読書録

シリアル番号 501

書名

思考する機械 コンピュータ

著者

ダニエル・ヒリス

出版社

草思社

ジャンル

コンピュータサイエンス

発行日

2000/10/16第1刷

購入日

2002/01/16

評価

原題:The Pattern on the Stone by Daniel Hillis

書き方が本質を突いてシンプルな好著

今まで読んだ論理演算ならびにコンピュータの原理の解説書のなかで最も知的で解りやすい。

著者はジョージ・ブール、アラン・チューリング、クロード・シャノン、マーヴィン・ミンスキーの直系の弟子。
コンピュータの本質はド・モルガンの法則(De Morgan's laws)を記述できるブール代数のような論理演算のできるものだ。ブール代数演算は半導体だけでなくスイッチと電球、開閉弁とパイプ、機械的なリンクメカニズムでも実現できる。

論理的な判断で制御されるシステムは有限状態機械と呼ばれる。前段の状態はレジスターに格納されている。論理演算する手順はアルゴリズムと呼ばれる。巡 回セールスマン問題などのようなNP:Nondeterministic  Polynomial(非決定性多項式)問題は処理が指数関数的に増えてアルゴリズムで計算すると時間がかかりすぎて解けない。

これを解く方法は「発見的手法」(ヒューリスティック)がある。チェスゲームはこれを使う。山登り法もこれであるし進化論的手法もそう。

並列マシンにおいても分割できない部分はあり、高速化には限界があるとする「アムダールの法則」は必ずしも成立しないという指摘は仕事の分割の大切さを教えてくれる。

人工知能は人間のニューロンの結合の仕方をまねた回路で本質的に並列処理である。ニューロン間の結合強度を自己組織化できる仕掛けで自動的に決められるよ うにしている。結合強度を自己組織化できる仕掛けの進化シミュレーションで作られたプログラムは理解不能であるが、機能する。

現在の工学的手法は階層的な構造を前提としているが、階層的な構造は機械から柔軟性をうばう弱点を持っている。階層的システムは時として破滅的に破たんする脆弱性がある。要素の一つが仕様通りに作動しないだけで全体をだめにする。

人間の脳はコンピュータより複雑だが破滅的な支障は生じない。これは工学的手法の弱点なのである。解決法は複数のプログラムをコンピュータ上で発生させ淘 汰させながら良いものを残してゆくことで達成できる。こうしたプログラムは解読してもなぜうまくゆくのかわからない。そういう意味で我々はたとえコネクトームがわかったとしても我々の脳の仕 組みを理解することはできないことになる。人間の脳はこのように進化の成果でもあるが、学習の産物でもある。

Rev February 3, 2016

トップ ページヘ