読書録
シリアル番号 |
1210 |
書名
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日本的失敗の本質
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著者
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植田統(おさむ)
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出版社
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朝日新聞出版
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ジャンル
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ビジネス
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発行日
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2013/1/30第1刷
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購入日
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2014/09/29
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評価
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優
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鎌倉図書館蔵
「日本の政治・経済の不調の原因」を書いてみたが、調査無しで頭にあったイメージを書いた具体的な事例にかけていると思う。この本はかなり真面目に詳細な事例を8つに整理してあるので、参考のために借りて読んだ。
@モノづくりへのこだわりが日本の進歩を遅らせる
A政府の介入が競争力を低下させる
Bアンチ株主資本主義が日本のガバナンスをぶち壊す
Cルール無視が日本を狂わせる
D国際性の欠如が日本企業を時代の流れから取り残す
E危機意識の欠如が日本経済を滅ぼす
F教育の質の低下はボディーブロー
G変革への抵抗が日本を時代遅れにする
@モノづくりへのこだわりが日本の進歩を遅らせる
要するにものづくりは時代遅れ。アメリカで給与の高い会社は証券・商品・投資が21.9万ドル、石油ガス掘削15.6万ドル、パイプライン輸送10.5万
ドル、経営コンサルタント10.7万ドル、ファンド・信託9.8万ドル、コンピュータ・スステム・デザイン9.6万ドル。
シャープ:町田勝彦社長が経営資源を液晶、かてて加えて60インチ以上のオーバースペック製品に集中させる戦略をとって失敗。
パナソニック:デジタル技術革新に乗り遅れ、フラット画面TVへの取り組みが遅れた。中村社長時代にプラズマに巨額の資金を投じすぎた。また三洋のリチウムイオン電池とPVを手にいれようと買収したがうまくゆかなかった。
ソニー:出井社長以降アップルのような魅力ある製品を開発していない。コンテンツを買収したがアップルのiTuneに囲い込まれた。
A政府の介入が競争力を低下させる
利益誘導型政治の力で将来性のない分野にお金をばらまき、競争力を失った民間企業に当てもなく出資し焦げ付いてもだれも責任をとらず、非効率な部門が生き
残っている。規制緩和は進めず、法律の下に、政令、省令を作り、国会を無視して官僚が勝手に解釈を変えてゆく。割を食うのは新しい分野を切り開こうとする
企業は市場に入れない。
JAL:国際線で不採算路線を維持させられたこと、空港建設利権ゆえに完成した無駄な国内空港維持のための路線を維持するために赤字になり潰れた。
エルピーダメモリー:経済産業省が深く関与してできた日立、NEC、三菱のDRAMを統合し日本政策投資銀行から出資を受けたた企業だが、付加価値の高いフラッシュメモリーを開発せずにいたため破綻。円高が破綻の原因だというのはウソ。
ルネサス・エレクトロニックス:マイコンとASICS(特定用途向け専用大規模集積回路)を製造していたNECの子会社と三菱電機と日立製作所の半導体部
