読書録

シリアル番号 1342

書名

人はなぜ太りやすいのか 肥満の進化生物学

著者

マイケル・L・パワー、ジェイ・シュルキン

出版社

みすず書房

ジャンル

進化論、サイエンス

発行日

2017/7/18

購入日

2018/06/05

評価



高血圧とか高脂血病とかは脂肪がコレステロールになって血管をもろくするためとか、水素添加したマーガリンは光化学異性体を等量含むので注意せねばならぬ と世の中はうるさい。しかし体脂肪はなにも食べた脂肪が溜まると言う単純なものでなく、主食とよばれるパンやごはんなどの糖質食品に口にすると、血糖値が 上昇し、膵臓がこれに反応してインスリンを分泌して血中の糖を脂肪にして脂肪細胞に溜め込ませる。するとこんどはインスリンがききすぎて午后4:00頃には低血糖になり、 無性に甘いお菓子の間食がほしくなるという悪循環がはじまる。怖いのは人はこの甘い誘惑には勝てず、つい間食してますます体重が増える。

この悪循環を断つにはごはんやパンなど日本で主食といわれるもの、すなわち炭水化物を制限するか、全く摂らず、主菜といわれる植物繊維、脂肪やたんぱく質の食品を聡カロリーというものに気を使わずに食べたいだけ口にするというケトン食が やはりいいのかなと実施中。脂肪のβ酸化で生成するアセチルCoA(アセチルコエンザイムA)は肝臓でケトン体になって脳関門を通過できるようになり、血 液脳関門通過後にケトン体は再度アセチルCoAに戻されて脳細胞のミトコンドリアのTCAサイクルでエネルギーとして利用されるので糖など無くても脳は全く問題は ない。ある医者はケトン食の方エネルギー密度が2倍になるので心臓の鼓動が少なくて、長生きすると推論する。

ところが東北大学大学院農学研究科の都築毅准教授らのチームがマウスを20匹ずつのグループに分け、片方には脂質、糖質、タンパク質のバランスが日本食に 近い「通常食」、もう片方には、炭水化物を脂質とタンパク質に置き換えた「糖質制限食」を与えたところ、通常食のマウスは多くが平均寿命より長生きした が、糖質制限食では平均寿命まで生きられなかった個体が多く、それらは平均寿命より20〜25%短命だったと発表して糖質ゼロ食は短命だという説を放映し て農水省の旗を振る。私はこの実験に使われた「糖質制限食」には必須栄養素が不足したのではないかと疑って糖質ゼロ食はやめて制限にとどめている。

そういえばいままで脂肪がどうのこうのという研究も皆マウスでの実験であった。実験のデータに不正がなくとも、たった一つ要素の結果が正しくとも人間は進化の過程で複数の制御機構をもって互いに冗長性をもって作用するのでそんな単純なものではないだろうと思う。

日々こういう極端な見解を持つ勢力と戦うのも楽じゃない。そこで理論武装するために少なくと日本よりは先進国の米国の学者が書いたこの本を買った。4,500円と専門書なみに高価。



というわけで本書を熟読してみたが、幸いにも「糖質制限食」が短命にとなるとの記述はない。それにそもそも糖質に代わるエネルギー源としてのケトンなる言葉も出てこない。全て脂肪としか言わない。代 わりに脂肪はエネルギーにもなるが体の細胞膜にもなり、軸索の鞘となるミエリンになり、かつコレステロールを基盤としたエストロゲン、テストステロンと いったステロイドホルモンなどの情報物質にもなるという。ステロイドやステロールは脂質に溶解するので血液から標的細胞の細胞膜やその中の細胞質へとかな り自由に拡散することができる。したがってステロイドホルモンもその誘導体も細胞膜を通過することができ、細胞内にある受容体と結合する。これはペプチド ホルモンが極性の為に細胞膜を通過せず、細胞膜上の受容体と結合し、シグナル伝達を行うのと対照的である。

此処まで読んで、2005年頃、厚生省のメタボリックシンドローム診 断基準検討委員会が出した暫定的な診断基準を利用してコレステロール降下剤の処方箋を書き続けて安定した収入を確保している日本の医者と医薬品メーカー達 のインチキさが理解出来た。脂質が情報物質にもなっているのを早合点して、情報物質を悪玉とか善玉とかに分けて良いの悪いのと言いつのり、薬を飲ませて儲 けるというまことにケシカラン行為をしているというわけだ。ゆめゆめ騙されまいぞ。

著者は人が好むデンプンは高グリセミック指数食品だという。ここでグリセミック指数(GI)は食後の血糖値の上昇度合いを示す指数。糖質は、アミラーゼで 消化されると グルコースになる。血糖値上昇スピードを食品ごとに比較、ランク分けしたのがGI値だ。もっとも速く血糖値が上がるグルコース(ブドウ糖)を100とし て、その相対評価と して示される。血中ブドウ糖は毒性がある。そこで解毒のために脾臓のランゲルハンス島にあるベータ細胞がペプチドホルモンであるインスリンを分泌する。細胞に取り込まれた糖は酸化され、グリコーゲ ンや脂肪になる。ところがインスリンの効果は絶大で、すぐ低血糖になり食欲が回復するため間食がほしくなるという欠点がある。

グリコーゲンは無酸素条件下でも代謝できること位。

同じ糖でも果糖も毒性があるがインシュリンなしでも細胞に取り込まれるのでインシュリン分泌を誘導しない。果糖はインシュリン分泌を促進しないが、レプチン分 泌も刺激しないので飽食感が得られず、摂りすぎる危険がある。コカコーラが危険な飲み物である所以である。ペプチドホルモンであるレ プチン (leptin) は脂肪細胞によって作り出され、強力な飽食シグナルを伝達し、交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大をもたらし、肥満の抑制や体重増加の制御の役割を 果たす。コカコーラだけでなくコーヒーに入れるトウモロコシから作る液糖もいかに毒性があるかわかる。

人工甘味料は糖ではないが、脳相インスリン反応がインスリンを分泌させ食欲を増進させる。だから人工甘味料は使うべきでない。脳相とは食べ物を見たり、匂いをかいだり、あるいは口の中に入ってきたりするような刺激によって、唾液、胃酸、膵液、胆汁が分泌され始める現象。

結論としてコーヒーにはココナッツオイルを浮かべるのがやはりもっとも安全といっていいのでは?

睡眠不足はレプチン分泌が低下し、飽食感が得られず、食欲亢進ペプチドであるグレリンの分泌量を増加させる。

ビタミンB群の一種である葉酸欠乏は女性の肥満をもたらす。

この本で眼が覚めた箇所は代謝における主要なエネルギー仲介分子であるアデノシン三リン酸(ATP)であるが、これはアデニン(A)というアミノ酸のリン 酸エステルである。グアニン(G)とのエステルはグアノシン三リン酸(GTP)、シトシン(C)とのエステルはシトシン三リン酸(CTP)、ウラシル (U)とのエステルはウラシル三リン酸(UTP)と呼ばれ、いずれもエネルギー仲介分子としての機能を持っている。と同時にGTPはタンパク合成、CTP は脂質合成、UTPは炭水化物合成に関係している。つまり情報伝達物質との役割を持っている。このように進化は同じ分子が2つの役割を担う複合システムを 生みだしたのであるというところであった。

筑波大の柳沢正史教授はシナプスにある80種のタンパク質がリン酸化すると眠気が襲うという研究をネイチャーに発表したと2018/6/27の朝日で報じられる。

Rev. July 12, 2018

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