読書録

シリアル番号 1237

書名

エドワード・ルトワックの戦略論 戦争と平和の論理

著者

エドワード・ルトワック

出版社

毎日新聞社

ジャンル

兵法

発行日

2014/4/30

購入日

2015/07/08

評価



鎌倉図書館蔵

ちょうど憲法9条で世の中が騒然としており、私も「憲法と原子力」というタイトルでいろいろなところで話しているため確認のために借りた。

著者はルーマニア生まれ、イタリアとロンドンで育ち、ワシントンのシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)シニア・アドバイザー。

いきなり古代ローマの諺「汝、平和を欲するなら、戦いに備えよ」という逆説的矛盾が提示される。この思想はのちにトマス・ホッブスの思想「人間の自然状態は闘争状態にある」に行き着く。

この逆説的矛盾は本書の主要テーマとなる。あらゆる史実を拾い上げて戦略は逆説的論理そのものであることを例示してゆく。そもそも戦争とは常に相手の裏をかく知恵を絞る活動そのものだからだ。

防御のためには常に攻撃体制をとらねばならない。しかしそのためにも核兵器は決して先に用いてはならない。

用途を狭くして攻撃力を発揮できる魚雷の発射能力に特化した小型艇である魚雷艇の発明で戦艦は無力になった。しかしすぐに探照灯や小口径の速射砲、密封バルジ、水雷防御網で魚雷艇は無力化された。

エジプト軍の携帯式対戦車ミサイル(バズーカ砲)はイスラエルの戦車を無力化した。これは気化金属の高速噴流が戦車の装甲を焼き貫く能力を持っていたから である。しかしイスラエル軍は戦車の前に迫撃砲と機銃でエジプト軍の対戦車ミサイル射手に狙いをさだめ迫撃発煙弾で戦車を見えなくした。

フォークランド紛争で水上艦艇の空対艦ミサイル脆弱性が明らかになった。米空母隊は日本海軍をつぶすために開発された。しかし冷戦ではロシアの陸軍が仮想 敵国で空母部隊を維持するために米海軍の提督たちは空母と核兵器で陸を攻撃できると主張。だが空母艦隊1セットの予算で20機の大陸間ステルス爆撃機が購 入できる。

第一次大戦中のヴェルダン要塞の防衛成功は当初成功したがゆえに国民の注目を引き、撤退できず、結局フランスは16万人の戦死者をだすハメになった。スターリングラードではドイツ軍が同じ間違いをした。ディエン・ビエン・フーでもフランス軍は同じ過ちを繰り返す。

B-17はドイツのボールベアリング産業をピンポイントで壊滅しようとシュヴァインフルト工場の昼間集中爆撃に踏み切ったが、犠牲が多く、かつ工場群は分散してしまい成果は上げられなかった。

ローマ帝国の属州は、しばしば冷酷な征服を通じて一つ一つ獲得されていった。しかし、帝国はすべての文化と人種を背景とする地元のエリートをうまく登用す ることで得た正当性によって維持された。帝国政府を含むすべての権力ある地位は彼らに開かれていた。こうして平定された各州がさらなる征服に向けて人と 資源を提供したので、帝国は順調に拡大した。抑圧はもろい。

遠隔操縦航空機(無人航空機)は直系の祖先をもたない新兵器である。既存の組織をもたないために、育たない可能性がある。(自律的航空機などはさらに難しい。)

アルバート・アインシュタインが署名したシラードの手紙はルーズベルト大統領にとどいた。しかしアドルフ・ヒトラーはユダヤ人嫌いであったし、核物理など全くしらなかったからドイツでは核兵器の開発はしなかった。

日本が太平洋戦争でアメリカに勝つ唯一の戦略は中国から撤兵してでも米国に侵攻することであったろう。真珠湾で勝ったままで帰ってしまったのが最大の戦略的失敗。むしろ休戦交渉する手もあった。

北ベトナムは外交とプロパンダで米国に勝利した。イスラエルは外交でエジプトに勝利した。

才気溢れるロンメル将軍は、まったく平凡なモントゴメリーに敗れたように、アレキサンダー大王からナポレオンに至る軍事史上の偉大な名将はずべからく、無名の敵に敗れた。

民主的な政治指導者が、非論理的で矛盾するとして容易に非難され得る政策に従うことは困難である。

世界中のほとんどの政府が、前例のない米国の軍事的優位を寛大に受け入れている理由は、米国が明白な目的を追求するグローバルな戦略を持っていないという意識によって説明できる。

近視眼的な実際的な決定と、政府の日々の行動をしばしば特徴づける未調整の応急策は、数多くの過ちを招くが、そのほとんどは小規模で、幸運であればその多 くは相互に打ち消すことになろう。しかし、大戦略を巧みに適用することは、不調和による小さな過ちが広がっていくのを減らす一方で、より大きな過ちを犯す ことにエネルギーを集中させるリスクが伴う。このことが独裁国家による軍事的冒険が、いつでも初めは順調でも、完全な大惨事で終わる原因なのである。

Rev. July 18, 2015


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