ピンボケな産業政策と企業経営者
2015年度の財務省の貿易統計によれば貿易収支は1兆792億円の赤字(14年度は9兆1277億円の赤字)となった。年度別の貿易赤字は5年連続。
輸出額はは0.7%減の74兆1173億円だった。鉄鋼や有機化合物、鉱物性燃料などの輸出が減った。対中の貿易収支は6兆625億円の赤字となり、赤字
額は統計を開始した1979年度以降で最大だった。
輸入額は10.3%減の75兆1964億円と、2年連続で減少した。原油価格の下落を受け、原粗油や液化天然ガス(LNG)、石油製品の輸入が大きく減っ
た。一方、医薬品は膨らみ、欧州連合(EU)からの輸入額は過去最大だった。
なぜこうなるかという考察を「文化進化論」のモジュール毎(ホメオボックス遺伝子)に分析し、解決法を模索しよう。
ソフト産業
<C言語>などの高級プログラミング言語で記述するアルゴリズムを論理素子を直接駆動するインストラクション(素子に固有)に変換する言語
はアセンブラーというが、日本で発案されたアセンブラーは皆無。日本産のフォートランやC言語などの高級言語も皆無。要するにこれらの技術の開発センター
は歴史的に日本には無かったし、今後も人の交流もなく、世界言語を持たないので無いということだろう。
<OS>
パソコンをOSから構想できなかった故、マイクロソフトやアップルの同等企業は日本には出なかった。日本初のGUIを持つトロン構想もでたが、米国に気兼ねした経産省の役人が抑えてついえた。
<ブラウザー>
HTML言語で書かれたページ表示ソフトも多数かかれ、最後に残ったものはマイクロソフトとグーグルのものだ。携帯用に日本で開発されたものは国境をこえ
ることはなく、結局ガラパゴス化し、その携帯はガラケーといわれるようになった。
<アプリケーション・ソフト>
CAD、情報システム、汎用物性推算ソフト、シミュレーションソフトなどは米国製が世界を席巻。
<AI>
人工知能(AI)はかって、日本でトップダウンで人間がアルゴリズムを使ってプログラミングしようという国家プロジェクトが挫折した。人間を超えるような
ものは人間が書けるはずはないのだということに気が付かなかった傲慢な思想だったわけ。しかし2006年にトロント大の研究者達がニューロンの回路に模し
た回路(ニューラルネットワーク)に膨大な生データを与えてディープラーニングさせるという手法を提案してから、これがうまくゆくことが証明され、ついに
囲碁でAIが人間に勝つということをグーグルが証明し、自動車の自動運転も射程に入ってきた。日本の貢献はゼロ。慌てた日本政府はAI研究に急遽予算をつ
けたが、時すでに遅く、かってのPVと同じ運命をたどりつつある。
パソコン
とっくに競争力を失ったパソコン部門の赤字を違法な損失隠しをしていた東芝がソニーが切り離したVAIOと富士通のPC事業部と合併したいと申
し込ん話はまとまらなかったという。IBMはとっくに中国に売り渡しているわけでコンパックを吸収した米国のHPが結局2分割されたのを見ても合併してい
いことはない。
私はこうなるだろうとDellに切り替えて10年になるが先見の明があったといえるだろう。またぞろ経産省が税金の投入を画策するだろうが、我々の血税を
ゾンビ・メーカーの救出に
無駄
使いすることはやめにしてほしい。ゾンビはゾンビなのだ。
DRAM製造
ムーアの法則が支配する世界である。有機ELディスプレーデバイスの報道をみてデジャビュ感に捕らわれた一つが2002年にNECが投げ出したDRAM製
造の受け皿企業のエルピ−ダメモ
リーの支援の支
離滅裂も日本の指導層の能力欠陥の特徴的な現象だ。そのとき、NECから社長を就任を依頼された坂本氏は半導体設計のコンサルティング会社であるマイクロ
ンの出資を仰ぎ、米インテルの出資をえて日本政策投資銀行を口
説いて涙金をうけて市中銀行から資金調達を進めた。しかしPCやMainFrame向けDRAM製造に加え、モバイル用機器のDRAM製造で黒字化してい
たが、米国発の金融危機において借り換えができず資金繰りに窮して黒字倒産。「エルピ−ダメモリー
