読書録
シリアル番号 |
1196 |
書名
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資本主義の終焉と歴史の危機
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著者
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水野和夫
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出版社
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集英社
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ジャンル
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経済学
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発行日
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2014/3/19第1刷
2014/4/16第3刷
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購入日
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2014/05/10
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評価
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優
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集英社新書
2015/5/17に比較文明学会と還流文明学会の合同研究会が、東海大学代々木キャンパスで開催され、水野和夫氏(日本大学教授) 「資本主義の終焉と歴史の危機」の講演と討議するという。総合知学会のK氏の提案で合流することになった。
水野和夫氏の論がどのようなものかと、2014/5/10にHと「栄西と建仁寺」展を見に上野に出かけた折に購入。帯に内田樹氏推薦とある。内田樹氏が薦めるというのなら、かなり期待できる。
「はじめに」を少し読んで当たりと思う。
エーモン・フィングルトンの「巨龍・中国がアメリカを喰らう」を読んだ時にでた疑問。「なぜ米国は中国のWHO加盟を認め、米国市場を開放したか?」という疑問にたいする本当の回答が書いてある。
すなわち米国は善意で米国市場を中国(発展途上国)に開放したのではなく、1970年以降、行き詰まり資本の利益を確保するために、国境を越えて中
国に投資し、そこで利益を上げようとしたためだとする。しかしこれによって米国の製造業が消えてなくなり、中間層が失職して貧乏になり、米国のマーケットは失われる。結局中国(発展
途上国)は米国のマーケット縮小により設備過剰に陥り、中国への投資も利益を上げられなくなった。投資先を失った米国はバブルの発生と破裂を繰り返すだけとなる。こうして資本主義は機能不全となる。
民主主義も基盤となる中間層をうしなえば機能しなくなる。
常に拡大する投資フロンティアはアフリカが最後で地球上にはもうない。したがって成長を前提にする資本主義は破たんした。その証拠に金利は2%程
度で低迷している。これは16世紀に荘園・封建制が倒れて、資本主義社会に転移した時機の金利が長期間2%程度で低迷したのと同じ現象である。
荘園・封建制度から資本主義への転換は16世紀に起こった。その要因は利子率が2%に下がったからであるとSidney Homer and Richard Sylla著A History of Interest Ratesを引用して解説。そして日本は過去20年間利子率が2%以下。そして米国が2008年から2%以下となった。だから資本主義は機能しなくなったとする。
Department of Economics, U.C. BerkeleyのJ. Bradford DeLongのWorld Average GDP per Capitaが頭打ちになったのは地球上にフロンティアがなくなって成長が停まったため。成長がとまると資本主義はバブルと破裂を繰り返して適応できていないとする。別の新しいシステムを工夫しなければならない。ゲーム理論でなにか工夫できるかどうか?
この本を読んでいる時、友人のA氏から「連休前よりTPPの行方を追跡していたのですが、諸情報を総合するとどうやら日米交渉が99%合意されたというのが
本当のようです。合意というよりは日本がアメリカに譲歩させられたというのが真相のようで、畜産物の関税はほぼアメリカの要求通りになりました。関税はと
にかく関税以外のサービス関連の取り決めがとても気になるわけですが、TPP締結後4年間?は情報公開されないという条約ですので、最悪日本はアメリカの
植民地化となってしまうかもしれません」と知らせてきた。
日本在住で文部省の英訳を引き受けている米国人B氏にオバマは秘密好きだと聞いたが、そのようだ。
米国の銀行は国境を越えて集めた資本を国内の製造業に投資しても利益が上がらなくなり、金融技術を駆使してサブプライム層に貸しつけてバブルを発生。
2008年にそのバブルがはじけた。2012年の米国バイク旅行で没落した人品いやしからなる紳士がガソリンを恵んでくれと看板もってたっているのを目撃
して実感した。こうして米国の中間層が無産階級に落ち込んだ。米国の市場が消えてなくなって金融政策・財政政策は効かず、日本は貿易赤字。中国・東南アジ
アに引っ越した工場のあがりでようやく経常をゼロにして生きている状態。そのうちに経常利益がマイナスになると2017年以降、国民貯蓄が国家の借金より
