アラン・チューリングの名 誉回復

 


現代われわれが手にしているパソコンを含む汎用コンピュータなるものは原爆開発に係わり、プログラム内臓型方式 のアイディアを出したハンガリー出身の数学者フォン・ノイマンとドイツのUボートとの交信用暗号マシン、エニグマがつかう暗号キーを解読する機械bombeを開発したアラン・チューリングが考案した仮想機械、チューリングマシだと教科書に書いてあったように記憶してい る。

 フォン・ノ イマンは原爆の放射線で癌になり、死亡したが、アラン・チューリングは英国をUボートから救った救 国の英雄であるにも関わらず、英国が解読に成功したことを秘匿したため、その業績は公になるいことはなく、戦後、コンピュータ開発から故意に遠ざけられ、 かつ、アラン・チューリングの家に入った泥棒の手引きをした同性愛者の少年の告白により、同性愛禁止法令に触れるとして有罪となった。2年間の服役か女性ホルモン療法を選択しなければならなく なったが、コンピュータの研究を続行するため、ホルモン療法を選んだ。これがきっかけで情緒不安定となり、結局、青酸カリに浸したリンゴをかじって自殺し ている。

アップルのトレードマークのリンゴはこの故事に敬意を表したためと言われるが本当はシンプルな林檎の図案の右側に一かじりを加えた。「一かじり」を意味する “a bite” とコンピュータの情報単位の “byte” をかけたのだ。

2009910日、首相のゴードン・ブラウンが、戦後のイギ リス政府によるチューリングへの仕打ちについて、公式に謝罪し、名誉回復した。そしてアラン・チューリングの一切を描いた「イミテーション・ゲーム」とい う映画が作られ、大ヒットしている。

日本では男色なんで昔から皆見て見ぬふりをしてきたわけだが第二次大戦後の英国のようなキリスト教の教えしかない国が法治国家になる恐ろしさが隠された テーマの一つだったと思う。それでも最近の医学の知見でそういう法律が廃止され、名誉回復が行われる復元力を見て、救いがあるなと思った。

私も4月1日、有楽町のみゆき座でこれを見て、こういう映画が作られる英国の風土をうらやましく思った次第。アラン・チューリングはアスペルガー症候だっ たとも言われる人物で孤独を好んだ。クロスワードパズルに異能を発揮した女性ジョ−ン・クラー クを雇う。二人は似た物同志で互いに必要とした関係となった。だが男女の関係ではなく、生涯友人であったという。ジョ−ン・クラー クを演じた助演のキーラ・ナイトレイは昔から好きな女優が今回もよかった。実在のジョ−ン・クラークは地味だったようだが。

映画のもう一つのテーマは英国の没落の原因にもなったことで、「他人と違っている事、そのユニークな才能や考えを貫く事は、文明や社会に貢献する素晴らし いものを作り上げる秘訣だ」ということ。日本も最近、英国病になっているのかなとも思う。米国にはまだこの異質なものを許容する寛容性が残っているからか ろうじてサイエンスの先頭を走っている。

田原総一朗が指摘するように「天才は常に奇人であり、奇人こそが世界を大きく変える。異端を許容する社会かどうかがその社会の豊かさにつながるのだ」とい うことか?

ちなみにエニグマは1918年ドイツの電気工学を学んだアルトゥール・シェルビウス(Arthur Scherbius)よって考案された。それは、15世紀のイタリアの発明者レオン・アルベルティ(Leon Alberti)の多アルファベット暗号の暗号円盤を電気版にして企業化しようとしたもの。発明品にエニグマ(謎)と命名した。ワイヤーで繋がれた三つの 部分よりなる平文を暗号化するスクランブラーがあり、ひとつの文字を暗号化した直後にそれぞれのスクランブラーを26分の1回転させる構造を持っている多 アルファベット暗号を可能とするものでした。3個のスクランブラーを使うと26×26×26=17,576通りの組み合わせが出来ます。5種類のスクラン ブラーを用意しておくと、その中から3つのスクランブラーを選択する組み合わせの数は、5×4×3=60通りあるので、スクランブラーの配線を固定してい ても、17,576×60=1,054,560通りの組み合わせが可能となる。このエニグマ機には平文をキーボードにより入力すると、暗号化された文字を ランプで示すランプボードがある。また、暗号文の受信者は、送信者と同じ設定をされたエニグマ機のキーボードで暗号文を入力すると、平文がランプボードに 現れる。このように暗号化と複合化が同一の機械で可能となった。

ENIGMA は、日本軍の Purple (紫暗号) と並んで最も複雑な暗号と言われ、 ドイツは解読不可能と信じていた。 Alan Turingがイギリス諜報機関に協力して解読を行なったことでも有名で、 最初はリレー式 (Bombe) の、後には電子式の解読装置 (Colossus) が作成され、 ある意味で初期のコンピュータの発達に大きな寄与をした。 (当時の「計算機」のもうひとつの使い道は弾道の計算であった。

イギリス諜報局による ENIGMA の解読は長く極秘とされていた。 Turing らが作った Colossus も存在が公表されたのは 1976 年になってからで、 これが ENIAC に先だつ「電子計算機」であるかどうかで 大議論になったことがあった。

April 2, 2015 


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