「らぴすらずりIXx」
〜第10回かわさきロボット競技大会大会ベスト16・ユニーク賞受賞マシン
「らぴすらずりIX」 で提案したプロペラ推進をさらに強化したのが 「らぴすらずりIXx」です。 今回は全面的に航空ラジコンの技術を導入することで、 軽量化と推力アップを行いました。

予選では2000年大会の準優勝マシン「女王様」を撃破、 本選ベスト16、ユニーク賞を受賞しました。

「らぴすらずりIX」からの改良点
「らぴすらずりIXx」「らぴすらずりIX(以下LIXU)」の改良・増強版です。 よってどの点が改良され、増強されたかを比較しながら解説するのがよいでしょう。

推力の変更〜ダクテッドファン〜
らぴすらずりIXxでは、 LIXUで採用した「380モータ+ユニオン模型180mm径プロペラの双発」のような常識的組み合わせでは 推力が不足していると判断して、さらに強力な推進ユニットを探すこととしました。 その結果二つの方式が候補に挙がりました。
  1. APCの11×6プロペラ&AXIの2820/10モータと APCの11×7逆ピッチプロペラ&AXI2820/10を組み合わせた二重反転双発
  2. シュベラー のダクテッドファンDS-51-DIA 3phと ハッカーのHBR B50-16Lの単発

図1:ダクテッドファンとプロペラの比較

比較の結果、二重反転双発はプロペラが衝突しそうで怖いこと、 プロペラガードをつけるのが大変そうなことから却下されました。 また通常、プロペラの効率は直径が大きいほど高いのですが、 シュベラーのダクテッドファンは意外と効率がよいこともわかりました。 そこで後者を採用することとしました。

しかしこのダクテッドファンは駆動に20セル(24V弱)が必要であり、 引き抜く電流が40A以上と大きいことから2400mAhのNiCdバッテリーが必要となりました。 軽量で期待されたリチウムポリマー電池は放電できる電流不足のため却下されました。

NiCdバッテリーの重量は1240g。これはマシン全体の重量の36%となり、 「構造重量比」という単語が飛び出したくらいです。

アームの簡素化〜ジェット推進アーム〜
厳密にはLIXUのアームはプロペラの推力で相手を押し出すわけではありませんでした。 相手の下にアームを差込み、従来のエッジ戦法と同様に相手を持ち上げながら押し出しを図りました。 そのため、プロペラは斜め下を向き、アームをフィールドに押し付けるとともに、 相手を押すという二つの働きを同時にしていました。

また、アームの展開は自重で行ったため相手マシンに命中するまでに1秒近くかかっていました。


図2:スローアーム

そこで「らぴすらずりIXx」では、アームの展開方法を根本から見直しました。 LIXUの心理障壁が非常に早く展開していたことに着目して、 この心理障壁と同様の展開機構を持ったアームを作り、 これを相手マシンの上からかぶせることとしました。 東急ハンズで販売されている1000mm長のカーボンパイプを 接着して延長して作ったこのアームの長さは1700mm。 展開機構を含めて2本で260gという超軽量となりました。

また、この機会にカーボンパイプの接着による延長という技術実証を行うことができました。 これでLIXUで問題となった「1000mm超のカーボンパイプはHANDSでは特注となる」 から開放されることとなりました。

このアームは0.5秒弱で展開を完了します(図2a)。 相手を捕らえた後はダクテッドファンユニットを稼動させて、 アームの台座ごと前進して相手を押し出します(図2b)。

ファンの推力のみで相手を押し出すこのアームには ジェット推進アームと名前をつけました。 紹介ページ作成に当たって名前がないと困るので

このアームのもう一つの特徴は、実は閉リンク機構ではないことです。 開リンクの採用で構造も設計も非常に簡単になりました。


図3:ジェット推進アーム

脚と電力系〜航空用アンプの使用〜
足機構はLIXUの補正足先機構をそのまま使用し、 フレームのみをカーボンに置き換えて軽量化するのが当初の予定でしたが、 それでは重量オーバーしそうなことが製作中に判明しました。

そこで軽量化のために脚のモータを駆動するアンプも くらふとるうむの飛行機用アンプとすることにしました。 これによって標準のFutaba S3003+実委支給アンプの組み合わせに比べ、 片足あたり70gが削減できました。 ジェット推進アームに使用したハッカーB50-16Lブラシレスモータも 飛行機用のアンプで駆動したので、 アーム展開用のトリガーを除くすべてのモータが飛行機用のアンプで駆動されることとなりました。

ただし、飛行機はバックしないので、これらアンプに後進機能はありません。 ゆえにらぴすらずりIXxはバックのできないマシンとなりました。

完成したマシン
らぴすらずりIXxは軽量化のために見境なくカーボンを多用したために、 今までのらぴすらずりシリーズと異なって非常に黒いマシンとなりました。 そのため、黒い競技フィールドに溶け込んでしまって写真写りの悪化を招きました。


