読書録

シリアル番号 1158

書名

海賊とよばれた男

著者

百田尚樹

出版社

講談社

ジャンル

小説

発行日

2012/7/11第1刷
2013/4/24第21刷

購入日

2013/8/19

評価



避暑のため軽井沢の義姉の別荘に避暑に出かけた折り、アニメ「風たちぬ」が良かった話をしたら百田尚樹の「永遠のゼロ」が良かったと聞く。同じ作家が「海 賊とよ ばれた男」という小説を書いていると、これから読もうとしている本を手渡してくれた、ぱらぱらとめくると、出光興産で役員をした藤田が話していた出光佐三 をモデルにした本だとわかる。読み始めると戦前の出光がどのようにしてゼロから始めたかが書いてあるので完全にはまり、上下2冊を借りて帰る。

ここには一人の男が起業し、成功するまでの一切の秘密が活写されている。上巻は戦前の話で、ほとんど知らないことばかりで、勉強になった。起業するとき、 企 業家にほれ込んで資本を出してくれるエンジェルという役割の人が必須となる。佐三氏にはちゃんと資産家の日田重太郎という人が居た。戦時統制を含め、佐三 は自由を求 めて、同業者と群れないので国内では締め出されて、満州や中国で商売を始めざるをえなかった。満鉄に潤滑油を売り込むために、日本産の潤滑油にはナフレン 系が多く、満州の冬でも車軸油が凍 結しないことを実車試験で証明し、米国産のパラフィン・リッチの潤滑油を駆逐してゆくさまは技術に立脚した営業の正道で見事なものだ。敗戦で海外資産と商 権をうし なう。終戦直後はまだ戦時統制が残っていた。出光の枠はない。だから売るものがない。残ったのは人的財産のみだ。佐三は一人の首も切らず、ラジオ修理、タ ンクの底さらいなどあらゆることをして食いつなぎ、GHQの石油ビジネスの再開許可を待つ。そして石油統制を撤廃させるため佐三は政府とGHQに意見書を提出する。

下巻は、戦後の展開である。これは私も1965年以降は渦中にあったので当時見聞きしたことの裏が分かってこれも勉強させられた。石油再開となった。まず タンクを入札で確保する。佐三がアングロ・イラニアンを国有化したモサデ グと取引し、英国の 経済封鎖を突破し、手持ちタンカー日章丸をアバダンに送るという快挙を行う。しかしセブンシスターがCIAを動かしてイランでクーデターを起こし、モサデ グを失脚 させ、パーレビ王政にもどり、もとの木阿弥となる。しかし出光はこの時の利益で国内シェアを伸ばすことができた。このパーレビ体制はホメイニ革命まで25 年間継続 する。そこで出光は徳山の海軍燃料廠の跡地を手にいれ、ガルフオイルのクエートの原油を処理するためにバンクオブアメリカのファイナンスでUOPに最新の 製油所を発注し、10ヶ月で完成させる。遠浅の海はシーバース方式を採用。政府の護送船団方式は出光の突出を許さなく生産調整を仕掛けてきた。これに対し て石油連盟脱退など果敢にたたかい1966年、生産調整はなくなった。1970年姫路市の埋め立て地に製油所を建設したが、その地名に佐三は恩人の日田の 名前をつけて姫路市飾磨区妻鹿日田町とすることを申請し認められた。1973年には石油ショックが発生。ここでメジャーの力は衰え、産油国がパワーを握って現在に至るのである。1979年にホメイニ革命が発生して、ここで イランにおけるアメリカのパワーも完全に失われた。

出光興産で役員をした藤田は

日章丸事件の話は入社した頃、もう故人となっている先輩方々から良く聞かされた。イラ ン石油輸入交渉でテヘランに行かなければならず、イギリスに知られない様に、極秘でいくのに苦労した様です。新田船長の話では、行きはインド洋でイギルス 軍艦に狙われ撃沈されるかもしれないと思った。ペルシャ湾に入っても絶えず注意した。本社への無線は周波数を変えたり、極力通電しなかった。イランの港に 入るに苦労した様だ。帰りはシンガポールのマラッカを通るとだ捕される心配があったのでバリ島横のロンボク経由で日本に向かい無事着き裁判となり勝訴し た。これらは佐三さんの指示に従い動いたが、実は中野学校・特高出身で佐三さんが好きで途中入社された武貞さんという人が居て、非常に綿密な計画を立て行 動した様だ。国際法上もアングロイラニアン会社に勝つと自信を持っていた様です。本人から聞いた話です。出光は家族主義だから、出勤簿が無い、残業手当な し、組合なし、首切りなし等ナイナイつくし。規則は極力作らず自分で考え行動することが原則でした。仕事は自由にやらせて貰い事後報告が多かった。これが 裏目に出た。やりすぎて借入が2兆円になり、資本金は10億円でなのに利息が毎日2億円となった。銀行も呆れていた。小生の現役の頃の話で、これではまず い。何とかしないといけないという事で天坊君(後に社長。会長、石連会長)が中心になって株式公開に踏み切った。株価も7,000円から8,000円とな り借入れも大幅に減少し健全経営になった。裏話も多いが今日はこの位にしておきます。出光はよく潰れなかったと思っている次第。運も良かった。

と言っている。

それにしても出光の動きが早い。スタートアップカンパニーに資金を提供した日田重太郎氏の名前を姫路製油所の埋め立て地に日田町という町名をつけ たというので感激してグーグルでしらべると、そこには既に製油所はなく、更地になり、そこに巨大なパナソニックの液晶工場があった。この液晶工場もすでに 不良債権になったのだろうか?更に調べると兵庫製油所は2003年に閉鎖したという。まだ残っている跡地にはメガソーラーを2014年3月に発電出力1万キロワットの施設を稼働させる予定だという。



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西隣をみれば新日鉄はまだ生き残っている。このようなものを生かすためにわれわれ国民は犠牲にされているかもしれないという 「有司専制」国家の怖さを 感ずる。東隣は大阪瓦斯のLNG基地と関電のLNG火力発電所だ。関電は出光の跡地にまだLNG火力を建設できる。電力業の不幸は出光佐三のような男が居 なかったことではないだろうか。しかし日本のような「有司専制」国家ではぺんぺん草も生えず、ないものねだりだ。孫氏など多少その気配があるがどうだろう。 最近、日本の産業はうまくいっていない。これも出光佐三のような人間が活躍できないように社会が硬直化してしまったためだろう。千代田の創業者の玉置明善も出光佐三に似た ような行動様式をとっていたが、陸軍主計出身の二代目はそのような行動はできなかったことを見ているのでその感は深い。


とここまでは著者をべた褒め。しかし「永遠のゼロ」をよまなくてよかっ た。なんとなく胡散臭く感じたからである。そしてその予感は的中。安倍首相の肝いりでNHK委員になったとたん馬脚を現した。東京裁判は原爆投下や大空襲 による大虐殺をごまかすための裁判だったとか、都知事選の田母神俊雄候補の対立候補を「人間のくず」と発言。

同時にNHK経営委員になった新右翼の長谷川三千子も自決した右翼活動家を追悼文で礼賛し,
天皇陛下を現人神とよぶなど、かなりおかしい。そして彼らが推薦した 籾井(もみい)勝人三井物産元副社長をNHK会長に推薦したのも十分NHKの不払いの価値がある。

Rev. February 13, 2013


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