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●「ウオーキング」 基礎編
97/04/26 東京夕刊 スポーツ面 09段
ウオーキング、始めてみませんか? いつでもどこでも、ひとりでも手軽に  

 ゴールデンウイークがやって来た。若葉が目にまぶしいこの季節、体力づくりに、シェイプアップにと、何かスポーツを始めるのには持ってこいだが、「激しいスポーツは、ちょっと……」という人に、ウオーキングはどうだろうか。一見、単純だが奥が深く、だれでもできるスポーツとして人気が高まっている。(土田 浩平)

 ウオーキングとは、「歩く」こと。単純そのものの「歩き」が今、どうして人気を呼んでいるのだろう。

 八〇年代に世界的に健康ブームが巻き起こり、いろいろな競技スポーツの見直しや、エアロビクス、フィットネスなどジムで行うスポーツのブームが起こる中、最後に残ったのがウオーキングだった。

 野球やサッカーなどの競技スポーツは、同レベルの仲間たちが何人も集まらないとできないし、それなりの場所も要る。ジム・スポーツは会員制や登録制だったりして、費用もかかる。これに対してウオーキングは、「いつでも、どこでもできる手軽さがある」と、健康増進の歩け歩け運動を全国で進めている社団法人・日本歩け歩け協会の伊藤良一事務局長は言う。

 ジョギングにも同じ手軽さはあるが、ウオーキングはヒザ痛などのスポーツ障害が起きにくいのが人気の一つ。足にかかる重さの負担が、ウオーキングでは体重の一・五倍と少ないのに比べ、ジョギングでは三倍近くと、衝撃で足首やヒザを痛めやすい難点がある。

 ウオーキング人口の増加は、数字の面からも明らかだ。同協会によると、昨年一年間に全国で二千以上のウオーキングの催しが開かれ、延べ約七十万人が参加している。それぞれ、毎年一割ぐらいずつ増えて来ているという。

 総理府が九五年に発表した「体力・スポーツに関する世論調査」の結果でも、「一年間に行った運動・スポーツ」として、国民の約四人に一人がウオーキングを挙げていた。

 とはいえ、ただ歩いているだけでは散歩と変わりがない気もする。そこで、トレーニング・スポーツとして登場して来たのが「エクササイズ・ウオーキング」だ。

 同協会主任指導員の奥野清歩さん(47)によると、普通の人の歩く速さが時速四キロ程度なのに比べ、エクササイズ・ウオーキングは速い人で同六、七キロで歩く。慣れてくると時間や距離の調整も本人次第で、週末にまとめて十時間歩いたり、休憩を交えながら一日に四十キロ以上歩いたりするのも苦にならなくなるという。

 奥野さんは、「最初から時間や距離を意識することはありません」と話し、「無理をせず、自分の生活習慣に合わせて、周りの景色を楽しんだりしながら歩くのが、長続きするコツ」とアドバイスしている。

 ◆「歴史の道」体験ウオーク マイペース19キロ難なく 

 ウオーキングを知るには実際に歩くのが一番と、先日、千葉県袖ヶ浦市内で開かれた「鎌倉街道を行く」のイベントに参加した。

 主催は千葉歩け歩け協会。袖ヶ浦に鎌倉街道というと妙に思う人もありそうだが、一一八〇年(治承四)、平家打倒のため上総(かずさ)で挙兵した源頼朝が鎌倉に府を置くべくたどった時の道で、昨年、文化庁の「歴史の道百選」の一つにも選ばれている。

 選ばれたのは、市原市から袖ヶ浦市にかけての約九キロ。野や畑を抜けて行く道は、今ではすっかりアスファルトで固められ、往時の面影はほとんどない。それでも所々に昔の道標などが残る道を三キロ挟んだ十九キロのコースを歩いて、歴史の一端に触れようというのが今回の企画だった。

 当日は早朝から小雨模様で、残念ながら予想した三百人にまでは至らなかったものの、県内外から百七十人が出発地点のJR内房線・長浦駅前に集まった。係の人のコース説明と軽い体操の後、雨がっぱに傘をさして歩き始めた。

 参加者は四十歳以上の中年世代が中心だが、人によって歩くペースが違うため、初めから整然とした縦隊が続いた。盛んに両手を振って歩く人もいれば、友人と語らいながらの人もいて、思い思いにウオークを楽しんでいる。

 横浜市鶴見区の会社員内野健一さん(46)、文子さん(47)のように他都県から夫婦で参加した組もある。健一さんは、ウオークを始めてまだ一年。太り過ぎが気になってジョギングをしていたのが、ヒザに痛みが出て転向した。「こうしたイベントは周りの自然や文化施設を楽しめるようコースが組んであることが多く、すっかり“アル中”(歩き中毒)になって」と笑う。

 週末は近隣のイベントに必ず参加。夫婦でこの一年間に計二千キロ以上を歩き、おかげで急な坂道でも息切れしなくなったという。

 いきなり十九キロを歩こうとすると腰が引けそうだが、約四十分歩いては十分休む繰り返しのため、初心者でも難なくついていけた。中年太りの体はすぐには軽くならないが、翌日も疲れは残らず、これが長続きする理由だと思った。