のDRAM事業はうまくいっていた。なにもわからない日本の銀行が運転資金を融資しなかったから黒字倒産しただけ、その証拠に資本をだした米マイクロンは
エルピーダメモリーから膨大な利益を得て、今ではNANDフラッシメモリーで東芝を脅かしているし、ソニーの唯一の技術CMOSイメージセンサーにも手を
だしている。そして2014年にはマイクロンと社名も変えた。
フラッシュメモリー
フラッシュメモリーを発明したのは東芝の舛岡富士雄である。東芝は舛岡を地位こそ研究所長に次ぐ高い地位だが、反面、研究費も部下も付かない技監(舛岡曰
く窓際族)に昇進させようとした。研究を続けたかった舛岡は、何とか研究を続けられるよう懇願したが受け入れられず、1994年に東芝を退社した。その
後、東北大学大学院や、退官後に就任した日本ユニサンティスエレクトロニクス等で、フラッシュメモリの容量を10倍に増やす技術や、三次元構造のトランジ
スタ(Surrounding Gate
Transistor)など、現在も研究者として精力的に研究活動を行っている。舛岡は自身が発明したフラッシュメモリの特許で、東芝が得た少なくとも
200億円の利益うち、発明者の貢献度を20%と算定。本来受け取るべき相当の対価を40億円として、その一部の10億円の支払いを求めて2004年3月
2日に東芝を相手取り、東京地裁に訴えを起こした。2006年7月27日に東芝との和解が成立、東芝側は舛岡に対し8700万円を支払うこととなった。東
芝は韓国のサムスンにフラッシュメモリーの類似品を出され、既に市場コントロール力を 失って久しい。
論
理素子
そもそも集積回路は日本の電卓メーカーがアイディアをだしてインテルが実現したものだ。しかるに日本の半導体メーカーは多量生産に向く記憶素子に向
かい、インテルは回路設計に人手がかかり、量も少ない論理素子に特化していった。PCこうしての論理素子は米国メーカーの独占になった。しかし生産量が小
さい特定目的の論理素子は国内で生産していたが、これも汎用に置き換わってくるしくなった。そして三菱電機、日立、NECの半導体部門が2010年に経営
統合して特注論理素子メーカーのルネサス・エレクトロニックスができた。しかしルネサス・エレクトロニックスの高知工場が
2015/12/1に閉鎖された。
一方、自動運転車に必要とされるAI用論理素子の開発が急速にクローズアップされてきた。その市場規模は50兆円という。現在のフロントランナーはゲーム
用PC
の高速画像プロセッサーなどを供給していた米NVIDIA社である。同社のARM系の省電力統合型プロセッサのシリーズ「Tegra
X1」を2個搭載。並列処理、もしくは2多重に利用できる。Tegra X1は「Tegra
K1」の後継製品で、テラフロップス(毎秒1兆回の浮動小数点演算)を超える性能を有する。これは、かつてのスーパーコンピューターと同等の演算能力に相
当する。GPUの生産は米クアルコム、アップル、英ARMホールディングスなど
の製造ラインを持たない企業(ファブレス)が顧客の半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)に大半を委託している。需要に追いつかず、
日本では一時、入手が困難になった。自動運転用AIでは、半導体の巨人インテルや米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)も覇権を狙ているが日本に
は一社もない。慌てた政府はAI研究の予算を厚くしているが、もう手遅れ。全ての予算配分は文系官僚や経営層が行うため勝敗がわかる段階になってしか取り
上げられないためこうなる。まだ揺籃期にある技術がわかる人間が膨大な資産をもっていて、自らのリスクで投資できる米国のような環境日本はない。日本では
理系の人間は海の物ともわからない新技術に投資できるほどの資産は蓄積できていない。というわけで先端技術は日本をパスするだろう。台湾はただひたすら
ファンドリーに徹し、アップル、やソニーに対抗
して最終商品を売っている韓国企業は結局,、OSが米国依存のため、日本企業と同じ運命をたどるのではないか?