図4:らぴすらずりIXx (2003年8月24日)

マシンスペック
製作したマシンのスペックを以下に示します。
全長(スタート時) 330mm
全高(スタート時) 約2100mm
「らぴすらずりIX」を抜いて歴代1位
全長(展開終了時) 約2150mm(歴代7位)
全幅 展開前245mm/展開後400mm
重量(バッテリー含む) 3450g(バッテリーを除く本体2210g)
電源 単5アルカリ乾電池4本(制御電源用)
ニッカドバッテリー2本(2400mAh,10セル 主電源用)
動力 コンスタントフォーススプリング2(アーム展開用2)
実委支給ギヤ・アーム展開用サーボモータ
DCブラシレスモータ1(ダクテッドファン用)
所要展開時間 0.5秒弱
歩行形式 補正足先機構を持った180°対向脚2対による4足歩行
歩行速度 約150mm/s

20世紀中は平均年率-4.2%で縮小していた待機姿勢でのマシンの高さは、 2001年の 「保守的らぴすらずりを底として、 21世紀に入ると年率39%の高率で成長に転じ、V字回復を達成しました。 その結果「らぴすらずりIXx」のマシン高さは 2100mmと初めて2000mmを突破し、 史上最も背丈の高いかわさきマシンとなりました。


図5:らぴすらずりシリーズの背丈の比較

試合結果
「らぴすらずりIXx」は2003年8月23/24日に行われた「第10回かわさきロボット競技大会」に参加しました。 試合結果は以下のとおりです。
試合 対戦相手 結果
予選第1回戦 単色ぱんだ スタート直後に相手をコーナーに押さえつける。
押さえ込み一本勝ち
予選第2回戦 女王様 相手とスタック30秒で水入り。
修理後、相手をロープに押さえつける。
押さえ込み一本勝ち
予選第3回戦 寿 スタート直後に相手をコーナーに押さえつける。
押さえ込み一本勝ち
本選第1回戦 趙呉級公明 ジェット推進アームで押さえ込むことに失敗。
押さえ込み一本負け
スタート直後に相手をコーナーに押さえつける。
押さえ込み一本勝ち
ジェット推進アームから逃げる途中で相手がロープに二回接触。
あわせ一本勝ち
本選第2回戦 馬場鮫 走行審査中に右足が故障。
11条違反負け

「らぴすらずりIXx」は「らぴすらずり」の名が付いたマシンとしては初めて、 予選をストレートで突破し、本選に出場しました。 予選2回戦では2000年大会の準優勝マシン「女王様」と対戦して、 これを破りました。この時部品の一部が飛散するという事故を起こしました。 幸い負傷者は出ませんでしたが、安全性に対する考慮が不十分であった事が 判明しました。

そこで安全性を考慮した形で若干の設計変更を行って翌日の本選に出場し、 本選1回戦ではもっとも不得意とする形状の、 フルカウリングマシン「趙呉級公明」と対戦しこれを破りましたが、 本選第2回戦で右足がこの期に及んで故障するというトラブルに見舞われ、 走行審査を突破できず敗退しました。

最終成績は201チーム中ベスト16。ユニーク賞を受賞しました。

マシン総括
「らぴすらずりIXx」は、 大会関係者・関係者以外にも大きなインパクトを与え、 大会終了時の指導講評では佐藤実行委員長にマシン名を挙げて紹介され、 あるいはオーム社発行の「ロボコンマガジンNo30」にも大きく掲載されるなどしました。

また「らぴすらずりIXx」の本選出場によって、かわさきロボットコンテストに しばしば見られる、「オリジナリティのためだけのオリジナルマシン」「勝つための定番マシン」かの不毛な二者択一だけでなく、 「オリジナルマシンによる勝利」の第三の選択肢があることが 具体例を以って示されました。

ラグオ電工は今後もマシンの安全性の確保に努めるとともに、 独創的なマシンの開発で、 かわさきロボットコンテストの発展に寄与します。

マシン略歴
2002年10月 「らぴすらずりIXa」「らぴすらずりX」の構想設計スタート
2003年3月 2台製作は困難と判明。「IXa」「X」の構想を統合して「らぴすらずりIXx」スタート
2003年5月 製作開始
2003年6月上旬 当初企画のジェット推進アームの展開方法に問題が発生。
設計変更して「IX」の心理障壁を応用することを決定
2003年6月中旬 シュベラーのダクテッドファンの使用を決定
2003年8月23日 第10回かわさきロボット競技大会予選をストレートで突破
2003年8月24日 第10回かわさきロボット競技大会本選参加。
ベスト16・ユニーク賞
2003年10月25/26日 ロボット技術研究会の工大祭展示に参加
2004年5月 「らぴすらずりX.5」作成のために解体、マシン再利用

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