読書録

シリアル番号 1218

書名

ドナウの南とエルベの東-ドイツ地誌入門

著者

鈴木喜参

出版社

大学教育出版

ジャンル

政治学・地政学・行政学

発行日

2010/7/10第1刷

購入日

2014/12/25

評価



鎌倉図書館蔵

著者は銀行員としてながくドイツに駐留した方

ウィーンについて調べたのち、今回の電力政策にもからみドイツ語圏に興味をもって図書館をブラブラして目にはいった本を借りてきて読み始めた。

ドナウの南とはウィーン界隈のことかと思ったらバイエルン大文化圏のことで中心はミュンヘンであった。両方ともドナウの南なのだが、いまでは別の国になってる。

エルベの東とは旧東ドイツでベルリン・ブランデンベルグ大文化圏だという。エルベの東出身の女性が首相を務めている。ケルンはライン下流文化圏。

ドナウの南はかってはローマ属州の影響でカトリック。ミュンヘン北北西40kmのシャイアン伯爵家がウィッテルスバッハに城を築き、ウィッテルスバッハ家 としてバイエルン王国を率いた。4代目のルードヴィッヒ二世はディズニーのようなノイシュヴァイン城を築き現代の観光資源をつくり、ヴァーグナーのパトロ ンとしてバイロイトにバイロイト祝祭劇場を作らせている。一方ついに破産し、禁治産者宣言をうけてシュタインベルガーの離宮に幽閉され、湖で侍医とともに 水死体で発見されている。森鴎外はこの事件をみて「舞姫」を書いた。バイエルン地方は戦後、ベルリンから移転してきたジーメンスやBMWの本社があり、就 労の機会が多く、所得水準も教育水準も高い。にもかかわらず19世紀の工業化にともなう自然破壊がない。ミュンヘン工科大は最高レベルの大学。しかしチェ コなど から大勢の労働者が移動してきて住み着く危機にさらされている。

エルベの東はかってのスラブ民族の土地に植民したもので新教というより無宗教。戦前の石炭の露天掘り、レンガ工場、セメント工場が残っているが、自動車工場はない。所得水準は 旧東ドイツだった影響でまだ低い。そして栄光あるフンボルト大学やライプチッヒ大のレベルは低いままである。

英国、米国、日本、中国が中央集権国家であるにたいし、ドイツは歴史のちょっとしたいきさつの違いで地方分権国家になった。そのちょっとしたいきさつとは 東フランク王国の王であったオットー1世がハンガリーをやっつけた勢いでローマで戴冠式を挙げた偶然にあえる。その子孫が2代に渡り神聖ローマ帝国と自称 して戴冠する目的でローマ遠征しているうちに疲弊し、英国やフランスのような絶対王政を確立する力をたくわえられなかった。加えてゲルマンの直接民主制の 伝統もあって、地方に貴族が群雄割拠したまま、選挙で皇帝を選ぶことなっていた。ようやくベルリン・ブランデンベルグ大文化圏のプロイセンが官僚制度を整備し覇権を握っ て、第一次大戦に突入ということになる。

地方分権国家であることがドイツ人が地産地消の再生可能エネルギー好きになった理由ではと愚考している。原発が好きな国は中央集権国家とパターンがあるようだ。

最近、作家の冲片丁(うぶかたとう)が今回の衆議院選に関して新聞に投稿した一文「沈黙と忍従が支えた意思統一と富の分配 は海に囲まれ人々の移動ができなかった結果としての一所懸命という前提があったためだ。国際化でそいう制約が取り払われテクノロジーが人、資源、情報、 富、労働 力を目覚ましく移動させるようになった。結果として地方は過疎化し、富裕層の富が外国にながれる。こうして沈黙と忍従は最早期待できない時が来ている」と 指摘している。日本の中央集権はいつまでもつか。中国の共産党独裁がいつまでもつかというノー天気なことではないかも。

Rev. January 04, 2015


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