読書録

シリアル番号 713

書名

考える脳 考えるコンピュータ

著者

ジェフ・ホーキンス、サンドラ・ブレイクスリー

出版社

ランダムハウス講談社

ジャンル

サイエンス

発行日

2005/3/23第1刷

購入日

2005/8/31

評価

原題:On Intelligence How a New Understanding of the Brain Will Lead to the Creation of Truly Intelligent Machines by Jeff Hawkins and Sandara Blakeslee

ソニーの研究者だった天外伺朗(てんげしろう)が朝日の書評で激賞していたので友人の描いた絵画を日本橋の画廊に観に出かけたついでにOAZOの丸善で買い求め、2日で完読。

丸善のビルが消えてなくなっており少々あわててさがすと丸の内に2004年暮れ開店したOAZOというショッピングセンターに引っ越していた。ジェフ・ホーキンス氏は グリーンウッド氏が愛用しているパームコンピュータの開発者だが彼の本当の興味は脳にあり、20年前に大学でつまらない人工知能研究で人生を無駄にしたくないと考え、中退、チャンスが来たら研究を再開するためにまず研究資金を溜めるためとパームを開発したのだそうで、シュリーマン的人物だと感心した。

OAZOは妙な名前だと思ったが丸の内地区(O)と大手町(O)を包括的に(AZ)結ぶ、「Office&Amenity ZOne」であることを表現したのだという。さらに「OAZO」はエスペラントで「オアシス、憩いの地」の意味でもある。私はAOZOと自称しているが、 英語の世界ではOAZOと間違って呼ぶ人がいるので奇妙な感慨を持った。

昔、人工知能を開発せんとした通産省の大型プロジェクトで俗にいう第五世代コンピュータ開発プロジェクトで米国政府を警戒させたり、 ニューラル・ネットワークだのと騒がれたがどれも上手く行かないだろうという予感はあった。ジェフ・ホーキンス氏も同じ考えだったようで、まだこの分野は 早すぎると大学を中退してPDAの開発で成功し、金持ちになった。そしてその資金でレッドウッド神経科学研究所を設立し、氏の20年来の着想を証明する研 究に着手し、この本はその通俗解説書。

氏は人工知能だのニューラル・ネットワークだの、ロボットだのが知能を持った機械になれなかったのは、チューリングの万能マシンという偉大なコンピュータ の基本設計概念を打ち立てた人が定義した「人工知能は人間の行動を再現すればよし」としたチューリング・テストの概念の弊害にとらわれていたためという。 氏は知能の本質は記憶にありと喝破。次第に明らかになりつつある大脳皮質の階層構造と柱構造、各層でのパターンとシーケンスの抽象化、上昇して行くに従い 抽象化されるセンサー情報、記憶からなされる予測の下向きの流れ、相方向の情報が重なることによる認知の機構、全く未知のパターンとシーケンスは最終的に 最上層を抜けて海馬に至り、新しく記憶すべきことと認知され、下の層に送り返されるという脳の機構のモデルを提唱している。

この脳の構造をシリコン上に再現するにはまず記憶容量としてはパソコン80台くらい。何よりも難しいのは1個のニューロンが持つ5,000-10,000 個のシナプスのための配線を半導体上に金属の層として交差せずには多層にしてもとても作りきれない。そこでスイッチングにより配線網の共用をすることで構 築可能となるだろうと予測する。

こうしてできた知能マシンは自律走行自動車、視覚情報処理、音声認識にまず応用可能だが人間が持たないセンサーを連結して現実世界を監視、予想するあらゆるシステムが考えられる。


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