上がるのはこの問題である。マーシャル・リポートによれば炭素鋼の脆化遷移温度(Nul Ductility Transition Temperature)は-20oC程度である。 (圧力容器は内面にステンレスを張った炭素鋼を使う)-20oC以下での破壊確率は年間平均1/100,000,000である。これに0.1MeV以上の高速中性子を照射すると 格子欠陥が生じる。これが照射損傷と言われるもので、脆化遷移温度が上昇し、40年運転すると遷移温度が93oC(250-安全余裕度50=200oF)に上昇する。 容器の温度がこれ以下に下がると脆性破壊確率は年間平均1/20,000,000程度に増える。何らかの事故時に緊急炉心冷却装置が作動したり、主蒸気配管のギロチン破断など生じたときに圧力容器 が急減圧し、この遷移温度より下がると上の破壊確率になるということである。ということで93oCになったら廃炉にするのが軽水炉の当初の設計思想であった。

BWR炉はサイズが大きく、中性子密度がPWR炉より一桁低いので設計寿命運転しても93oCにおさまる。しかしPWR炉では40年も運転しないうちにこの93oCを越える炉が続出した 。米国の原子力規制委員会が350炉・年の運転実績を分析して加圧熱衝撃(Pressurized Thermal Shock)の発生頻度が100炉・年に1回として廃炉にする遷移温度を軸方向132oC(320-安全余裕度50=270oF)円周方向149oC(350-安全余裕度50=300oF)と決めた。これにより軸方向の破壊確率は年間平均1/200,000、円周方向の破壊確率は年間平均1/30,000程度に増えた。これが米国基準となっている。

通常のボイラー大規模な破壊を生じる確率は年間平均1/200,000程度、小規模破壊の平均確率は1/10,000であるので米国の原子炉はボイラーと同程度の安全で或ることが分かる。

1969年に鋼中の銅不純物が中性子脆化を促進することが分かった。米国製の圧力容器には銅が0.117%含まれていたためにこのような事態になったのである。日本製の容器には0.054%含まれるとされている ので米国のような基準の変更はなされていない。しかし美浜原発1号炉は米国製である。日本では銅不純物含量は公表されていないが、日本製の圧力容器でも1974年ころ製作された高浜原発1号機、玄海原発1号機の圧力容器の銅不純物は多いと疑われている。

ソ連製圧力容器の焼きなまし

ソ連ではステンレスを内張りしないリンと銅の不純物の多いクロムモリブデン鋼を使い、燃料と容器内壁の間隙が米国製の47センチではなく、34センチである。高速中性子減速が厚さの指数関数関係にあるため、軽水層の厚さ不足で中性子脆化がはげしく、遷移温度は190oCになった。この時の破壊確率は炉・年当たり平均1/1000-1/100になった。このため、使用中に電熱ヒーターで480oC、72時間、現場焼きなましをしている。

ちなみに日米の炭素鋼製圧力容器の応力除去焼鈍の温度は625oC、40時間である。

PWR炉蒸気発生器

1970年代に運転開始した日本のPWR炉では蒸気発生器のインコネルMA600製伝熱管の減肉、応力腐食割れ、粒界腐食割れ、炭素鋼製支持板の腐食・変形が頻発した。美浜原発2号機では伝熱管ギロチン破断した。インコネルTT600製伝熱管とステンレス405製支持板に材質を上げた蒸気発生器に寿命半ばで交換した。

米ソともPWR炉は原子力潜水艦の炉を商用化したものである。ソ連はその時代の横型蒸気発生器を商用炉でも使い続けて縦型管板であるコールドヘッダーに生じる応力による割れが歪に悩まされている。

スリーマイル島原発2号機(PWR)の炉心溶融

2次水給水ポンプが脱塩装置の故障で停止したとき、2台の補助給水ポンプの出口弁がマニュアルで閉じられていたため、熱除去ができなくなった。

加圧器圧力逃がし弁は作動し、スクラムしたが、圧力が下がっても逃がし弁が閉じず一次系の冷却水は減少する。緊急炉心冷却装置が自動起動したが、加圧器に設置された水位計が二層流のため満水という誤表示のため、オペレーターは緊急炉心冷却水量を絞った。

スクラムから73分後;炉心で沸騰が生じ、循環ポンプがキャビテーションしはじめたので運転停止。このとき炉心の水位は燃料集合体上部まであった。

スクラムから100分後;炉心上部が水から露出して燃料上部の温度が上昇しはじめる。

スクラム140分後;水位は半分に下がる。上部の温度は827-926oCに達し、被覆管が破裂し始め、格納容器内の放射線レベルが上昇し始める。このとき逃がし弁の元弁をようやく遠隔手 動で閉じる。

スクラム後150-165分後;水位は炉心下1mまで下がり、炉心温度は1468oCまで上昇。一次冷却材ポンプを19分間運転して28トンの冷却水を炉心に注入すると圧力は55気圧に上昇したため一次冷却材ポンプを止め、逃がし弁の元弁を開けて減圧。この急冷で酸化した被覆管とペレットは破砕粉となって上部デブリとなった。

スクラムから180-200分後;炉心に注入した冷却水は沸騰して水位は再び炉心下端から2m下になった。

スクラムから200-226分後;緊急炉心冷却装置を17分間動かし、炉心は冠水したため圧力が上昇し損傷炉心は再度過熱する。

スクラムから224-224分後;溶融金属とセラミックからなくクラスとが加熱と減圧によって破砕され圧力容器の下部プレナムに流れおちた。その量は20トン。圧力容器の底の温度は827oCを越えなかったので幸運にも底はぬけなかった。

スクラムから226分-15.5時間後;15.5時間ようやく一次冷却系ポンプを運転開始。炉心の45%が溶融し、そのうち14%(20トン)の溶融物は圧力容器の底に落下した。

チェルノブイリ原発4号機(黒鉛チャンネル炉)

西側の原発は負の冷却材ボイド係数になっているが、この炉は正の冷却材ボイド係数を持っていたため、炉心の蒸気圧上昇に伴い核分裂の反応度が増加してしまった事故である。このような炉に制御棒をスクラムしても暴走は止められない。温度上昇によりウラン238が余計中性子を吸収するドップラー効果は正の冷却材ボイド係数に負けて暴走した典型的な反応度事故である。制御棒の構造欠陥によるポジティブスクラム効果だけではない。

ブラウンズフェリー原発1号機(BWR)のケーブル火災

制御室地下にあるケーブル室でローソクの火がケーブル貫通部シールに引火し1,600本のケーブルが焼けた。多重化してあったシステムもケーブルが同じところを通過していたため緊急炉心冷却装置は動かず、原子炉隔離冷却系とホウ酸注入系のみでかろうじて炉心冷却するというところまで追い詰められた。ラスムッセン報告では本火災の炉心溶融確率は1/300としている。

外部電源が切れるステーションブラックアウトは非常用ディーゼル発電機の起動失敗確率に左右される。米国では起動失敗確率は年間平均1/100,000。ソ連では起動失敗確率は年間平均1/1,000

サリー原発2号機(PWR)の二次系配管のギロチン破断

復水器と給水ポンプを結ぶ18インチの主配管の破断。検査期間内に発生したコロージョン・エロージョンによる減肉が原因。

BWR炉の循環ポンプ系の故障

3ー5年に1回の頻度。一般にこのポンプが停止するとボイド効果により出力は半分になるが、ラサール原発2号機のように振動現象を生じることもある。出力の大きい燃料棒と低い燃料棒の水平方向の比率が1.1を越えるとボイドが振動して出力の振動現象が生じる。

Rev. March 18, 2008


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