 ◆ブーム受け学会旗揚げ 硬軟とりまぜ研究発表 健康維持には「1日1万歩」

 昨今のブームを受けて、「歩く」をキーワードに社会学、医学、スポーツ工学などさまざまな分野の研究者が集まった「日本ウオーキング学会」が、今月二十一日に旗揚げした。発足記念の第一回学会は東京・本郷の東大で開かれ、硬軟とりまぜての研究発表が行われた。

 その中で、基調講演となる話をしたのが、健康スポーツ科学を専攻する東京学芸大の波多野義郎教授。ウオーキング研究の第一人者で、「万歩計の普及と活用法」と題した講演では、アンケートや歩数計も使った調査を基に、すっかり歩かなくなった現代人に、歩くことの大切さを易しい言葉で訴えかけた。

 同教授によると、電車やバス通勤の会社員は一日に少なくても八千八百歩歩くが、マイカー通勤の人では最低三千三百歩、送迎の車がつく重役クラスの人では最低五百歩しか歩いていないという調査結果を披露。健康維持に必要な「一日一万歩」を守るために、皆が歩数計を付けるようにし、自分の基礎歩数を知った上で、ゴルフでも散歩でもいいからもっと歩くべきだと提唱した。

 同学会会長の宮下充正・東洋英和女学院大教授は、「異なる分野の研究者たちが研究成果を持ち寄ることで、お互いに刺激を受けることができ、一般の人も参加できる開かれた学会を目指したい」と、新学会への期待を語っていた。

 ◆なぜ、一日に一万歩が必要なのか

 一九七〇年代末、米スタンフォード大学のパッフェンバーガー教授が、「週に二千キロ・カロリー以上の熱量を消費する運動習慣を持つ人は、平均一・三年、長生きする」との学説を発表。二千キロ・カロリーを日割りにすると約三百キロ・カロリーで、時速五キロの速さで歩くと三十歩当たり一キロ・カロリーが消費されることから、「一日一万歩」が目安となった。携帯に便利な歩数計は七〇年代初めには発売されており、相乗効果で普及した。

 ◆「より速く」目指せば… 競歩競技 広がる裾野

 「究極のウオーキング」と言えるのが「競歩」だ。

 いわゆるウオーキングと競歩との違いは、「より速く」を目指すかどうか、ヒザをちゃんと伸ばしているかどうかだけ。競歩の普及に取り組む人たちは、ウオーキングブームが競歩の底辺拡大につながればと期待している。

 住都公団職員の白井一夫さん(48)も、その一人。選手時代には日本選手権で何度も優勝、一九八〇年代を通じての五万メートルトラックのアジア記録保持者で、この三月まで日本陸上競技連盟の競歩部門の強化委員を務めていた。

 「以前は陸連でジュニアの強化合宿を募ると十数人しか集まらなかったが、今では百人以上の申し込みがある。少しずつ裾野(すその)が広がっています」と、白井さんは目を細める。

 そういう白井さんも、初めから競歩の選手だったわけではない。高校時代は卓球選手でいながら、ずっと屋外競技にあこがれていた。それが高校卒業後、公団に勤めてから、外国競歩選手の分解写真を本で見て、「国内の競技人口は少ないはずだし、ひょっとして一番になれるかも」と、民間のクラブに入って始めたという遅咲きの口だ。

 白井さんによると、ウオーキングではどんなに速く歩いても時速七、八キロだが、競歩のトップ選手は時速十五キロは出す。歩幅も、ウオーキングが身長マイナス九十センチなのに比べ、競歩では背の低い選手や女性でも最低百十センチの大またで歩む。「歩くというより、腰を回転させて進む感じ」だという。

 〈3つの基本〉

 ◆背筋をスックと姿勢よく 両ヒザ伸ばして踏み出し かならずカカトから着地

 奥野清歩さんに、ウオーキングの基本テクニックを教えてもらった。

 ポイントは三つ。一つめは姿勢良く背筋を常にすっくと伸ばしていること、二つめは歩き出す時に両ヒザをぴんと伸ばすこと、三つめは必ずかかとから着地することという。

 具体的には、足をぴんと伸ばしてかかとから地面に着け、回転させるような感じでつま先に滑らかに重心を移動させる。残った方の足は、親指の付け根の所に力を入れて、地面をけり上げるようにする。歩いている時は、背筋は伸ばしながらも、肩だけは力を抜くようにする。

 「歩き続けて、もし疲れたりどこかが痛んだりしたら、それは姿勢が悪いから。続けてみることで、だれでも正しい歩き方を習得できますよ」と、奥野さんは言う。

 さあ、あなたもウオーキングを始めてみませんか。

 〈みずウオーク’97〉

 川辺を歩き、水に親しむウオーキング大会として人気が広がる「みずウオーク」(読売新聞社、日本歩け歩け協会主催、建設省など後援)が、今年も各地でスタートしている。首都圏の利根川や荒川、北海道の石狩川に沿って、川風に吹かれながらウオーキングを楽しむ家族向きのイベントで、来月以降秋まで、以下の大会が予定されている。

 【利根川】5月17日=栗橋・大利根、6月1日=渡良瀬遊水池、8月31日=大間々、10月5日=水上、11月16日=佐原、同30日=取手、【荒川】7月6日=秋ヶ瀬、9月28日=葛西、【石狩川】9月28日=札幌

 問い合わせは読売新聞事業開発部((電)03・5245・7093)へ。


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