門が併合したルネサステクノロジーの合併会社で回路設計能力のある会社であった。しかし東日本地震で工場の再建に金がかかり、米ファンドのコールバーグ・
クラビス・ロバーツ(KKR)の資本が入り多品種製造路線をやめることることと技術の流出に反発した自動車業界が動き、政府の産業革新機構の資金と自動車
業界が投資することになった。しかし多品種、低価格路線の維持は難しいと思われる。
ジャパン・ディスプレイ:ソニー、東芝、日立の子会社が合併して政府の産業革新機構の資金を使ってスマホやタブレット向けの中小ディスプレイ専業メーカーを作った。しかしコモディティー化によりいずれ経営難に陥るだろう。税金の無駄使いだ。
Bアンチ株主資本主義が日本のガバナンスをぶち壊す
2000年代中盤には株主の権利にもとづいてガバナンスしようとする株主資本主義はかなり進んでいた。ところが村上ファンドとライブドアの逮捕、ブルドッ
グソースがスティール・パートナーズの動きを封じ込める第三者割当増資をしたケースで裁判所がブルドッグの防衛策うぃ適法としたことにより株主資本主義の
強化への流れは止まった。
「やっぱり会社は社員のものなんだよな」という内輪のロジックが日本の家電メーカー全滅の理由だろう。
Cルール無視が日本を狂わせる
個人レベルでは日本人は正直。しかし日本人が集団になると、集団の論理が支配して「少しぐらいルールを曲げてもいいんじゃないか、これぐらい許されるだろう」とだんだんたがが緩んできている。
民主党公約の嘘八百:マニフェスト違反を平気でする。
オリンパス事件:内輪の論理で粉飾決算。
1997年に明るみにでた大企業の粉飾決算:山一證券、日本債券信用銀行、日本長期信用銀行、カネボウ。
過去10年間の粉飾決算:西武鉄道、ライブドア、日興証券、メルシャン、ホンダ・トレーディング、沖電気のスペイン子会社
大王製紙事件:創業家出身の会長の使い込み。
D国際性の欠如が日本企業を時代の流れから取り残す
日本人は海外の人も日本人と同じように、譲り合いの精神を持ってお互いに平和に暮らしていると思っている。他人をだましたり、蹴落としたりしないと思っている。しかし現実は弱肉強食の世界だ。信じやすい人は騙される。正直者は損をし、ボーっとしていると寝首を掻かれる。
高い法人税は日本を空洞化させる:企業減税は国家間の企業誘致合戦が目的。企業が亡くなれば失業者が増える。
純潔主義と平等主義を捨てないと技術流失を止められない。これを防止するには画一的な定年制をやめて優秀な技術者は定年後も雇用することだが公平の原則に
はんするとしてしない。ひとりの技術者が知りうる分野を限定するか、モーティベーションがなくなるとしない。高額報酬を提示する手があるが、公平の原則に
反するとしてしない。
NTTの海外企業買収の失敗:海外市場のことを研究せずに証券会社の口車にのって海外買収し1.4兆円の損失を出して失敗。
第一三共のランバクシー買収の大失敗:ロシアをマーケットとするインドの後発医薬品メーカーを買収して巨額の評価損をだした。
E危機意識の欠如が日本経済を滅ぼす
@からDまでの欠点はすべて危機意識がないことに起因する。ビジネスモデルを変えず毎日進歩のないマンネリ化した生活を送りゆでガエルになっている。
尖閣諸島国有化:中国の指導部の交代という最悪のタイミングで実行。
福島第一原発事故:スリーマイルとチェルノブイリで危機意識を持ってしかるべきで、その後も社内的に津波の危険性も提起されていたのに、内輪の論理を優先するマネジメントの危機意識が無かった故に事故となった。
野村証券の大口顧客の損失補てん、増資インサイダー取引事件などの情報漏えい:内輪の論理を優先するマネジメントの危機意識なさ。
F教育の質の低下はボディーブロー
危機意識の欠如も含め日本的経営の問題は結局日本人の考え方、頭の構造にある。これをかえるには教育を変えねばならない。
東大世界27位:日本への留学生の割合は世界の留学生の3.6%。経済学者や法学者で実務ができる人は皆無。(工学部教授で実務をした人間は皆無)
日本人はアジアで英語が一番下手くそ:TOEFL27番目
サラリーマンは20年で化石化:コスト節約と称して社内研修しかしない。そして社内遊泳術が上手い人間ばかりになる。
G変革への抵抗が日本を時代遅れにする
日本人は現状維持が好き。鎖国しているならこれでよい。しかし世界にはついてゆけない。
資本主義体制のなかでグローバル経済を生き抜こうとした小泉構造改革はただしい。
日本は外圧でしか変革はできない。黒船、敗戦しかり。だからTPPに反対するものは抵抗勢力にすぎない。
出る杭を打つ文化の例は堀江、村上問題。
電子図書に抵抗する紙媒体業者。