液晶ディスプレー
日本の弱電メーカーはパソコンや携帯メーカーは廃業し、部品メーカーとしてかろうじて生き残っていると
いうのが現状だ。ところがこの部品製造も廃業という瀬戸際に追い詰められている。ソニー、東芝、日立はすでに撤退し官民ファンドの産業革新機構のジャパンディスプレイ(JDI)と統
合。シャープは巨大な亀山の液晶工場を閉鎖すると聞こえてきたが、一時JDIとの統合を視野に調整を進めるという話もあったが、結局、台湾の鴻海に買収されてかろうじて生き延びている。パナソニックは2016/6姫路工場の閉鎖を決定。
液晶の素材はチッソな
どが提供する液晶分子だけになるのか。
有機ELディスプレーデバイス
2015年末になって韓国のLGの有機ELディスプレーデバイスをアップル社がiPhoneに搭載予定という報道が日本のシャープとジャパンディスプレー
にショックを与えてい
る。2002年に日立、東芝、ソニーがディスプレー製造を投げ出し、経産省に泣きついた。経産省は国家予算つかって産業革新機構を中心にして支援してきた
のに肝心の技術開発には金
を配分しなかったツケをこれから支払わされるわけだ。その間にサムスンはELを実用化し、アップルも対抗上LGのものを採用するというわけだ。これが実現
すれば、国家予算を投じたジャパンディスプレーも今死にそうになっているシャープもアウトということになる。シャープは台湾企業の傘下にくだり、ELディ
スプレー開発に向かうのだろうが果たして成功するか?
実はこのLGのELデバイスに使う有機発光物質は出光が開発し、製造しているものだ。有機ELは赤緑青の色を発する有機EL材料を並べることで、カラー映
像を表示できる。画素自体が発光するため、構造が簡単で、発光の効率がよく消費電力も少ない。出光は、'80年代の中ごろから同社中央研究所で有機ELの
研究に着手。LEDと同様、有機ELも青色を発光させるのが難しかったが、同社は'97年、世界に先駆けて青色材料を1万時間発光させることに成功。現在
では発光寿命を2万時間を超え液晶のバックライトの寿命と同程度にまで延ばしている。3兆円の売り上げのうちEL素材などの売り上げは4%程度で大きくは
な
い。でもLE素材の世界シェアは37%だ。
ソニーに素材供与したが経営者に人を得なかったソニーが投げ出し、やむを得ずLGに供与し、工場も韓国に
作った。それが実ったものだという。出光は昭シェルを合併したが、昭シェルが開発した化合物半導体太陽電池は合併とは別枠だとのこと。
量子ドットバックライト付LED
電子励起状態から特定の波長の発光を作り出す、数n〜数十nm径の半導体の微粒子を使うバックライトつきLED。有機ELディスプレーデバイスと同等の色表示が可能。
3Dプリンター
3Dプリンターの
概念を始めて知ったのは仕事で米国出張帰りに乗ったアメリカン航空に機内であった。当時は光硬化性樹脂に光を当てて3D物体を制作する試みであった。あと
でこの概念はそもそも1980年、名古屋市工業研究所の小玉秀男が光造形法を使って発明したものと知った。積層造形法(additive
manufacturing)が主力。1981年11月号のアメリカ物理学会誌「Review of Scientific
Instruments」への投稿などを行うも、一連の発表に対する反応はなかった。小玉が出願した「立体図形作成装置」は研究所内での評価も低く上司が
関心を示さなかったことから自分の研究能力に自信を無くし、研究所を退所。研究者としての未練を断ち切り、弁理士に転身。結局、日本では実用化されなかっ
た。2016年、中国でセメントモルタルにガラス繊維を混ぜたものを大型の3Dプリンターで基礎の上に積層し中空の壁を壁を建て、そこにドアと窓をはめ込
み、屋根を載せて戸建て住宅を作っているのを見た。こうして中国にも追い抜かれている。
