日経サイエンス1996年4月号


テロメアとガン

C. W. グライダー/E. H. ブラックバーン



染色体末端にあるテロメアDNAは単純なヌクレオチド配列の繰り返しであり,複製による染色体の短縮や他の染色体との融合を防ぐ役割をしている。

 テロメアの重要性は半世紀以上前から指摘され,1970年代に入ってJ. ワトソンが,DNAの末端を維持するための複製機構の必要性を唱えた(末端複製問題)こともあり,テロメアの重要性が強く意識されるようになった。1978年,ブラックバーン(著者のひとり)らのグループは,ついに原生生物テトラヒメナでテロメアDNAの構造を決め,この構造がほとんどの真核生物に共通であることが明らかになった。その後,テロメアDNAの修復を行う酵素テロメラーゼの存在が突き止められ,現在,テロメアは細胞の増殖や不死化の研究の焦点になっている。

通常,体細胞はテロメラーゼをもたないため,テロメアの反復配列は細胞分裂のたびに短くなり,限界まで短縮すると分裂停止のシグナルが出て細胞は増殖できなくなる。これに対して,ガン化した細胞にはテロメラーゼ活性があることがわかった。ガン細胞が無限に増殖できるのは,限界を越えた短いテロメアがテロメラーゼによって細胞分裂のたびに修復されるためと考えられる。

 通常,体細胞はテロメラーゼをもたないため,テロメアの反復配列は細胞分裂のたびに短くなり,限界まで短縮すると分裂停止のシグナルが出て細胞は増殖できなくなる。これに対して,ガン化した細胞にはテロメラーゼ活性があることがわかった。ガン細胞が無限に増殖できるのは,限界を越えた短いテロメアがテロメラーゼによって細胞分裂のたびに修復されるためと考えられる。