読書録

シリアル番号 857

書名

人体 失敗の進化史

著者

遠藤秀紀

出版社

光文社

ジャンル

サイエンス

発行日

2006/6/20第1刷
2006/8/15第3刷

購入日

2007/5/25

評価

原卓と会うためランドマークタワーに出かけて、店頭で見て、衝動買い。

動物の解剖を通して進化をみるという観点が面白い 。進化とはすでにある部品を生存するためにご都合主義で用途を変えてつかえるように初期の目的とは別のものに使うために設計変更すること。その例として

(1)鳥も立派な烏口骨(うこうこつ)と貧弱な肩甲骨は鳥が空を飛ぶために爬虫類時代に同じくらいの大きさだった両者を設計変更した結果である。

(2)心臓はナメクジウオはじめて持った血管系に分布した筋肉がその始まり。

(3)骨は当初は体に芯を入れる目的で設計されたものではない。植物プランクトンが供給してくれる稀少なリンを植物プランクトンが少ない時期にも確保するための備蓄機関として骨は考案された。

(4)耳小骨は聴覚器官として設計さてたものではない。我々が魚だったころの舌顎骨(ぜつがいこつ)を転用したものだ。では我々の現在の顎は何かというと上顎側は側頭骨(鱗状骨)、舌顎側は歯骨を転用したものだ。さらにさかのぼって魚の顎は何から転用したかというと鰓の鰓弓(さいきゅう)を転用したものだ。

(5)手足は魚の胸鰭と腹鰭を転用したものだ。シーラカンスがその移行過程の生きた化石とされる。

(6)我々の臍の緒は爬虫類や鳥類の赤ん坊と黄身を結ぶ卵黄嚢(らんおうのう)と尿嚢が設計変更されたものだ。

(7)乳腺の起源は汗腺である。

(8)肺の起源は鰾袋(うきぶくろ)である。

(9)鳥の羽の起源は肩から肘、肘から手首までの骨で手の指は退化してなくなっている。コウモリの羽は逆に指の骨が発達したもの。

(10)鳥の骨盤と背骨の下部は一体化して軽量化している。これを腰仙骨(ようせんこつ)と呼ぶ。

などなど延々と続いていよいよ人体にたどりつくが、二足歩行、幅広骨盤、殿筋群、親指対向性、左脳右脳の機能分化、腰痛、ヘルニアなどすでに語りつくされたところのリピートは多少退屈。ただしなぜ月経があるかという考察はユニークで考えさせられた。すなわち哺乳瓶の発明がその原因だというのである。授乳していれば黄体ホルモンの影響で月経は発生しないのに、便利な哺乳瓶のおかげで授乳期間が短くなって結果として月経が始まるわけだ。

ホモサピエンスは失敗作で次の体の設計変更がなされないうちに我が人類は自ら作り出した環境変化に適応できず終焉を迎える種かもしれないと予測する。


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