読書録

シリアル番号 1141

書名

神がつくった究極の素粒子

著者

レオン・レーダーマン

出版社

草思社

ジャンル

サイエンス

発行日

1997/10/6第1刷
1997/10/15第2刷

購入日

2013/04/23

評価



原題:The God Particle by Leon Lederman with Dick Teresi

鎌倉図書館蔵

ノーベル賞受賞の実験物理学者でかつフェルミ・ラボの二代目所長の書いた通俗解説書で寝転がって楽しく読める。フェルミラボはシカゴの西のVativaの 東5マイルにある。リングの内側にはプレーリーグラスが復元されている。そしてリングの北側ではバッファローを飼育している。


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デモクリトスの定義したアトモズあるいはアトムは素粒子のことである。その素粒子には2種あって6つのクオークと直径ゼロの電子、ミュー粒子、タウ粒子、 ニュートリノなどの6つのレプトン族がある。しかし現実の物質はアップクォークとボトムクォークの2つのクォークと電子からだけで構成され、これにニュートリノが宇宙をさまよっているだけだ。

1929年カルフォルニア大バークレー校でアーネスト・オーランド・ローレンズはサイクロトロンを開発した。これを手伝ったのは森永先生の先生である嵯峨根遼吉教授で ある。サイクロトロンの面白いところは例えば陽子を加速するとき一定の高周波を2つの半円形の電極にかければいという単純さである。陽子が加速すれば回転 半径は大きくなるが電極を通過する頻度は一定である。これは陽子が共鳴振動しているためである。線形加速器はそういうわけにはゆかない。筒の間隔と周波数 を組み合わせて加速する。シンクロトロンはしかし陽子が曲がると光子を放出して減衰するため、最大数10GeVにしかできないということがわかったため、 再び線形加速器がつかわれるようになった。

原子核を初めて核分裂させたのはラザフォード所長率いるキャベンディシュ研のジョン・コッククロフトとアーネスト・ウォルトンで変圧器と倍電圧整流回路と 陰極管式放電管で陽子を加速して標的の鉛、リチウム、ベリリウムにぶつけた1932年であった。リチウムは400KeVで壊変した。

理論物理学の分野ではディラックが1940年に量子論と電磁気力を融合させたが、電子の特性のいくつかが新しい相対論的量子論で計算すると無限大にな るという問題があった。これを解決したのが、リチャード・ファインマン、ジュリアン・シュウインガー、フリーマン・ダイソン、朝永振一郎が繰り込み理論 (renormalization)で解決した。

1950年にスタンフォードのホッフスタッターが800MeVの電子ビームを液体水素に照射し散乱電子のパターンから陽子のぼんやりした写真撮影をし、直径を計測できた。1968年になってス タンフォード線形加速器センターが8-15GeVの電子を陽子にぶつけてその散乱パターンから陽子の中に小さなものが3つ動き回っているのをみつけた。これが クォークであった。高エネルギーは波長がみじかいので高解像度になるからであった。

神の素粒子とは最後に残った未知の素粒子、重力を作り、暗黒物質の謎を秘めるヒッグス粒子のこと。

宇宙の寿命は1エクサ秒(1018)である。宇宙の半径は1028cm。

この本自体はアトムを提唱したデモクリトスからすべての偉大な物理学者の業績を平易に解説したものである。

著者の目的はヒッグス粒子の発見を目的とした超 伝導スーパーコライダー(SSC)の建設の支持を得るためであったが、1992年に米国政府の資金難で建設資金が停止された。科学における米国の力も衰えたものだ。代わりにヨーロッパのCERNのハドロンコライダー (LHC)が代わりを務めるようだ。

2013年になってヒッグス粒子がみつかったかというニュースが流れた。

電子:1eV
アルファ粒子:5MeV
中性子、陽子:1GeV
クオーク:10GeV
神の粒子:10TeV(フェルミラボのTevatron加速器→SSC)

本書は素粒子論の入門書として最適。



2013/5 東海村の加速器実験施設J-PARCで陽子を加速し、金のターゲットにぶつけて素粒子を作る実験中、老朽化した電源の故障でターゲットへの照射量を制御で きなくなり400倍の陽子を照射してしまった。結果として金が熔融して中の放射性分解生成物が気化したと報道されている。

ターゲットへの照射量の制御は大部分の陽子はダミーターゲットへ照射してほんの一部を実験目的のターゲットに切り替える。ダミーターゲットは膨大な照射を受けるので放射性物質は漏れ出ないように設計されている。

もし陽子の軌道を曲げる電磁石の電源が切れたら回っている陽子は真っ直ぐ進み、真空を維持している多分ステンレスの壁にぶつかって穴をあけ、放射性物質を 含むとけた金属が蒸気になるだろう。だから加速器は全て地下トンネルに設置するのだろうけれど、ガスは地下にとじこめないで換気扇で地上に排気するように 設計されているのではないか?

CERNでは微小ブラックホールができるから反対という運動もある。しかし仮にできたとしてもホーキング放射で消えてしまうだろうと言われている。

以上病でドイツへの旅を1月のばした物理学者森永先生に線形加速についてその仕掛けを教えてもらったのですが、ついでにそもそもハドロン加速器な ど米国ですら断念して唯一CERNだけが金を持ち合って居る時代に、なぜ日本が中途半端なものを作ったのか質問したら。当然文部省はそのようなことは十分 わかっているから金はださないが一部の物理学者が原発ででる超ウラン廃棄物処理に役立つというウソの目的をくわえたら、あっさり経産省がネギもってかけつ けた歴史を教えてくれた。経産省は原発存続が目的化してしまった組織ですからそこに倫理はない。

日本でウソが頻繁に生ずるのはわたしは儒教の影響かと思っていたのだが、橋爪大三郎の「おどろきの中国」 をよんで儒教は多文化多民族的な集団を、共通のフォーマットに従わせるための普遍的な原理原則だ知り、儒教は日本人が平気でウソをつくことには関係ないの では考え始めた。もしかしたら個人が表にでないですむ仕掛けが原因かと。あらゆる判断に個人の責任が明確であれば、個人に動物的にそなわる倫理感に従うと おもうのだが、組織に責任があると突然、倫理などどこかに飛んでしまうのでは。米国は万世一系の天皇の戦争責任を問わずA級戦犯になすりつけて倫理問題を チャラにしたのだが、厚生省の役人(軍人)はA級戦犯の遺族に年金支払うために靖国に合祀するよう裏で指示したから日本の役人に倫理はないことは確か。こ れが世界を敵にまわすことになっている。そしてアフリカにわれわれの税金をばらまいてどうするつもりなのだろうか??

日本は空気でうごくから、だれも個人として責任はとらない。まー!大海に漂う葦のようなものでどこに流れ着くかわからない。過去100年間そう。

宇宙兵器開発に役立つという考えもあるが、こん な巨大なものは宇宙に打ち上げられない。

Rev. June 2, 1013


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