PV
そもそもPVはオイルショック後、NEDOの補助金で世界に先駆け、普及した。しかし財務省がその補助金をカットし
たため普及は鎮座。こういう意味で財務省は戦犯。ドイツがFIT制度を制定して普及に成功したのをみて日本もFIT制度を導入したが、日本のシャープなど
の企業にとっては遅すぎ、マーケットで敗退した。結局、中国などのPVメーカーを利する制度になった。こうして日本のメーカーは再起不能となった。
バッテリー
そもそも、バッテリーは携帯電子機器の電源として日本が開発したものである。特にリチウムイオン電池はそうであるが、これをPVと組み合わ
せ
て分散発電に使うと、エジソンが確立した送電網軽油スケールメリットのある巨大集中発電の電力を売るというビジネス・モデルが崩壊する。この配電網と
いう本質的に独占事業である電力業界の既得権に配慮
した行政は完全にバッテリー技術開発は無視している。トヨタも高価なリチウムイオン電池を採用敬遠して、安価なニッケル水素電池とエンジンを組み合わせた
ハ
イブリッド車という折衷技術を開発して進化の脇道に入ってしまった。ところが米国で開発中のEVは巨大工場へ投資して、リチウムイオン電池のコストダウン
を
図り、価格の安いEVを売り出すという王道をとっている。次は家
庭向けのバッテリー市場への進出であろう。これこそ本命。これを使って完全なオフグリッドにすれば、送配電網に必要なコスト8yen/kWhが節約でき、
バッテリーコス
トと送配電コストはほぼ同額となるため、FITによる優遇策がおわってもPVと組み合わせたシステムが爆発的に普及するだろう。残念ながら日本メー
カーは日本の製造技術を使った米国の工場
の出荷コストの2倍もかかっていて、絶望的である。
EVの電圧は日本ではトヨタが採用した200Vだが、ドイツでは業界標準として48Vとして採用した。世界標準争いの勝者はだれか?
水素エネルギー
再生可能エネルギーは電力という形でえられるためバッテリーで車を動かせるため水素燃料を使う燃料電池は不要である。にもかかわらず、政府
は米国が10年前に断念した水素エネルギー開発の旗を10年以上も維持して、補助金をばらまいているが、税金をドブに捨てるな行為だ。トヨタも政府に媚び
るかたで商品化したのは3代の経営トップが文系のためか。
原子力発電
潜水艦のエンジンとして原子炉を使うアイディアを最初に持ったのは米海軍のリッコーバー大佐である。GEとの設計コンペの結果、ウェスティングハウス社の
PWRが採用され成功した。ウェスティングハウスはこの概念を商業発電に原子炉を適用して成功した。後にGEがBWRを開発したが、PWRが圧倒的に多
い。そのウェスティングハウス社もチェルノブイリ事故後、新設がほとんどなくなり経営難になり売りに出された。これを日本の東芝が不当な高額で買い取り、
原子炉は売れず、経営難に陥った。この買収を決断し、買収価格を釣り上げたのは文系経営者である。
GEのBWRは封じ込め能力が低いとされ、世界での普及率は低いが、歴代の文系経営者で固められた東京電力はこれを最も多く採用し、発電所長にも文系を起
用し
て、津波への備えの必要性を指摘した社内専門家の意見具申も握りつぶし結果として津波でメルトダウン事故を起こし、10兆円の賠償責任を負った。にも拘わ
らず、想定外とうそぶき、この
封じ込め能力の劣ったGEのBWRに形だけのフィルターを設置しただけで再稼働しようとしている。使用済み燃料や廃炉したのちの放射能汚染物の保管場所も
きまらず、その保管費用も電力料金
には含まれていない。もし将来、再生可能エネルギーとバッテリーによる分散発電が普及したとき、収入はゼロとなる。文系経営者はこのような可能性をなにも
考えていない。すべ
て想定外で逃げ切るつもりのようで、これは倫理にもとる行為ではないか?
