恒信風第十号 五十句選より ご意見・ご感想はこちらまで
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音楽に寄りてゆるづく蛇行線

おれがそのぐらじおらすになつちまふ

発達やうちむらさきに兄と義兄

秋麗や葬列は白茶けてゆく

母回転秋の水にはラヂオ澄む

虎落笛姉の口餌やじゆんぐりに

深雪晴君は赤子をかたどれぬ

若水やひかるはあれは肉でなし

朧夜の句点の如く座してゐる

やはらかき殻引き摺つて花疲

歯車や陰画の姉をことごとく

深雪野にふとつたふたりのそつくりさん

冬凪や昼の宝石昼に閉づ

寒天を覚めないゆめのやうに干す

森に入るために出る森雪を踏む

着膨れて殿の純真おもひけり

屋外の赤い記号とシヤボン玉

たんぽぽがのけものの背にびつしりと

夕凪や迷子を連れて帰つたよ

片陰にあのエンジンこのニンジン


帰省して樹の夢をみるひだりめが

夏果てて置き去りの傘集まりぬ

蛍狩名無し男に名づけし名

夏果つる書割をんなの横顔に

かげろふのあはひも青く塗れず紐

屋根裏のりんごのゆめや第二幕

みづいろやまがりみちといふからまがる

ぷちぷちと狐を撃つてゆく怒

海として使ふ左手夜半の秋

元日の夢のかたちの雁擬


はつゆめが白象のごとさはり来る

雪の夜五指でひろげて取り出さず

あおい鳥亡母は囮あおい鳥

友萎えて図鑑は濡れて夏二階

おもかげにきつね重なる頁かな

お遍路やアネモネの夢一列に

蓋取つて赤子泣きぬる天の河

昼顔の真中真昼のこなぐすり

北枕左右の穴に溜まる水

汗疹して役名は女房おふく


巴旦杏めいたまるみや紙つぶて

凶作や黒衣は白衣よりうすし

細紐をわがままにして熱の花

おとうとの人魚膨るるたび嚔

身籠りや地図挿し入れし指の痕

水傍で生まれ変りしものの秋

まなうらの夕焼け袋のごと乾く

みどりの門くぐりし姉の記憶かな

遠くにゐて魚平たく散らかせり

夏果てておとぎばなしの輪廻かな


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