読書録

シリアル番号 581

書名

漆の実のみのる国 上下

著者

藤沢周平

出版社

文藝春秋

ジャンル

小説

発行日

1997/5/20第1刷
1997/5/25第2刷

購入日

2003/07/10

評価

米沢藩主上杉鷹山を主人公とする藤沢の4大武家物長編小説の一つ。

今、我々が知っている経済理論も知らない当時の武家という指導層が米(こめ)本主義の経済から脱却できず、勃興してきた商人から借金してそれを返却するために苦労するおはなし。この様な苦労は今の経済理論からみればまったく無駄な努力で、貨幣を米とか金貨に連結せず、経済の発展の見合う貨幣発行量をコントロールしてゆけばよいということを知らず、折角の成長の芽を摘むという努力をしていて、それがかわいそうという気持ちをもった。このような努力をしている間に経済を発展させた西洋が黒船に乗ってやってくるわけで、哀れと思う。とはいえ宇宙船地球号の乗員としては経済を発展させず、人口抑制のため間引きをしてクライシスを防止しようというけなげな努力にも見える。しかし西洋のように抜け駆けをする人もいるので無駄な努力だったなと思う。

現代経済学からみれば商人は銀行の役割をもてたわけで、この銀行が信用創造をおこなうような仕組みをつくれば、経済が発展するために商人からの借財をもっと前向きに利用すべきだったのだ。まだそこまで吹っ切れていないところがこの時代の武士階級の悲惨さということであろうか。このようなものを読んで良しと風潮が現在の日本の指導層におられるようで、日本国家の運営をあやるのではないかとの危惧を持つ。リーダーシップに関しては現代の企業の窮乏を管理する者の価値観も江戸時代を一歩もでていない。


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