読書録

シリアル番号 626

書名

遊牧民から見た世界史 民族も国境もこえて

著者

杉山正明

出版社

日本経済新聞

ジャンル

歴史

発行日

1997/10/2第1刷
1998/4/21第4刷

購入日

2004/05/16

評価

鎌倉図書館蔵。杉山氏の著書としては「クビライの挑戦 モンゴル海上帝国への道」についで2冊目。

戦後の日本の歴史教科書は自虐史観に立っている。これを是正するためとして「新しい歴史を作る会」を結成して大キャンペーンを展開している右派の西尾幹二氏や左派の網野喜彦の史観とはどういうものか調べているうちに、西尾氏は岡田英弘氏の展開する史観を、自分に都合のよいところだけを、岡田氏の名前を伏せて引用して手前ミソの観念論を展開しているのが許せないと憤慨しているあるウェブサイトを読んだ。西尾幹二氏は体系性のない知識の羅列を都合よく組み立てて自己中な観念論をいるにすぎないという人もいる。そこでこの本を読む気になった。西尾幹二氏はことのほか華夷の別のような二元世界のイメージを主張する。だれでも生きてゆくための本能として自尊心は持っている。これを自分の属する集団にまで拡大することも自然。しかし歴史家が自分が現在持つ価値観を過去に逆投影して、価値づけや評価を行なうと、サイエンスとしての客観性と実証性を失い、学問としてははなはだ危険なことで、単なるデマゴーグと化すのではないか。西尾幹二氏はこの歴史家がしてはならないことをしているのではと危惧した。ト本ということのようだ。

ユーラシア大陸の中心から見た世界史を遊牧民族が残した少ない歴史資料をもとに再構築したもので西洋・東洋史の偏った見方から解放してくれる好著である。

日本では西欧の成功を一神教をもったことに関連づける俗説があるが、明治の人が看破したように富国強兵の認識がただしい。歴史は軍事力によって決まる。西洋が海に乗り出す前の「陸の時代」にはモンゴルの「騎射の時代」でコロンブスにはじまる「海の時代」は「火器の時代」と喝破している。遊牧民は能力主義、実力主義の世界に生き、馬に乗れ、自然現象に敏感、家族と家畜への心やり、計画性、耐久力、瞬時の判断力、果断さが要求される。そして集団への帰属性と強烈な個の意識など矛盾する資質が1個の人格に並存しなければならない。一神教とは何ら関係ない特質ではないだろうか?

リヒトホーフェンが言い出したシルクロードという言葉は点と線によって西と東がかろうじてつながっていたというあやまてる史観をもたらしたが、モンゴル時代は面でユーラシア大陸が統合されていたという新解釈がまぶしい。

西洋が強いというイメージも不当に拡大されていて、海の時代に西洋が征服できたのは南北アメリカ大陸とオセアニアだけで、アジアは征服できていない。

こうしてできた米国は世界最強の軍事力を持つに到ったが、いつ内部崩壊してもおかしくはないという予感を杉山氏は語っている。じつはアメリカこそが今後の世界の不安要因だという危惧は最近のガタの来た米国をみていると納得させるものがある。
1421 中国が新大陸を発見した年」という英国の元潜水艦館長の仮説も出て、歴史が面白くなってきた。


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