少なくなり、ギリシア・イタリアのようになる。しかし大きすぎてだれも助けられない。陸の国家ドイツ・フランスは資本主義の行きづまりをみて新中世主義を
かかげEUを作ったがサブプライムという米国のババを引いて沈んだ。中国もアメリカの市場が消えて、輸出ができなくなったため、金融・財政出動した。しか
し不動産バブルが発生している。もうじきこれがはじけ、世界が穴ぼこに落ち込むと予想されている。
オバマの民主党は弱者に支持された政党だから、なにかして彼らを救済しなければ民主主義に立脚する政権がもたない。米国は海洋国だから太平洋を取り囲む海
洋国家でEUのような連合国家を作り、米国で雇用を維持しようというのがTPPだ。陸の大国の中国を封じ込めるにも都合がいい。海洋国家である日本として
も軍事的にも産業的にも中国と対抗するにはこの海の同盟に参加しないと不安だ。安い太陽電池ではすでに中国に負けている。日本の農業もほとんど崩壊した。
他に手があるのかというのが安倍の考えなのだろう。でも日本でも米国と同じく、産業空洞化で無産階級が増え、いずれ中国のようにこれが騒乱の時代への突入
するか人口と社会の音もない崩壊になるのか。日本の国民性から後者の気配濃厚。静岡県がこの産業空洞化で現役世代の人口減が生じている。
文部省の英訳を引き受けている米国人B氏はメキシコとの国境に鉄条網があり、(カナダとの間にはない)ここを越える人間は射殺するという警告板があるが、
すでに米国は経費が理由で国境警備隊を配置していないそうだ。カルフォルニはメキシコからの無法流入者であふれている。異常気象で雨が降らないので果樹園
の木が枯れないように散水して我慢している状態だとか。だからカルフォルニではEVしか動かしてはいけない。
水野氏は問題は資本主義の発展の最後のフロンティアはアフリカしかなくなったことだ。原子力は安くはなく、土地を失うので使えない。シェールガスは資本主義をもう
100年間延長するかもしれないが、いずれ終焉を迎えるという。残るは成長神話を放棄するしか問題は解決しないというのが水野和夫氏の考え。だからグローバリ
ゼーションという米国の資本家救済・貧富の差拡大策にのるのはやめたほうがいいともいう。とはいえ、日本は資源やエネルギーがないので鎖国はできない。
安倍政権の
金融政策、財政政策はやめてプライマリーバランスを維持してクラッシュをさけながら綱渡りして資本主義の次の仕組が生まれるまで日本は逃げ切るというのが
ベストなんだろう。そのためには馬鹿な財界が要求する法人税減税はせず、必要なら20%の消費税を甘受し、プライマリーバランスを維持して資本主義の次の
時代を静かに待つという智慧を実行できる政治家はいない。すなわち民主主義はこのようなパイの切り分けでは機能しない。
残念ながら諸般の事情で比較文明学会と還流文明学会の合同研究会には参加できなかったが水野氏の講演スライドはいただいた。
水野氏の説は金利に着目した説で単純で新鮮だが、もっと細かな分析が必要と思う。野口悠紀雄の「変わった世界 変わらない日本」はもっと微視的だ。野口は
いち早く金融自由化に取り組んだイギリス経済は劇的な復活を遂げ、IT化に成功したアメリカは歴史に残る黄金期を迎えている。かつて「欧州の最貧国」とい
われたアイルランドは、世界経済の変貌にいち早く対応し、「ケルトの虎」と呼ばれるまでに急成長している。周回遅れの感もある日本に、挽回の余地はある
か。残念ながら、アベノミクスは、株価の底上げには成功したものの、円安誘導の輸出立国モデルに固執しており、古い産業構造を温存することに躍起になって
いると指摘。
ニーアル・ファーガソンが「劣化国家」で指摘したように資本主義が有効な手立てを失ったようにみえるのは日本だけではなく先進国全てに共通で、中国すら例外ではない。
水野氏は山本義隆氏の「世界の見方の転換」の書評で山本義隆氏の以下の名言「ルネッサンスのパラドックスの一つは、それが科学的な運動ではなかった」、
「ルネッサンスはまぎれもなく中世思想の継承者であった」、「コペルニクスが科学革命の最初の主導人物になったのは地球中心説にたいし太陽中心説を提案し
たからではない。不動だと信じられていた地球を惑星の仲間入りをさせ、高貴なる天体と同一に扱ったことにより、天上から地上へと連なる貴賤のヒエラルキー
を破壊したためである」を引用して、資本主義の開始の原因を上げる。こうしてコペルニクスがもたらした無限の概念にヒントを得て一度限りの事業清算型合資
会社を永久資本の株式会社としたオランダ東インド会社が設立されて、資本主義は端緒をつかんだのである。逆に言えば資本主義が行きづまったのであれば、永
久資本の巨大株式会社という形式がいけないということになる。再度、一度限りの事業清算型合資会社、すなわちベンチャー組織を奨励すればよいことになる。
米国はこれで復活したが日本は永久資本の巨大株式会社に押しつぶされて自壊しつつある。
旅の途中、浅井隆が第二のジョージ・ソロスと言われる2008年のリーマンショックを事前に予測したというカイル・バスにインタビューして書いた「あと2
年で国債暴落、1ドル=250円に!!」を読む。カイル・バスは政治家は水野氏の処方箋すなわち過剰債務国にならぬようにプライマリーバランスをとることすら実施できないと予言。なぜならそれをしようとする勇敢ましい政治家は
失脚するからだ。
ニーアル・ファーガソンは過剰債務国が取れる施策は@技術イノベーション(突然変異)で成長 率を金利以上に維持する。A公的債務はデフォルトし、民間債務は破産で棒引きする。B通貨切り下げとハイパー・インフレで債務を帳消しにする。の3つしかない。
日本人は自分の頭で考える人がすくないので西洋のように円を海外通貨に替える人がすくないため通過当局は助かっているが、それでも人々は気がつけば、円売
りに殺到するのは人間の常だ。一旦、円安が始まると、あっという間に円安になる。
Rev. May 13, 2014
Rev. May 26, 2014