読書録

シリアル番号 129

書名

エントロピー法則と経済過程

著者

N・ジョージェンスク・レーゲン

出版社

みすず書房

ジャンル

経済学、サイエンス

発行日

1993/2/25発行

購入日

1993/06/12

評価

エコノミーとエコロジーを統一するオイコノス学の構築をめざす書。エントロピー法則を基軸に展開する経済学批判。 新古典派の経済学は機械論的・無時間的な構成をとっている。これはニュートン物理学、相対論、量子論に相当するもので 、時間を逆転させても成立する方程式群によって成立している。しかし時とエントロピーすなわち資源を加味した経済学はまだない。 その理由はエントロピー法則ないし不可逆過程を前提とすれば未来は予言できないことになり、経済学の価値をなくすと危惧するからである。刊行当時、サミュエルソンは「ニューヨークの摩天楼が砂に沈む頃、一世を風靡するであろう」と評した。当時バブルの頂点にいたがそれでも これは高価な本で9,991円もした。

序章

この本の序章は全編のまとめとなっているが、ここにでてくる珠玉の名言を紹介しよう。

エントロピーは熱力学的確率に等しい。

生命はエントロピーの法則の作用を回避する能力。

生命の存在そのものが、ある系のエントロピーをそれが存在しない場合よりも急速に増大させる原因となっている。

経済過程は生物的過程の延長である。

生物の多様性は組み合わせによる新奇性の発生による。

新奇性は組み合わせによって創造されるものだから、分子の分子としての諸属性を調べても、有機体がどのような振る舞いをするか、あるいはもっと一般的にいって、ある分子が他の任意の分子との関連でどうのようにふるまうかは分かるものではない。(ロジャー・ペンローズは量子重力論が完成すればわかるのではないかと夢想したがこれは間違い)

組み合わせによる新奇性は作用因も目的因もなしに生起する。

人類が将来どんな社会組織を経過するであろうかを社会科学者が予言することができないのも、同じ理由からである。

いかなる社会科学も、例えば物理学が宇宙旅行の技術に貢献するのとおなじほどには効果的に統治の技術に役立つことはできない。

ハロルド・T・デーヴィスはマクロ分析の予算方程式を吟味し、貨幣の効用が経済的エントロピーを表わすことを示唆した。

経済過程は生物過程と同じく否応無く質的な変化をこうむるものであり、しかもこの変化を前もってしることはできない。生命は自らが絶えずしかも再帰不能な形で変化させている環境のなかで自らの存在を継続できるためには、新奇な突然変異に頼らざるをえない。

いかなる方程式体系も進化過程の展開を記述することはできない。もしそれができるというのならば、とっくの昔に、生物過程が最後の審判の日までにたどる道筋を示す広大な方程式体系を作っていたはずである。

経済過程を物質的にみれば、それは低エントロピーの高エントロピーへの、つまり廃物への変換であるから、その上この変換は再帰不能なものであるが、その過程の真の産物が生の享受という非物質的なものの流れであるということは、誰しも異論のない結論である。

ユーラシアの大草原の土壌が消耗して民族移動が引き起こされたのもいく千年もの長きあいだ羊が草を食みつづけたためであった。これと同じ性質をもちながらくらべものにならないほど大きな開発が目下進行中である。耕地に対する人口圧力のため、人間はもはや農業の低エントロピーを伝統的な仕事仲間である役畜と分け合うことはできない。この事実が、農業の機械化となって世界の隅々まで浸透せざるをえないもっとも重要な理由である。

環境汚染の出現が、あらゆる種類の力学モデルで嬉々として遊びこけている経済学をおどろかせたが、経済学者はまだ経済過程のエントロピー的な要素をその経済学に組み込もうとせずまた成功していない。

人間が自然からさずかった持参金は地球上あるいは地球内部の低エントロピーのストックと太陽エネルギーのフローしかないのだ。

第1章 科学ー簡単な進化論的分析

西洋が東洋を植民地化できたのは科学をベースにした軍事力が勝っていたからである。ではなぜ科学が西洋で成功したかといえばたまたまギリシア人が論理で自然現象を整理することにより、膨大な事実をただ分類して覚えるという労力を節約できたからである。これは遺伝子外の偶然に生じる突然変異による進化といえ、そこから西洋文明の有利さが芽生えたのである。

国家の最低限の存在意味は国民を軍事力で守ることであるが、軍事で他国を制するものは必ず軍事で滅びる。いきのこるためには軍事のみにあらず総合力が問われるわけである。戦前の軍人教育は軍事のみに特化した人間に権力を与えた失敗といえるだろう。戦後レジームを脱して戦前に戻ることに夢を馳せているような人物(安倍)に国をリードしてほしくないと思う。

第5章  新奇性、進化、エントロピー物理学からのいくつかの教訓(続)

化学の巨視量の物質の性質のほとんどが化学式に含まれる元素の性質だけからは推論できない。その理由は組み合わせによる新奇性から来ている。

逆に言えば物理学は物質の一様な属性、言い換えれば組み合わせによる新奇性と時間とに関係のない属性のみを研究する学問だったからである。例外は時間をあつかう熱力学と天体物理学である。

第8章 進化 対 移動

科学が進化について最初に語り始めたのが、生物現象に関連してであったから、我々は進化ということばを「不可逆な変化をこうむる1つの系の歴史」と理解する。

第9章 過程の分析的表現と生産の経済学

いよいよ本論である。

Rev. August 4, 2007


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