読書録

シリアル番号 670

書名

漱石全集 第四巻

著者

夏目漱石

出版社

岩波書店

ジャンル

小説

発行日

1966/3/25発行

購入日

2004/12/10

評価

鎌倉図書館蔵

東慶寺の井上和尚が漱石が東慶寺に参禅した経験を織り込んだ小説「門」について言及し、「あれは不倫小説ですよね」と言った言葉が気になり、未読の「門」を読んだ。

前半はなんでこんな煮え切らない男が不倫をするのか解せなかった。が、後半実はこの男が煮え切らなくなった原因が現在の妻を親友から奪った暗い過去にあり、社会的な制裁があったため引っ込み思案な性格になったとわかる。そしてその親友がその後、大陸浪人になり近くに来ているということを知り、良心の呵責 に責められ、もしかして現在の居所が相手に知れてしまうかもしれないという恐怖で恐慌をきたす。参禅して逃避できるか試みるとういどんでん返しがあって結局挫折せず読み通すことができた。

この第四巻には「三四郎」、「それから」、「門」の三部作が収納されている。三四郎は若い頃読んだが三四郎池界隈の記憶しかない。美禰子(みねこ)が三四郎をふるせりふが「われは我が愆(とが)を知る。我が罪は常に我が前にあり」というダビデの歌の一句だという解説の一言で読み出したらハマッテしまった。「それから」は反対に自分の女を義侠心で友人に譲ったのち、「われは我が愆(とが)を知る。我が罪は常に我が前にあり 」を痛切に自覚するようになる主人公の話だそうでこれも読む。

「こころ」もそうだが漱石は三角関係をテーマにした小説を沢山書いた。実生活でも兄嫁・登世や友人小屋の奥さんの大塚楠緒子(くすおこ)に慕情を抱いていたと言われる。 楠緒子は虚栄心が強く、女王的性格の女で二人に向かってその一人にだけ意があるように見せかけてあやつっていた。そのため小屋、漱石とも楠緒子と結婚出来ると思っていたが、いざ蓋をあけてみると選ばれたのは漱石ではなくて小屋の方であった。この時の漱石の失望と苦悩は大きく、漱石の心に一生消えない傷跡となって残った。後年、モチーフとして男女の三角関係を好んで題材に選び、当事者の心理的葛藤を執拗に追求したことにその現れがあるとされているようだ。


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