読書録
シリアル番号 |
1316 |
書名
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法服の王国 上下
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著者
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黒木亮
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出版社
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岩波書店
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ジャンル
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小説
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発行日
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2016/1/15第1刷
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購入日
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2016/11/6
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評価
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優
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黒木亮の小説は2008年に「エネルギー」をかっての上
司から面白いといわれて読んだ。舞台はわたしが生きたLNGビジネスの世界である。当時はこの世界は産油国と米国企業と日本の商社しか知らなかったが、結
構、経産省の役人が利権に潜り込もうと画策した様が描かれていた。彼らは端役でしかなかったが、小説家としてはこの場を借りて役人を描きたかったのであろ
う。かなり力がはいっていると感じた。
さてこの本は司法の世界にいる友人S.K.の本を2016/11/6に又借りて読みはじめた。帯に書いてある売り文句は「正義か保身か?」である。しかし1ヶ月経ってもいまだ登
場人物の学生時代の上巻54pというスローペース。そうこうしているうちにNHK受信料訴訟や伊方原発訴訟に判決が出て判事の判断の是非や司法制度にたいす
る批判で世間が騒がしくなってきた。というわけで再び手にとったが、何せ長編である。まず解説を読むと、舞台の一つは青法協裁判官パージ(ブルー・パー
ジ)と裁判官人事とのこと、そして原発差し止め訴訟長沼ナイキ違憲裁判もあると確認。会社の労使関係で青法協裁判官のことは知っているし、原発差し止め訴訟も「原発敗戦」という本一冊書いたので概略知っている。というわけで本書を読まずして大体つぎのような一文をフェイス・ブックに書いた。
四国電力伊方原発の運転差し止めを命じたのは広島高裁の野々上友之裁判長である。判決
で原発の敷地に、過去に阿蘇噴火による火砕流が到達していないと判断するのは困難と指摘し、同原発の運転を禁じる仮処分決定をした。私なら、更にこの火砕
流が津波を生じる可能性もあげたであろう。判決は法律論争だけで出せるものではない。日本の司法は憲法上は行政から独立しているが、人事制度で裁判官は行
政の奴隷の地位に置かれている。だから純粋に法理論だけでの判決は裁判官の任期が終わるころ「最後ッ屁」としか出てこない仕組みとなっている。伊方原発訴
訟中心とした司法人事のドラマを描いた黒木亮の「法服の王国」に、そのしがらみが縷々描写されているようだ。そして案の定、野々上友之裁判長の任期は
2017年の12月であった。
ところがである。NHK受信料合憲判決を出した寺田逸郎最高裁長官も2018年1月9
日退官だというので必ずしもこの最後ッ屁理論は成立しない。理由はこの御仁、父は第10代最高裁判所長官を務めた寺田治郎は父親で、自身も法務省での勤務
経験も持つ、いわゆる「赤レンガ組」の一人でもあるため、現場を知らず、屁もできなかった可能性がある。ただ彼も退官後は誰も周りにいないことに気が付く
はずだ。人々はただただその位に敬意を払っていたにすぎないのだ。
それでも思いなおして少しづつ読み進め、ようやく2ヶ月目に上巻を読破。著者は真面目に判例を調べて書いているので退屈きわまりなく、かつ判決も不当なも
のだと思うものが多々ある。米国の小説のような目も覚める裁判などというものは日本では望むべくもない事が分かるのでなおさら。読み始めると、うたた寝し
ている自分に気が付くし
まつ。
それでもPWRの伊方原発の訴訟の裁判では安全審査の不備で原発側が不利になるとなんと裁判官を必ず国側に軍配をあげる裁判官に人事異動させるという手を
使ったのですね。その直後にPWRのスリーマイル島事故が発生するのです。そして判決の根拠はことごとく無いと言うことが明らかになったが、控訴審で使え
るだけである。
その後も原発訴訟を中心に弁護士、裁判官、最高裁、高裁、家裁判事等の人事を絡めて話が進み、最後は学生だった主人公津崎が最高裁長官になる。そのとき、
東北大地震が発生する所で終わる大河小説である。津崎のライバルだった上におもね下に厳しい女性判事が津崎の身内の恥をマスコミにバラし、失脚させようと
画策するが、たまたま政権をとった民主党津崎が最高裁長官になれた。という皮肉なお話しはさすがぐいぐい引き込まれ一挙に読破した。いずれにせよ小説と言
えるところは最後の部分であとは司法史ろもいうべき書だ。
小説にしては珍しく、参考文献がついているだけでなく、裁判官経験者の梶村太市氏の解説がついている。津崎の後ろ盾になる弓削のモデルは実在の矢口長官で裁判員制度を作った人である。スキャンダル失脚を防いだのは前原誠司だという。
Rev. January 15, 2018