読書録

シリアル番号 1115

書名

日本人の心とかたちー無自覚日本人考ー

著者

神出瑞穂

出版社

おうふう

ジャンル

文化論

発行日

2012/9/25初版

購入日

2012/10/19

評価



著者謹呈本

日本人の心を無魂洋才、和魂諸才、士魂商才、和魂和才、中魂洋才、縄魂弥才でまず説明する。

ついで武士道、百姓道、公家道を対比する。そして大和魂、大和心、あかきこころ、あはれ、下克上、神仏習合、けがれときよめ、いろごのみなどをまとめて日 本人の心を7つのカテゴリーにまとめ表1としている。次に生命科学との関連を考察して表2を作成している。表1と表2は必ずしも一致しないが、強引に一致 させると次のようになる。

日本人の心の7つのカテゴリー
成分
生命科学的視点
自律心(諸才の刺激による和魂の強化)
自己を制御、自己責任能力
免疫
あかき心(荒魂と和魂のゆらぎと調和)
誠、勇猛さ、堅忍、いさぎよさ、快活、明朗、忠孝節義、礼、名誉、仁、惻隠、知恵
ホメオスタシス、自律神経
稜威(いつ)
清浄で鋭い尊厳な威光、生きる力の根源的エネルギー
ミトコンドリアのエネルギー生産
物のあはれを知る心
生きた事物を生きるがままに捉える心、自然と自己との一体感、時空を垣間見る心、狂いと遊び心、無常感
遺伝子、食物連鎖
和(やわらぎ)の心
親しみ、こころを合わせる、衆知を集める、利他性
生物の共生、生命の進化
穢れと清めの心
あらゆるものは穢れる、禊と祓いにより清める、生命力再生
新陳代謝
むすびの心
天地、万物を生み出す霊妙な力、生成、いろごのみ、性の賛美、絆、学び、創造
動的恒常性維持、創造、生成

なかなかの力作で着眼点がユニーク。

ところで、この本で扱っていない敵討ちまたは仇討ちはどうか?日本人の特異なところは敵討ちにあっては理がどちらにあるかは問われない。すなわちかたきは 常に悪人で討ったほうが善人になる。首をとられた吉良は永遠に憎まれ、討ち入りした浪士たちはのちのちまでほめそやされる。これはどのように分類されるの だろう?あかき心か?でもちょっと怖い世界。倫理にはもとるが、なぜか納得させるものがある?これは生命科学ではどういうことになるか?

江崎玲於奈は日本語の心にぴったりの英語はないという。心=ハート(情)+マインド(知)だという。ラフカディオ・ハーンはthe heart of thingsだとしたという。

冷泉彰彦氏が『産業構造の変革に苦しむだけでなく、人と人の関わり方や集合の仕方などでも本質的な「行き詰まり」を抱えている日本社会において、本当 に必要なのは日本人の好きな「和魂洋才」すなわち「更に和魂を重視する」というのではなく、反対に「洋魂」とでも言うべき「西洋発の原理原則(プリンシプルとコモンロー)」を真剣に学ぶこと ではないかと思う』と指摘している。なにか白洲次郎のパクリのようにも聞こえる。そして、英語が母国語でないから、金融業で稼げないという言い訳があるが、問題は言葉のハンディにはなく、西洋発の原 理原則を理解していないためではないかと指摘する。

しかし私はこれも皮相的な見方で西洋発の原理原則はすでに明示的知識で古くなった文系的概念だ。自分で考えることをせず、西欧の権威が言ったプリンシプル を押し頂いたところで、彼らより優れた成果を出せるわけではない。いままでも追従してきて追いかけに終わっている。西洋が成功した のは理系的行動原理であるサイエンスが教えてくれる。サイエンスは観測したものが正しいと認定する。そしてその裏の作動の秘密は何かと解明してゆく、なに か知見が得られれば、率直にそれを認めるという立場だ。人間社会も自然現象で正しい手法を用いれば因果関係を解明できる。そしてサイエンスを始める心はそれと気が付く暗黙知を必要とするだろう。日本の文系的指導層はいま だ「武士に二言はない」という言葉で、権威付けし、古めかしい明示的知識で愚民を動かそうとする。しかし少し賢くなり、権威を疑い、自分で考えるようになった人 間はついてゆけない。だから社会として有効に作動しないのだ。

航空機もボーイングの下請けでよしとし、自ら魅力的な概念の航空機を開発することをしない。YS-11は戦前に独自の戦闘機を作った古手エンジニアが開発 したものだが、従順な若者が続くことはなかった。コンピュータのCPU製造技術の進歩はとまり、あとは回路設計という広大な荒野がのこされている。一見イ ンテルという巨人には手も足もでないと思ってなにもしなかったのだが、英国のARM社はこの荒野に出かけて斬新な省エネ設計のCPUの設計をライセンスす る企業として成功し、世界の携帯電話のCPUをほぼ手中におさめた。1985年創業のアメリカのベンチャー企業のクアルコムは符号分割多重アクセス方式の フロントランナーで携帯電話機の通信チップをARM社のCPUにビルトインして、世界の携帯電話市場を制覇した。日本はメモリチップの開発者であったが、 メモリ回路が単純なゆえ、知的財産管理に失敗し、今では誰でも製造できるようになり、韓国にその座を明け渡してしまった。知的財産管理に失敗したのは製造 法にしか気が回らずデザインの重要性に気が付かなかったからである。

理魂文才こそ必要なことなどではないか?

Rev. January 5, 2013

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