読書録
シリアル番号 |
1144 |
書名
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マリス博士の奇想天外な人生
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著者
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キャリー・マリス
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出版社
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早川書房
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ジャンル
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サイエンス
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発行日
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2000/2/15初版
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購入日
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2013/05/18
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評価
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優
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原題:Dancing Naked in the Mind Field by Kary Mullis
鎌倉市腰越図書館蔵
関連本「バイテク産業の社会人類学」、「PCRの誕生 バイオテクノロジーのエスノグラフィー」
PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)の発明者、ノーベル賞受賞が自ら書いた随筆。その性格、思想は全く同感。その貢献度をみればノーベル賞受賞の権威を高めたといえる。
著者がまだバークレー校の生化学専攻科の大学院2年生の1968年、ネイチャーに「時間逆転の宇宙論的意味」という論文を試みに投稿したら掲載されてし
まった。これで権威というものの虚像を見てしまった。ところが後年PCR発明の論文を書いたら却下されてしまったときは驚きもしなかった。
なかでも科学を語る人々はまったくその通り。思想的にはノーベル経済学賞のジェイムス・ブキャナンの社会における選択の理論を科学を標ぼうする利益団体に応用する。この理論によれば世界は選挙民、政治家、官僚、利益団体の4つのグループに分けられる。
フロンによるオゾン層破壊でオゾンホールができたとしてもそこを通過した紫外線は下の空気層でオゾンを発生させ、紫外線は地表に達しないのだからフロンは無実。
二酸化炭素による人為的温暖化問題が喧伝されているが1000年前にバイキングが海にう乗り出したころは世界は今よりずっと暖かった。その後はずっと寒く
なったのは太陽との距離が変わったためだろう。というわけで著者は人為的温暖化懐疑論者である。こうしてIPCCが膨大な予算を持って活動するが選挙民の
ためにはならない恥知らずな行為なのだ。
ヒト免疫不全ウィルス(HIV)がエイズの原因とする考えを認めない(カリフォルニア大学バークレー校教授のピーター・デュースバーグ (en:Peter Duesberg) のAIDSの原因がHIVであると認めないエイズ否認主義と同じ立場をとる。
善玉、悪玉コレステロール論、飽和・不飽和脂肪酸の比率、EPA、DHA、オメガ三脂肪酸は無意味。なぜならこれらは消化されて体内で合成されるもので摂
取食物とは直接の関係はない。従ってこの比率を論じても意味はない。例外はわれわれが合成できないビタミンでこれは摂取をしっかり管理しなければならな
い。
政治家:科学はまったく理解できないし、しようともしない。
官僚:腐敗した科学を職業化し、運用することにより経済的なメリットが生み出されることに気が付いた連中。
科学を標ぼうする利益団体:著作、セミナー、科学シンポジウムで政治家や官僚を洗脳しようとする人で、経済学や社会科学を学んだが、優良企業のよいポジションに
つけなかった社会の寄生虫。科学する動機が好奇心から経済的なものになった腐敗した科学者のおかげで科学研究にたいする投資は公正に評価されず、各種の利
益団体がメディアを使ってコントロールする。
インシュリン依存性糖尿病治療薬の構想はある。しかしそれを実現するには金を持っている人をその気にさせ、技術を持っている人間に給与を支
払い、この課題に向けて働かせるだけのことだ。だが実験室での才能イコール重役会での才能ではない。研究者は研究者をつかうことは難しいことではない。し
かし会社の経理、特許、広報、マーケティングの専門家と渡り合うのは並大抵のことではない。というわけで必要な研究はされず、幻想をばらないて税金をくす
ねるほうが盛んにおこなわれるのだ。
O・J・トンプソン裁判においてDNA分析が正しい手順でおこなわれていないと弁護士にアドバイスした。このときアドボカシー制度は金持ちに有利だと指摘。