シリアル番号 | 608 |
書名 |
ローマ人の物語 XII 迷走する帝国 |
著者 |
塩野七生 |
出版社 |
新潮社 |
ジャンル |
歴史 |
発行日 |
2003/12/15発行 |
購入日 |
2003/12/13 |
評価 |
優 |
アークヒルズ3Fの丸善書店で買う。発行日2日前である。ちょうど13日に配本があって第一番の客だと店員がいう。土曜日の正午前のことである。
なぜローマ帝国は衰退したのかというテーマには大いに興味がある。さっそく帰りの電車のなかで読み始める。
トルストイ作の小説「アンナ・カレーリナ」の冒頭の一行「幸福な家族はいずれも似ているが、不幸な家族はそれぞれ違う不幸を抱えている」を歴史に適 用すれば「興隆の時代はどの民族もでも似ているが、衰退期となると、それぞれが違う様相を呈してくる」とでもなるのだろうが、家族の場合に当てはまる法則 は膨大な人間の集合体である帝国には通用しない。帝国の場合、興隆も衰退も同じ理由によることが多く、ローマもローマを興隆させたまさにその衰退の原因と なっていると書きはじめる。
カラカラ帝が発した帝国内に住むローマによって征服された属州民にも等しくローマ市民権を与えるという「アントニヌス勅令」 (Constitutio Antoniniana)が衰退のきっかけになっているとの新説を彼女はたてる。ローマ興隆の要因は武力によって制圧した地方の住民を宥和し。ローマに協 力した人間にはローマ市民権を与え、元老院メンバーになることはおろかローマ皇帝にもなれる道を作って、属州の有能な人材を取り込んだことにある。しかし 全住民にある日突然、無条件にローマ市民権を与えたことにより、ローマのために努力するというインセンティブは消えうせるとともに、既得権としてあった旧 ローマ市民権を新たに与えられた新市民権と区別するという差別意識が生まれ、ローマは瓦解の道を突き進むことになるというのである。日本の企業や役所が戦 後そろって採用した終身雇用保証など、日本の戦後の躍進と最近のスランプの原因になっているのかもしれないと思い至る。
キグリー(Carrol Quigley)はThe Evolution of Civilizationで「文明は拡大するための道具を備えているから成長する。軍事、宗教、政治の組織が余剰を蓄積し、それを生産的な革新に投資する からである。文明が衰退するときには、新しい方法に余剰分をあてなくなる。余剰を管理している社会集団が既得権益を持って、余剰の使途を非生産的で利己的 なものにあてるからである。人々が自分の資本を食いつぶしていくうちに、文明は世界国家の段階から衰退の段階へと移行してゆく。衰退はやがて侵略期につな がり、野蛮な侵略者に無防備な姿をさらけだす。侵略者はしばしばより若く、より強力な別の文明からやってくる。」といっている。
塩野は「国家の興隆と衰退の要因は同じ」というテーマを何度もくり返している。そもそもこのテーマは地史学の大原則といわれるもので、恐竜、アンモナイトの絶滅の要因をされている。生物としての人間の集団も同じ法則が適用されるということであろう。
NHK-BSの番組で紹介されたが、モンゴル帝国が興隆し衰退したのも同じ理由によるという新説が米国人の歴史家によって提案されているという。そ れは馬という機動力でユーラシア内の人、物の交易が盛んになったことにより、ネズミやペストも自由に行き来できるようになり、ヨーロッパにペストをもたら したのみならず、モンゴル帝国自体も同じ病によって衰退したというのである。これはジャレッド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」 のテーマでもあった。彼によれば中国や日本が西洋より優れていたのはその中央集権体制のためであり、西洋に遅れをとったのもその中央集権体制にあったとの 説をとっている。コロンブス時代のヨーロッパは小国分裂の分散社会であったればこそ、イザベラ女王はコロンブスを見出し得たというわけである。ここから歴 史は西洋に見方する。
イースター島問題のようなものも大きな視点でみれば「地史学の大原則」に沿っているのだろうが、地球環境の限界というもっと深刻な視点も垣間見える。
皇 帝カラカラ、皇帝ヘラガバルス、皇帝アレクサンデス・セヴェルス、皇帝マクシミヌス・トラクス、皇帝フィリップス・アラブス、皇帝ヴァレリアヌス、皇帝ガ リエヌス、皇帝クラウディウス・ゴティクス、皇帝アウレリアヌス、皇帝タキトウス、皇帝プロブスと続き、キリスト教時代に入る。