読書録

シリアル番号 523

書名

戦争論

著者

クラウゼヴィッツ

出版社

芙蓉書房出版

ジャンル

軍事

発行日

2001/7/30第1刷
2002/5/15第5刷

購入日

2002/08/27

評価

原著:Vom Kriege by Carl von Clausewitz

資料として買う。

まず戦争の定義から始まる。すなわち、「戦争とは、相手にわが意志を強要するために行う力の行使である」とする。

そして戦争の目的は敵の無力化であるとする。

さらに「共同体の戦争、すなわち全国民の、特に文明国の戦争は、常に政治的事情から発生し、政治的動機によってのみ引き起こされる。したがって戦争は、一つの政治的行為である」

とする。


さてNHKスペシャル「なぜ日本人は戦争へと向かった」という特集番組の内藤ディレクターに朝日記者だった川上氏が、滝川政次郎著「東京裁判をさばく」と本書の一読を薦めている。

「東京裁判をさばく」は読んだことはないが、この本は自民党の政治家が大好きな本で察しはつく。滝川政次郎氏は立派な法律学者でそこに書かれていることは法律家としては筋が通っているのであろう。だが、だからといって開戦決定が正しく行われたという理由付けにはならないのではないか?
「戦争論」は9年前に読んで要点を3点書き出している。日本が米国にしかけた戦争はクラウゼヴィッツのいう戦争の3要件に合致しているのかチェックしてみた。

@「戦争とは、相手にわが意志を強要するために行う力の行使である」・・・・日本が米国に我が意思を強要する意味があったかといえばノーだろう。強くでれば米国は折れると思いこんでいたにすぎないようだ。テープのなかで多くの大本営参謀がそう証言している。

A「そして戦争の目的は敵の無力化であるとする」大本営政府連絡会議のだれも敵を無力化できると思っていなかったと証言しているのだからこれもノー。

B「共同体の戦争、すなわち全国民の、特に文明国の戦争は、常に政治的事情から発生し、政治的動機によってのみ引き起こされる。したがって戦争は、一つの政治的行為であった」かといえばこれもあやしい。一般国民は情報統制され、マスコミがあおるニュースに踊らされていたとすれば民主的な判断であったかどうかはまことに怪しい。マスコミはその意思とは関係なく、政府のグルだったのではないか。敗戦のとき、今までの報道責任をとって朝日の記者を辞任して郷里の秋田に帰り、個人でジャーナリストを継続し、正しい情報を提供し続けた秋田の武野武治氏がそう言っている。

私のような技術系ですら読んだのだから内藤ディレクターは当然読んでいると思う。しかし仮に読んでおらずこれから「戦争論」を読んだとしても自分のプログラム作りが間違っていたとは思わないと思う。

開戦当時のNHK会長だった優柔不断な近衛が日本人を戦争に巻き込んだ責任をとるつもりがあったかどうか知らないが、NHKがこの番組を作ったことは贖罪の意味でも大いに評価してよいとおもう。

Rev. March 8, 2011


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