言語録
シリアル番号
日付
993
2005/9/17
名言
その火を飛び越して来い。その火を飛び越したら・・・
言った人、出典
三島由紀夫「潮騒」
引用した人、他
朝日 be on Saturday 愛の旅人
ギリシアの「ダフニスとクローエ」を翻案して書いた「潮騒」のなかで
伊良湖水道にある神島
の頂上にある監的哨の廃墟で雨宿り した初恵が新治に叫ぶハイライトシーンの言葉。若き二人はそうして結ばれる・・・
朝日新聞に高校同期の劇作家別役氏の新作劇「かぐや姫伝説より」『月・こうこう、風・そうそう』に関してインタビュー記事が掲載されていた。たまたま月末 にこの新作の劇を新国立劇場で観劇することになっていたので興味深く読ん だ。そのなかで「かっての高度成長期は世の中が単純で、不条理劇は書きやすかった。しかし最近は現実のほうがあまりに不条理になってしまい。劇作家は苦労 する。西洋で発達したブラックユーモアは日本では湿度が高すぎる。も少し乾いた日本的なグレーなユーモア、芭蕉の俳句みたいなものをめざしています」と いっていた。女性記者に「恋愛は取り上げないんですか」ときかれ「ないかもね」。ただ三島由紀夫の「潮騒」のような恋愛劇は書いておきたい気はある。との こ と。
三島由紀夫の小説「潮騒」は読んだことはないが、2000年に伊勢巡礼にジープで出かけた折、フェリーが伊良湖岬を出てすぐ左手に神島という島が見えたこ とを覚えている。潮騒のために三島が選んだ舞台だ。そしてTVで見たことを記憶している。「その火を飛び越して来い。その火を飛び越したら・・・」がハイ ライトであった。この小説は4回映画化されたという。TVで見たのはモノクロ映画だったと記憶がある。1954年の第一作はモノクロだからこれだろう。久 保新治は久保明、宮田初江は青山京子、初枝の父親4の持ち船歌島丸の船長は三船敏郎が演じていた。青山京子は後に俳優小林旭の妻と なり引退。1964年の第二作は吉永小百合主演だが、カラーだ。第4作は1975年封切で山口百恵、三浦友和主演で無論カラーだから観たのは多分第一作も のだろう。しかしネット経由でみれるのは第4作の
百恵主演のもの
のみだ。
先に監的哨についてたき火をし、待ちくたびれて居眠りした新司をみて安心した初枝は雨で濡れた衣服を脱いで乾かしていたが、目を覚ました新司に「目を開け てはいかん」とさ けぶ。しかし驚いて立ち上がった新司は初枝が手に持っていたシミューズを「はずしなよ」という。「はずかしいからいやだ」と初枝がいうと新司は「おれもは だか にになるからはずしなよ」という。そうして新司は着衣をとるが、ふんどしは残したままだ。初枝は「まだはだかじゃない」と叫ぶ。新司は「それとったら俺も とる」とさけぶ。初枝はそれをとると、 新司もふんどしを脱ぐ。こうして初枝は「その火を飛び越して来い。その火を飛び越したら・・・」とさけぶ。火を飛び越した新治と初江は裸のまま抱き合う が、初江の、「今はいかん。私、あんたの嫁さんになることに決めたもの」という誓いと、新治の道徳に対する敬虔さから二人は衝動を抑えた。それから幾多の 多難を乗り越えて二人は最終的に結ばれるのだ。
三島が取り上げた「ダフニスとクローエ」はエーゲ海のレスボス島の伸びやかな牧野を舞台に繰りひろげられる神話的・牧歌的な恋愛物語である。2世紀末から3 世紀初め頃の古代ギリシアでロンゴスが書いた。アテネとスパルタがクセルクセス率いる強敵ペルシャ軍をマラトン、テルモプュレー、アル テミシオン、プラタイヤ、サラミスで撃破した
第一次ペルシャ戦争
が はじまったのは紀元前490年であるから8世紀も後のレスボス島が舞台ということになる。ペルシャ戦争後アテネが中心となる軍事同盟、デロス同盟が結成さ れるがレスボス島は軍船の拠出を担当した。ペルシアの軍事的脅 威が薄れたのち、前454年に同盟の金庫はアテナイへ移転された。デロス島の会議も形骸化し、アテナイはデロス同盟の資金や海軍を勝手に流用するように なった。パルテノン神殿の建設といったアテナイの公共事業も、この同盟資金が用いられたと考えられている。こうした「アテナイ海上帝国」の台頭に強い懸念 を抱いたスパルタは、アテナイの専制的支配に対して離反するポリスが現れると、これを支援する姿勢をみせることもあった。こうしてスパルタ・アテナイ間の 緊張が先鋭化し、紀元前431年には両者の対立は頂点に達し、ギリシアの諸ポリスによる深刻な内戦であるペロポネソス戦争が勃発した。紀元前404年、ア テナイの敗北が決まるとデロス同盟は解散した。
ラヴェル もダフニスとクローエ組曲
を作っている。レスボス島はレスビアンの語源となった島でもある。これはペルシャ戦争より更に2世紀まえの紀元前7世紀 にサッポーと言う同性愛者と言われている女流詩人がいたからとか。
「倭国伝」に「火跨ぎ習俗」が記録されているという。これはアルタイル系文化にあるものだという。三島は地中海のストーリーに「火跨ぎ習俗」をさりげなく織り込んだのかもしれない。
Rev. August 4, 2017
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