読書録

シリアル番号 1339

書名

ダーウィン・エコノミー 自由、競争、公益

著者

ロバート・H・フランク

出版社

日本経済新聞出版社

ジャンル

経済学

発行日

2018/3/23第1刷

購入日

2018/04/18

評価



原題:The Darwin Economy by Robert H. Frank 2011

コーネル大教授、ジョージア工科大で数学専攻、カルフォルニア大バークレー校で経済学PhD

映画チャーチルを観に日本橋にでかけた時に東京駅の三省堂で購入。

「見えざる手」を信じるアダム・スミスの経済を信じていると人類は滅亡する。ダーウィンの教えに従い、競争は個体ベースでしか存在しないと理解し、自由 競争に任せるのではなく、また規制なんていうダメな手法ではなく、累進課税などの手法をとりいれて公共の利益にも配慮するようにしないと人類は軍拡競争に陥り、 滅亡する。

経済学の始祖アダム・スミスのいう「神の見えざる手」すなわち欲深い個人が競争に邁進すると、まわりまわって社会全体の利益が最大化するという見解は誤 認。むしろダーウィンの動植物の個体間の生存競争が人間の経済現象をよく説明する理論とするのが正しい。すなわち個の利益が全てに優先され る。そうすると集団の利益は代表されないのでコモンズの悲劇や公害などの外部不経済が発生する。これを防止するために規制社会にしても個人のインセ ンティブを過度に制約することになり、結局上手くゆかない。規制より累進課税、ピグー税などのほうが勝る。

グローバリゼーションの結果、「富裕層への課税は金の卵を産むガチョウを殺すようなもの」という決まり言葉やトリクルダウン理論により各国の所得税の累進 率は小さくする競争が生じたが、貧富の差が大きくなり、結局、経済成長を阻害するし、倫理問題生じる。解決法は所得税の累進率をもとにもどすことと、消費税すら累進制にすべきという。

人々の社会的地位は相対評価できまる。その相対評価は生産性の相対値である。個人が高い地位を望むのなら相対的生産性の低い集団を選べばよい。塁進課税の ない社会では地位をタダで得る人が出てきて公正さや正義という倫理問題が発生する。塁進課税や民間の労働市場では労働者が高い地位でも安い給料しか 支払わなくとも満足している。これは一種の塁進課税の仕掛けと同等な効果を持っている。

ダーウィンは人には徳が備わっていると期待したが、経済の場では作動しない。著者の指摘の通り、人には徳など期待できないからこそ、人為的な累進税率を設 定して自然に任せれば経済はうまく回るというのがダーウィン経済学の基本。問題は常に時の支配者が累進税率を嫌うので実現できない。アダム・スミスとその 追従者は徳に重点を置きすぎて人間理解が出来ていなかった。マルクス・エンゲルスは革命に夢中になりすぎて独裁を導きいれてあえなく、忘却の彼方だ。まず 経済学者が誤りと率直に認めて経済学を建て直すことが第一。

ただ問題は常に時の支配者が累進税率を嫌うため、まず経済学者が間違った経済学を卒業し、ダー ウィン経済学の考えを普及させる義務がある。アダム・スミスとその追従者は徳(利他主義)に重点を置きすぎて人間を正確に理解出来ていなかった。マルクス・エンゲルス もなんとかしようとしたが、革命に夢中になりすぎて独裁を導きいれて失敗。ソ連という国も消えて、忘却の彼方。

貧富の差が大きくなるのはビンボー人がかわいそうという道徳上の問題もあり、若い世代が結婚もできなく人口が減少するという問題もある。金が金持ちに あつまると、金持ちが何らかの産業に投資しようとしてもビンボー人が消費できないので不況になり、生産設備や流通システムに投資しても意味がなくなる。そうすると 金が銀行に貯金されてしまう。すなわち「おあし」が回らなくなって不景気になる。日本のデフレはそうして発生した。アメリカではビンボー人がトランプのようなポピュリストを選んで、世界の貿易システムをガタガタにしてしまう。だか ら累進課税で平準化して社会を活性化する必要があるのは確か。

累進所得税はどの国でもすでに導入されているのだが税率をいくらでもいじられる。グローバリゼーションの過程で米国の産業が、日本や中国に流失したため、 累進法人税の減税をして逃げ去る産業を引き留めようとした、いまだトランプはそのフェーズにある。そして累進消費税はまだどこも導入していない。

このように累進課税を法制化しなければならないのは分かっているのだが時の政権を動かす人々は概して金持ちなので導入には抵抗する。そこで憲法に書いて政治家の手足を縛 る必要があるだだろう。そのためにはまず経済学者が累進課税がベストな仕組みと理論構築しなければならない。ケインズも 「どのような知的影響からも完全に免れているという自負心を持つ実際家たちも、すでに過去のものとなった経済学者の奴隷であるのが常 だ・・・」といっているが、累進税理論をしっかり構築すれば、民主主義が機能していれば選挙民は殆どビンボー人だからそのような法制化は可能となる。その ためにはまずは経済学者 が一致しなければならない。ケインズはまた「この世で一番むずかしいのは新しい考えを受け入れることではなく、古い考えを忘れることだ」とも言っている。
"The difficulty lies, not in the new ideas, but in escaping from the old ones, which ramify, for those brought up as most of us have been, into every corner of our minds. "

荻林成章氏はエージェント・モデルを使って累進税の有効性を証明しておられるが、このロバート・H・フランクは思考実験で同じ結論に至っている。

ダーウィン理論に従えば、経済活動する人々の行動はすべて個人ベース、会社とか組織は判断主体として考えない。すなわち経済主体は個人だけ。会社の経営者、政治家、官僚の個人は組織のなかで、情報をあつめ判断し行動するエージェントとしてモデル化できる。

ダーウィンの進化論は突然変異と雄雌の判断だけで進化してゆくのとおなじで、人間の経済の動きも全く同じというわけ。生物の進化もコンピュータシ ミュレーションで記述できるんだから、当然経済ももっと複雑ではあるが可能。安倍周辺の忖度もモデル化できるだろう。ただ徳をシミュレートするのはどうす るのか?


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