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Tron

現在使われているパソコンのOSは、ほとんどWindows。

MacOSなどもあるが、ほとんどはWindowsである。

ただし、これはパソコンの場合の話し。

実は、パソコン以外の、組み込み用OSには、純国産のOS「TRON(トロン)」が広く利用されていることをご存じだろうか。

TRON は、1983年頃、坂村健教授(当時は東京大学助手)が提唱して開始された日本独自のOS開発プロジェクトだ。

TRONとは「The Real-Time Operating System Nucleus」の略である。

日本語でいうと「リアルタイムで機器を作動させるOSの中心部分」という意味になる。

坂村教授は電球から人工衛星まであらゆるモノにコンピュータが入り込み、ネットワークでつながると予想していた。

それぞれの機器に組み込まれたコンピュータの動きを統一するために、OSを標準化させる、というビジョンを提示したわけだ。

このような考えは、現在では「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)と呼ばれ、すでに広く実用化され始めている。

つまり坂村教授の発想は30年以上前、未来を先取りしていたという事になる。

一般的には分かりやすく『どこでもコンピュータ』という言い方で表現されていた。

こんなに優れたOSのTRONプロジェクトだが、発足当初から悲劇に見舞われる。

1985年の日航ジャンボ機事故で犠牲になった方の中に、「TRONプロジェクト」を手がけていた天才エンジニア17人が乗っており、全員亡くなった。

TRONプロジェクトは「どこでもコンピュータ」実現のため、6つのサブプロジェクトに分かれて進行していた。

たとえば、

I-TRON(アイトロン)は、家電機器や産業ロボットなど、あらゆる機械で使用する組込み用OS。

B-TRON(ビートロン)は、ビジネス・事務処理向け、現在で言うパソコン用のOS、というように。

B-TRONは先進的なOSで、当時のOSの多くが文字でコマンドを入力する方式だったのに対し、B-TRONはマウスを使ってアイコンをクリックしソフトを起動する、今のパソコンと同じ方式をすでに実現していた。

1986年、旧通産省や旧文部省は、日本の学校教育用標準OSとしてB-TRONの導入を検討すると発表する。

このニュースは大きく取り上げられ、NEC以外は、多くのパソコン・メーカーが次々に参入した。

NECは、マイクロソフトのOS「MS-DOS」を使ったパソコン「PC98」シリーズで、すでに成功を収めていたからだ。

NECは、教育用パソコンの標準化自体にも反対の立場だったが、最終的には、MS-DOSでもBTRONでも動くパソコンを作ることで合意した。

しかし、この話はうまく進まなかった。

小学校の教育用パソコンへTRONの導入が決まりかけていたとき、アメリカからスーパー301条に引っかかるとして圧力がかかる。

1980年代後半は、日本の経済力が急激に伸びた時期で、アメリカとの貿易摩擦問題が発生していた。

この動きに当然、トロン協会はアメリカに対し文書による抗議を行なった。

その結果、1年ほどしてTRONは制裁対象から外れるが、メーカー100社近くがTRONから手を引くことになる。

厄介なゴタゴタに関わりたくなかったということだろう。

結局、実際に学校教育で導入されたのは、PC-9801をはじめとするMS-DOS搭載のパソコンで、TRONは排除されてしまう。

TRONがパソコンOSとして普及するチャンスはここで潰されてしまったことになる。

しかし、6つのプロジェクトの中で「I-TRON」は現在でも生き残って発展している。

I-TRONは、「家電機器」「ロボット」などに組み込むコンピュータ用のOS。

I-TRONには2つの仕様があって、

大規模組み込みシステム向け「ITRON2」

小規模組み込みシステム向け「μITRON」(マイクロアイトロン)

このうち、μITRONは省エネ・高速処理に優れ、様々な機器に採用されて搭載数世界一のOSに成長を遂げる。

μITRONはここまで発展できたのは、1つに「仕様が無償で公開されて」「誰でも自由に入手でき」「自由に変更を加えることができた」という点にある。

もう1つは、メモリ(記憶容量)が小さく動作速度もそれほど速くないシステムに最適なOSだった。

現在では、アメリカの電気電子学会IEEEによるリアルタイムOSの国際標準規格になっている。

また、世界各国でリアルタイムOSの教科書として採用もされているようだ。

前回お話しした宇和島の嘉蔵さんをはじめ、まだまだ日本は捨てたもんじゃない。そんな事例はたくさんある。

2020/07/31

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