読書録

シリアル番号 1091

書名

福島の原発事故をめぐってーいくつか学び考えたこと

著者

山本義隆

出版社

みすず書房

ジャンル

技術

発行日

2011/8/25第1刷
2011/10/5第5刷

購入日

2011/11/18

評価



森永先生の愛弟子。全共闘のリーダーにして獄につながれること5年。学校法人駿台予備学校の名物先生。森永先生からこれを読めと推薦。山本義隆氏は森永先 生の教え子のなかでも最も優秀だった男だそうだ。娘からも巷ではとても評判がいいのでこの本を貸してほしいといってきた。

森永先生は東大に原子力工学科が新設されたとき、物理学科としても関連講座を作って協力しようと口説かれて東北大から東大物理学科に戻った人である。とこ ろが原子力工学科があらゆる手段を使って予算をつけないなどの妨害をした。実験物理学者は予算がなければなにもできない。やむを得ず再びオランダとニール スボーア研に出かけて失業対策研究をしているときにいい成果がでて、ドイツ国立大学の正教授の口が舞い込んだといういきさつを持っている。というわけで東 大の原子力工学科は天敵と認識し、安全神話に加担した福島事故のA級戦犯との見解なのだが、皮肉にも東大原子力工学科の陰湿な妨害のおかげで、ドイツ国立 大学の終身教授の職をつか めた人だ。

東大に移籍したとき、外国の大学に遊学する弟子の旅費を文部省から出させるために、本当は給料はいらないが、給料を支払うというウソの招聘状をだすよう依 頼 してほしいと同僚教 授が頼まれた。軽い気持ちで、若き頃遊学した米国の大学の学部長に依頼状をだした。いつもはすぐ返事がくるのだが、大分時間がたってから、「それはできな い。結局は正直が最善策)(After all honesty is the best policy)」という返事をもらったという。その手紙をあけた時はまさに全身の血が引く思いで、3年間築いた信頼関係が一気に崩れたと感じたという。

先生は日本の「公的ウソ」は原発村の常套手段で、結局その公的ウソは事故で暴露されたとみる。ギリシアの苦境もギリシアの全政権がEUにウソの報告書をだ したのが原因だという。「公的ウソ」がまかり通るのは先生は宗教という神の概念がな いからだという。西洋にもウソをつく人は多いが、一応罪の意識を伴ってウソをつくため、抑制が効いている。私は日本に公的ウソが多いのは人間関係を大切に するあまり、ウソも方便という文化に浸りきり、罪の意識なく平気でウソをつくことができるのではないかと考えている。ウソは必ず馬脚を現す。な ぜなら自然現象は人間社会の掟に従う義理はないのだ。自然現象(神)の恐ろしさを理解せず、人間間の仁義だけでうごく文系官僚、政治家が権力を握っている からだろうと私は思う。荻生徂徠が「天 道と人道は別」との論を展開しているように人道の都合で天道に背けば必ずしっぺ返しがくるものだ。こうして人道に従う文系官僚に予算を 握られた理系技術者は全く無力だ。官僚は江戸時代の武士のなれの果てだ。その武士のバイブル「葉隠 聞書第八、一四」には「一 町の内七度嘘言言はねば男は立たぬ」 とある。なにをかいわんや。

前置きがながくなったが、ようやく山本本を手に取る。この本は3部構成である。

第一章:深層底流、原発開発の深層底流は岸信介が作ったという。米国に負けたトラウマに悩まされた岸信介が日本は原爆 はもつことはできないが、 原発を持てばなくとも原料を手に入れることができる。この事実の重みは外交に有利だと考えた。外務省も核の威力は助かると考えた。商工省の後身の通産省も 同じ気持ちでなんとか住民の反対を原発は安全だとウソをいってもつぶして原発建設の尻を叩いた。原発より原爆持つのは手っ取り早いと北朝鮮や中国のように 開き直らずにウジウジと虚勢を張ろうとする陰湿な思考回路。ドゴールも米英ソに対抗するために有効と考えで原爆を持ち、ついでに原発大国になった。今、フ ランス人はこのドゴールの負の遺産に途方にくれているという構図である。ドイツだって隣国で事故が起これば被害者になる。とんだ迷惑施設なのである。

岸後、田中角栄が飴まで用意してしまったから貧しい地方は完全にこのおいしい飴にくらいついて、少なくとも福島はいまホゾをかんでいる。ところが九州、福 井、北海道はいまだ飴の魅力を忘れられないでいるといったところが日本の現状ではないか。

第二章:技術と労働:原発は未熟技術。原発周辺に住む人々に未熟技術の捨て石になれという権利はない。一度でも事故をおこしたらそれでおしまい。

第三章:科学技術幻想と破綻:核物理学の理想と現実の工業との差は大きく、これを結ぶことは大きな権力を要した。原子力は人間のキャパシティーにゆるされ た限界を超えている。

著書『知性の叛乱』(前衛社、1969)『重力と力学的世界――古典としての古典力学』(現代数学社、1981)『熱学思想の史的展開――熱とエントロ ピー』(現代数学社、1987:新版、ちくま学芸文庫、全3巻、2008-2009)『古典力学の形成――ニュートンからラグランジュへ』(日本評論社、 1997)『解析力学』I・II(共著、朝倉書店、1998)『磁力と重力の発見』全3巻(みすず書房、2003:パピルス賞、毎日出版文化賞、大佛次郎 賞受賞)『一六世紀文化革命』全2巻(みすず書房、2007)ほか。編訳書『ニールス・ボーア論文集(1)因果性と相補性』『同(2)量子力学の誕生』 (岩波文庫、1999-2000)『物理学者ランダウ――スターリン体制への叛逆』(共編訳、みすず書房、2004)。

書店の案内には「税金をもちいた多額の交付金によって地方議会を切り崩し、地方自治体を財政的に原発に反対できない状態に追いやり、優遇されている電力会 社は、他の企業では考えられないような潤沢な宣伝費用を投入することで大マスコミを抱き込み、頻繁に生じている小規模な事故や不具合の発覚を隠蔽して安全 宣言を繰りかえし、寄付講座という形でのボス教授の支配の続く大学研究室をまるごと買収し、こうして、地元やマスコミや学界から批判者を排除し翼賛体制を 作りあげていったやり方は、原発ファシズムともいうべき様相を呈している」とある。

Rev. March 24, 2012


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