テロリストや北朝
鮮のような独裁国による攻撃に脆弱な原子力は、貧富の差によるテロが増える時代には守り切れない施設である。また大事故の損害が膨大で、かつ、使用済み燃
料保管コスト、廃炉コストなどの未算入こすとを含めれば完全にコスト競争力をうしなったものに追い銭をなげうって再稼働させようとしているし、誘致地方自
治体(福井県、鹿児島県、静岡県)も再稼働を歓迎する首長がおおい。住民もそのような首長を選挙で支持しているのは刹那的現世ご利益亡者と言えるのではな
いか。
プルトニウムサイクル
かって期待された増殖炉や軽水炉の使用済核燃料からのプルトニウム回収、再利用はコストが高く、天然ウラニウムに太刀打ちできない。全世界が撤退したにも
かかわらず、官僚機構は無誤謬前提にこだわってプルトニウムサイクルを捨てない。これは文系官僚の弊害以外の何物であろうか?
化学・医薬品
元三菱化学の文系経営者だった経済友会代表幹事の小林喜光だろう。「火力発電に依存する仕組みは『慢性糖尿病』だ。温暖化を招き、世界は成り立たなくな
る。これに比し、原発事故など『劇症肝炎』みたいなもので一部が瞬間的にやられるだけだ」と政治プロパガンダを繰り返し既得権益を守ることに汲々としてい
る。
経済同友会といえば武田薬品のやはり文系の長谷川閑史社長は新薬開発のリーダーシップをとらず、東京電力の社外取締役となって原発再稼働の旗を振ってい
る。武田はいずれジェネリックを製造するゾロメーカーになり下がり、新薬開発に積極的な塩野義に出し抜かれるかもしれない。
不適任な経営者と政策決定者
シュンペーターは
主著『資本主義・社会主義・民主主義』で、経済が静止状態にある社会においては、独創性あるエリートは、官僚化した企業より、未開拓の分野に革新の機会を
求めるべきであるとした。そして、イノベーションの理論を軸にして、経済活動における新陳代謝を創造的破壊という言葉で表現した。
いかなる企業も、どれだけ長い期間繁栄してきたかとは無関係に、永続的な豊かさを当然視することはできない。消えていった企業としてデジタル・エクイプメ
ント、パン・アメリカン航空、プルマン、ダグラス航空、ペンシルバニア鉄道を思い出すだけで十分。ぼっ興してきた企業群としてはマイクロソフト、デル、
アップル、ヒューレット・パッカード、インテル、オラクル、シスコ・システムズ、アマゾン、グーグル、ヤフーなどがある。
日本では最近、経営者も政府も、新しい技術で生き残るというビジョンを持てないでいる。自ずからは技術革新能力はなく、組織の誰かにさせなければいけない
のだが、その小さな魚を見つける能力がないのだろう。
2007年のパリバショックや2008年のリーマンショック及び2010年の欧州ソブリン危機のようなサブプライム住宅ローン危機に伴う世界金融危機が立
て続けに起こる中で、日本のみが金融緩和政策を執らなかった。結果、諸外国との予想実質金利差が拡大し、交易条件の動きと大幅に乖離した超円高が何年も持
続した。浜田宏一が「日本銀行がエルピーダを潰したと言っていい」と発言してから日銀総裁の首を取り替えたが時すでにおそし。
日本のメーカーのトップも日銀も政府も採用する政策がピンボケで救いようがない。文系エリートが雲の上に君臨する傾向は依然健在で梯子をおりて現場を見な
いた
め、現場の危機を感知していないためだろ
う。最近不動産や株が異常に高騰しているが、これも日銀が低金利策を硬直化しているためではないか?不動産の価格が上がり始めた。これはまた
マネーバブルの予兆?
