読書録

シリアル番号 1250

書名

原発ホアイトアウト

著者

若杉冽

出版社

講談社

ジャンル

小説

発行日

2013/9/11第1刷
2013/11/14第6刷

購入日

2015/10/28

評価



三浦半 島歩き第5ステージの折、友人の加畑氏からいただく。霞が関の謎の官僚が書いたという売り。

10万部のベストセラーになる前から興味をもっていたが読むチャンスがなかったもの。手に取ると謎めいたシーンでまずどういうことかと興味を持たせ。展開 はほとんどルポタージュのように進む。今後どういう展開になるのか気になり一気に読破しそう。

結局、2日で読破。

あらましは福島事故後、東京電力の柏崎原発の再稼働に至るまでの族議員、資源エネ庁次長、電気事業連合会理事、規制官庁の役人などが電力業界の利権を守る ための裏工作など詳細な動きを詳しく描写した小説。その中のハイライトは再稼働に最後まで抵抗する新潟県知事の政治力を奪って再稼働にこぎつけようとシナ リオを描く、電気事業連合会理事。知事の政治力を毀損するため親族のIT会社の贈収賄をするように工作する電事連、それを口実に逮捕するように検事総長に 巧妙に働きかけるように首相に働きかける資源エネ庁次長などを描く。その他のサイドストーリーとして電力会社に怨念を持つ元キャスターの女性が規制委員会 の事務局の役人を色仕掛けで口説き落とす場面、そしてそれがGoogleの協力で発覚する顛末などがサイドストーリーとして展開する。こうして運転再開が 成功する大円団がくる。日本海低気圧の猛吹雪により交通が途絶し、非常用発電機などが凍結して動かなくなるなか某国工作員が50万ボルトの送電鉄塔を爆破 倒壊させ、メルトダウン、手抜き工事のベントフィルターの接続ノズルの不具合の一連の連鎖で・・・

というもの。

新潟県知事を検察が追いつめるモデルは構造改革をすすめる小泉内閣の福田康夫官房長官が検事総長を動かして小泉の政敵鈴木宗男衆議院議員を外務事務官佐藤 優とともに葬り去った事例をヒントにしたと書いている。司法試験をパスした検事総長は公務員一級試験をパスしただけの官僚より格上で、その権力はすべての 官僚に恐れられる別格の立場、そして首相の権力の象徴だと全官僚には認識されているようだということが分かった。

この小説は電力業界の利権をめぐる権力闘争が主題だ。総括原価方式でうみだされる余剰利益を献金という型で受け取る族議員、天下り先がほしい官僚がそれぞ れの政府組織をうごかして手にすべく行う裏工作。そしてマスコミ操作するインセンティブがあることを駆動力としている。電力自由化しても配電部門は欧米の ように所有権分離ではなく、法的分離にとどめれば配電部門は電力会社の支配下にとどまり総括原価方式は生き残り、原発の廃棄物処理など未参入のコストを負 担するにしてもおいしい利権は残るのだという理解がこの作者にある。

この小説の主人公は電力網の独占にともなう総括原価方式という仕組みに群がる政界、官僚、業界の人々が繰り広げる醜い戦いということになるのだろう。

PV+バッテリー技術が進歩してコストが下がれば配電部門も不要になり、総括原価方式に鉄槌が下るというストーリーは作者が気が付かなかったか、権力闘争 が入りこむことはなく、小説には向かないとしたのか興味ある。



さて、本小説のテーマは原発はテロに弱いという点にある。航空機もテロに弱い。2015/11/4に発生したエジプト東部シナイ半島に墜落したロシアのの 航空会社「コガルイムアビア」のチャーター旅客機9268便(エアバスA321型機)旅客機がISが旅客機の出発地のシャルムエルシェイクで仕掛けた機内 の爆発物が原因という。ロシアがシリアでISを爆撃しているのに対抗する報復らしい。230名の乗員全員が死亡した。

原発の最大のリスクはテロだろう。そしてその被害は航空機事故より甚大だ。

Rev. November 5, 2015


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