読書録

シリアル番号 1031

書名

台湾問題は日本問題

著者

岡崎久彦

出版社

海竜社

ジャンル

政治学・地政学

発行日

2008/5/10第1刷

購入日

2009/11/9

評価

鎌倉図書館蔵

英文タイトル:The Taiwan Question by Hisahiko Okazaki

鳩山政権が東アジア共同体構想をぶち上げている。だいぶまえに森嶋通夫が日本も中国とヨーロッパユニオンのようなものを作らないとこまることになるだろうといっていたように記憶する。だが現実はどうなのか少し中国を学ぼうとエーモン・フィングルトンの書、岡崎氏の中国問題の書と一緒に借りる。岡崎久彦氏はかって千代田化工の顧問をされていてその見識を買っていたので特に選んだものである。

氏は長年外務省で情報分析をされたかたで、退官後折にふれ、新聞・雑誌などに書いた論文を解説をつけながらまとめたものである。収録にあたって一切文言を修正しなかったというからその一貫性は折り紙つきである。

一般に氏は右翼系と目されているがこれを読むと右も左もなく、情報を収集したうえで判断するパワーポリティックスを信奉する冷徹な戦略家の目をもっていることがわかる。世の中は氏の予想通りの方向に動いているのか。

氏の見解は歴史に根ざしたものである。2002/8/26付け読売新聞に書いたものが簡潔であるのでここに一部紹介する。

「1588年の無敵艦隊撃滅以来、アングロ・サクソンはスペイン帝国、オランダ帝国を滅ぼし、フランスとの抗争に打ち勝った。20世紀になってアングロ・アメリカン世界は、ドイツを2回敗り、日本帝国を滅ぼし、最後にはロシア帝国を解体させ、一人勝ちの形で21世紀を迎えている。

第二次大戦が終わった時中学生だった私は大人の会話に耳を傾ける機会があった。一人の客が、「何年したら報復戦ができるのかな?」と言ったのに対して、もう一人が「いや再びアングロ・サクソンに敵対してはいけない。ドイツは2回やられている」と言った。その時私は子供心に後者が正しいと思った。その後始まった冷戦の初期、共産主義の勝利が歴史の必然のように言われた時期でも、私は終局的にアメリカがロシアに勝つと信じて疑わなかった。

私は、その後も日本外交を対米追従などという人には常に言って来た。英米と戦って敗れた後、そのジュニアパートナーとなる事を選んだ国は、国民の安全と繁栄を守っている。英蘭戦争以降のオランダ、二十世紀のフランス、それは日本だけの事ではないのだ。第二次大戦後のドイツもそうだ、と。そして、おそらく今後のロシアもそうなるであろう。

私はこの日本の経験を今の中国に伝えたい。現在、米国の覇権と衝突する最大の可能性のある国は中国である。もし、中国が米国との衝突を避けて、蒙古帝国、清帝国に次ぐ、中国史上最大の版図を擁する現在の中華帝国を維持できれば、それは歴史上どの民族も成し遂げられなかった偉業といえよう。もし失敗すれば、帝国を失った蘭、日、露、そしてインドシナを失ったフランス、領土の半分を失ったドイツと同じ運命を辿るおそれがある。今は問題とされていない新疆、チベット、内蒙古の維持も危うくなろう。

全ては台湾問題にかかっている。

ジョージ・ケナンは「民主国家は怒って戦争をする」と言った。台湾の民主主義が脅かされたと感じた時のアメリカの世論の怖さを中国は決して軽視すべきではない。

戦争を決意した当時のヨーロッパに指導者の頭に中に経済の相互依存に対する配慮などかけらも無かったとおんじように、台湾の人が経済的利益のために現在の自由をいささかでも犠牲にすることは考えられない」

である。

国際法は集団的自衛権を認め、日本国憲法もこれを否定していない。日本は憲法の精神をかんがみてこれを行使することを自省しているのだが(内閣法制局見解が出来ないというのは無理がある)米国が台湾防衛に立ち上がったとき、日本が集団的自衛権を行使しないと米国市民を怒らせてしまい、同盟の維持はむずかしくなる。江沢民の失政で日本人の対中国感情は悪化しているし、ソ連の崩壊で容共的思想は消え去った。そのときがくれば日本国民は米国と台湾側につくだろうというのが氏の見方である。

氏は長年情報と戦略を考えてきたひとであるだけに終戦時、戦争継続のための反乱に応じず、部下に射殺された森近衛師団長が、その直前に防空壕のなかで語った言葉を引用して戦わずして勝つ戦略を語り尽くす必要を説いている。

Rev. November 14, 2009


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