日本は「世間」という目に支配されている。「世間」には個人の観念はなく、「地位」だけが存在する。また法や契約よりも贈与と返礼による互酬の原理が優越
する。「世間」にしばられているのはどちらかというと文系人士で理系はどちらかというと「世間」は怖くない人間が多い。ところが理系だって「世間」を気に
するという意見もある。だが、「世間」を気にするような人は理系とは言えない。
文化進化論に解答がある
タイミング的には日本もほぼ同じスタートラインに立っていたはずであるのに、なぜ日本ではシュンペータ的創造的破壊をせず、陳腐化した技術体系にしがみつ
くのか?
その原因は「文化進化論」で説明できるのではないか?したがって解決法もこの理論に従えばおのずから出てくる。
まず日本が属する東洋は全体論的思考スタイルが優勢であるにたいし、西洋は分析的な思考スタイルである。全体論的思考スタイルは東洋の集約的農業の結果で
あり、仕分析的思考スタイルは牧畜の影響である。牧畜ではほとんどの時間を一人で過ごすという生活が生み出したものだ。この文化は親から子に垂直継承され
る。
文化において遺伝子型に相当するのは人の脳に蓄積された情報であり、表現型に相当するのは
その情報が行動、発話、人工品として現れたものだ。文化の伝達において複製されるのは表現型のみである。我々は他人の脳をのぞき込むことはできない。でき
るのはその他者の行動、話、書き物でしかわからない。ところ
が世の中を変えるようなアイディアは必ず発想者の脳の中の現象のため、日ごろ、おなじような思考をしている理系同志なら横方向で認識可能だが、そのような
思考訓練をしていない文系の上司に理解できる形に表現するのは面倒で困難。特に企業内の文系と理系という明確な区分があると遺伝子型ベースの相互理解は困
難になり、そのアイディアはそのままの脳内現象とし
てとどまり、組織内に伝播し、共有の理解、組織文化となることはなく、予算が配分されることもない。
日本では明治維新で欧米のシステムに学んで統一国家を作ったとき、国立大学を作って、国家を運営する官僚を養成した。そして法律を中心に国家運営するため
に文系が組織のトップとなる仕組みを作った。欧米の技術をコピーしていた時代はこれがうまくいった。しかし使える技術がなくなるとうまくゆかなくなる。と
いって国家の研究予算をどんなに積みましててもこれは表現型の世界(文系の世界)だから遺伝子レベル(実際にイノベーションする人)でなにも生じない。
すなわち成果はあがらない。私企業はこの文系有利の文化をコピーした。こうして社内が文系と理系の二つの文化にわかれているとすぐ賛成派と反対派に分か
れ、互いに
相手を非難してコミュニケーションが阻害され、組織として機能しなくなり、その企業は衰退にむかう。
創造的破壊が可能となる組織文化は組織内で表現型を経ることなく、遺伝子型のまま直接伝播できる理系が横方向だけでなく縦方向に分布している組織
なのだろう。社会に出る前の教育や学問体系が文系と理系に分かれているのを統一しなければ遺伝子型(脳内イメージ)のまま伝達できるようにならないだろ
う。そして世界をリードする文化はジャック・アタリの「21世紀の歴史」のようなオープンな社会で、かつ世界の英才が集まるような文化の中心となって初めて達成され
るのだろう、スラ
イドも参照。日本にもそういう時代はあった。
原子力問題は倫理問題である。文化進化論によれば、利他的文化を持つ集団がそうでない集団と競争すると、利他的集団のほうが生き残ることがわかっている。
人文科学は個別記述になっていて統一理論のもとに統合されていない。したがってまず人文科学を統一理論で統合し、将来を予測できる学問とし、理系と文系を
統合した数学を取り入れた高等教育を施し、官僚と経営者の必須科目とする。そして機会均等の原則で人材登用を行うことが倫理問題、ひいては原子力問題の解
決法に加え、創造
的破壊で世界をリードすることが可能になる。
December 2, 2015
Rev. June 23, 2016